Episode-3 組織‐VEIDO:ヴェイド(B)
3
「Versus
Evil
Isomer
Defense
Organization。
対悪異性体防衛組織。組織名はその英語名の頭文字からとった略称です」
美天の視界を閉じるアタッチメントが取り外されたのは、VEIDOが拠点とする要塞に入り、出入口がふさがった頃。
何時間も意識のある中で暗闇に閉じられた視界。それが開かれれば、目が痛くなるだろうと思っていたが、基地内の廊下は薄暗く、開けられたばかりの視界にはやさしいものだった。
どうやら、この基地は都外にあるどこかの湖底に造られている巨大要塞らしい。
「この日本には、VEIDOの日本支部が三つ。北東部、中央部、南西部に拠点が存在し、今私達がいるのはVEIDO-J:SECT1……つまり、日本支部本部に当たります。我々VEIDOは、この拠点要塞の事を「ジャスティスフォートレス」と呼んでいます」
「ジャスティス……フォートレス?」
「ええ……。しかし
「それぞれの役割?」
「最前線で戦う部隊である
「記憶処理……」
「失礼、語弊がありました。もちろん、あなたが受けた物は特例。イービル振動波を検知したため、記憶処理も兼ねて行う必要があったので。普段は、その現場で記憶処理を行います」
「あの、私ってどこに入るんですか?」
「それはまだ分かりません。あなたには二週間から一ヵ月間の研修プログラムを受けてもらい、そこで適性を測りますので」
適正といわれて、その時自分が何が得意だったのかを思い返す美天。
そうなったとき真っ先に思い返すのは学校の授業だ。美天は体育は得意だ。やったことが無いスポーツでも体を動かしている内に順応してしまう程の運動神経と運動能力を持っている。
勉強自体はあまり得意ではない。特に英語。最も、喋る事も聞くことも出来るのだが、読めない書けない。美天は昔アメリカに住んでいたことがあるのだが、読み書きが出来るようになるまで暮らしていたわけではないので、特に受験用の英語は嫌いだった。
勉強が苦手で運動が得意。
そんな人間は、前線に出るしかない。としたら、NWCになるのかもしれない。
薄暗い廊下を歩き、エレベーターの前に辿り着く。
管理官は下矢印のボタンを押す。
ずっと考えていた。NWCに入ったら、今度は自分からあの異形に立ち向かうことになる。
そんな、浮かない顔を浮かべている美天の様子を察した管理官。
「どうしました?」
「……いえ」
そこで、どうも踏ん切りがつかなかった。
「後戻りするなら、今の内ですよ」
「え……?」
「こちらは誘っただけ。力を持てるから敵の脅威になる事が出来るからと言って、力を手にしなければならないということは無い」
車の中でも言っていた。「入らないという選択肢を消したくない」と。引き返すという選択肢があるのだ。誰かのためになりたいと願っても、それが自分の命と引き換えになってしまうかもしれない。まだ思い残していることが多い中、その覚悟が出来ない。
「あなたがVEIDOに入るか否かを決めるのは、あなた自身です……」
「決めるのは、私……」
引き返す――
そんな選択肢を選びそうになる、
その時、ポケットに入っていた携帯が鳴った。
「あっ」
マナーモードにするのをすっかり忘れていた。
まずかったかと管理官の方を見やると、「どうぞ」と示すようにうなずく。
美天は携帯を取り出し、ディスプレイに映された着信先を見る。相手は瑠奈であった。それを確認した美天は通話をつなげる。
「もしもし?」
『美天! どこにいるの? 何で早退していなくなるのよ!』
「いや、ちょっと用事思い出しちゃって……」
『用事って、明日じゃダメだったの?』
「いや、別にそうじゃないけど……すぐじゃないと忘れちゃうなって――」
『もう……。なるべく早く帰ってきてね? 夕飯作ってるから』
「うん……分かった……」
そんな短いやり取りの後、通話は切れる。
携帯をポケットに仕舞い、「あの……」と美天は管理官の顔をうかがう。その管理官は笑顔を崩す事も無く、
「ルームメイトが心配してましたか?」
「はい」
「では、判断はまた後日にしましょう」
「ごめんなさい……」
「焦る事はありません。こちらの準備は既に整えられています。あとは、あなたのご意志のみ。続きはまた後日にいたします」
「でも――」
「ここですぐに帰ってあげなければ、彼女が不信に思うでしょう。我々の存在を悟られないためだと思って、今日はお引き取りください。次からは、ルームメイトにも要件を伝えていただければ、このような事はならないでしょう」
「分かりました……」
「帰りの車を手配します」
エレベーターに乗る事も無く、管理官と美天の二人は来た道をまた戻ろうとする。
その時、ちょうどエレベーターが到着したようでポーンと音が鳴り、ドアが開いた。
「…………ッ!? 嘘……」
それはあまりにも不意に訪れた、出会い。
見まがうはずも無かった。
深い青が掛かったロングヘアーを一房結った髪型に、女優やモデルを思わせる端正な顔立ちとスレンダーな体つき。
深海色の瞳と目があったとき、
「霧咲……七瀬……?」
「……? 君は?」
テレビで何度も見たことがある顔を見て、美天はその少女の名を口にした。
だがその当の霧咲七瀬本人は首を傾げている。
憧れの人物が目の前に現れて聞かれた事に返す言葉を失っている。いつまでも答えないので七瀬は美天をジャスティスフォートレスまで案内してきた管理官の方を見る。
「管理官?」
「彼女は立花美天。あなたの高校の後輩で、我々VEIDO-Jの新入隊員候補です」
「……ッ、高校生を!? 何故そんな――ッ!」
「素質があるから、と、言っておきます。これは、レイコネクターからの指示なので」
「レイコネクターの……。またそんな――ッ」
「高校生だからと言いますが、それはあなたも。そうでしょう?」
「私は……」
「さあ、もうすぐ作戦の始まりですよ? 早く、皆の所へ行ってください」
「その少女は?」
「彼女はもう帰る所です。返答はまた後日伺う所です」
「…………失礼」
七瀬はエレベーターのドアを閉めエレベーターは下の階へと降りて行った。
「さて、もう出ましょう」
と、管理官は美天の前を歩こうと――
「あの、さっきのは?」
「はい」
美天はその後をついて行くことは無く、ようやく口を開いた。
「さっきのは……。何で、あの人が?」
「何故と……聞かなくとも分かるでしょう。彼女も我々の仲間です。そして、ライブギアをその身に纏う最高戦力でもあります」
「ライブギア?」
「我々はそう呼んでいます。光に選ばれ、そしてその光を纏いイービルを討つ力を持つ者、これらはキャリアーと呼ばれ霧咲七瀬はそのライブギアのキャリアーなのです」
「光を纏う……」
その言葉のみが美天の頭に残る。
美天をイービルから救ってくれた女性。確か、その女性も光を纏っていた。
(あれも……ライブギア……)
4
作戦エリアに向かう途中――
『作戦に一部変更があります』
「変更?」
それはレイコネクターである椋良からNWC隊長の三守への通信で判明したことである。
夜空の中に、人の目に映らない物が亜音速で空を切り裂いて飛んでいる。
NWCはジャスティスフォートレス内に格納されている小型変則戦闘機、レイドフォーミュラで現場へと出撃する。
『囮は使用しません』
「……ッ!? 何故そんないきなり?」
『先日、マザー体が地上に出現したため、こちらで位置を補足することができました。そちらの端末のマップに座標を送ります。そこに、マザー体がいるはずです』
「しかし何故? まさか、自らが捕食を?」
『いえ、もっと別の理由かと』
「別の理由?」
『先日の事を覚えてますか? 民間人を襲っていたであろうイービルの分身体が、何故か消滅していた』
「ええ。だが我々や、ましてや番組に出演していた七瀬ではない…………。まさか……」
『ありえない話ではないでしょう? ライブギアが新たなキャリアーを選別した、なんて』
「だとしたら、七瀬を今回の編成に組み込むのは……」
『ご心配なく。もしマザー体のイービルが地上に出て来た原因がそれだとしたら、前日の戦いでライブギアは消耗しているはず。今日、戦闘に出ることは無いでしょう』
「だといいんですが……。この事は七瀬には?」
『もちろん内密で。この事は、他に管理官しか把握してませんから』
「了解」
そうして、二人の通信は切れる。
すぐさま、他の隊員に伝えるべく三守はNWCへと通信をつなげる。
「総員、作戦変更の指示があった。囮は無し。マザー体を直接叩く」
『そんな、いきなり!? というより、場所分かったんですか?』
「そうらしい。着陸態勢に入れ」
レイドフォーミュラ各機は低空飛行へと移り、滑走用の車輪が機体の下部ハッチから出てきて、道路上へ――
すると、戦闘機の形状をしていたレイドフォーミュラは変形を始め、道路に車輪が着いた頃には自動車に変形していた。
三守が搭乗するレイドフォーミュラコマンドが先頭を走りその後ろに、レイドフォーミュラアサルト、レイドフォーミュラスナイプと、続く。
作戦エリア内に入るとその周辺区域で停車させ、NWCの四人が降り、NWCの各隊員は装備を持つ。
そして、スナイパー機からもう一人。
今回のイービル掃討に於いて要となる七瀬が降りたった。
この七瀬にだけにはジェネクスの事を知られるのはまずい。マザー体のイービルが潜伏した理由がどうか「ジェネクスのキャリアーが撃退したから」という事で逢ってほしいと願うばかりだ。
「隊長?」
「……?」
そうしていつの間にか七瀬の事をじっと見つめていたようで七瀬に呼ばれてようやく意識が戻った。
「ああ、すまない。
よし、行くぞ」
隊員たち全員を見渡し、そして口にした言葉。
五人はインパルスフォーサーに送られてきたマップを頼りに、マザー体の潜伏地点へと向かう。
一歩踏み出すごとに、殺気が近づいてくるのが分かる。
残り七〇メートル、三〇メートル――
そして夜の暗闇に包まれた森林の奥深く、作戦区域内に入ったとき、インパルスフォーサーが反応を示した。
瞬間、
地から無数の蔦や蔓が這い出、地面が爆じけ飛んだ。
大穴が空き、そこに現れたのは体長が二メートルを超える全身に蔦や蔓を纏うずんぐりとしたコードネーム【サンシード】と名付けられたイービルが出現した。
「人の臭いを嗅ぎつけたか」
杉下の言う通り、
出て来るや否や、サンシードは甲高い鳴き声を上げて獲物を捕らえようと
蔦の腕を無数に伸ばす。
捕らわれれば一撃。
触れることすらいけないというのにそれぞれの一撃は弾丸程であった。
「「「「「――ッ!」」」」」
だが先読みしなければ躱せない一撃を五人全員が躱し切る。
ヘルメットのARモニターにてイービルの行動の先読みがなされているので出来る業であり、七瀬には、イービルの動きが見えている。
「掃討せよ!!」
五人が散開するその時、戦いが始まり――
NWC四人のセライヴィムランチャーの銃口がフラッシュを放ち、弾丸が撃ち放たれる。
全身を覆う植物の鎧が爆ぜ、引きはがされていくもすぐに再生。
だが間違いなく攻撃の手を止めている。
「七瀬今だ!」
攻撃の手が止まれば、七瀬が変身する隙が生まれる。
三守の合図に七瀬は頷き、左腕に青色のブレスを付け、そのブレスに短刀状に作られた結晶を差し込んだ。
結晶とブレスは光を放ち、七瀬を覆う。
光の中――
蒼い閃光が飛び交う中、
七瀬の両腕両脚に青色に発光するクリスタルがはめられた白いアームが装着され、全身に白と黒を基調色とした戦装束が纏われ、青色のラインが幾重にも走る。
そして両耳にかけられ、頭に装着される青いヘッドギア、そして胸に盾をもした青に光る菱形のランプが装着され――
(今こそ、剣を抱き、悪を滅す――ッ!)
それは、弱い自分を斬る心。そして今は亡き相棒との約束。
「……ッ、ハッ!」
腕のアームから一太刀引き抜きそれを薙ぐ。
光は払われ、七瀬は戦女神の姿となり闇に立った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます