Episode-3 組織‐VEIDO:ヴェイド

「きれーい……」

 首から下げていたペンダントに見とれる瑠奈。

 教室の窓から差し込む日の光が反射して青白い輝きを発している。

「これ、行ったレジャー施設でもらった奴?」

「ん、うん、まあ……」

 出来れば見せびらかしたいと思いたくは無かった。が、瑠奈が気付いたのだ。恐らく、いつも間近で美天の事を見ていたからであろう。首から何か下げているという事に気づいて、今に至っている。

「いいなぁ……。だったら私も行けば良かった……」

「…………」

 ダメ、と口から洩れそうになって寸でのところで抑える。

 その瞬間、イービルの事を考えてしまう。何がきっかけで口から特定の言葉が漏れるか分からない。

 抑え込む、何を考えているのかを悟られないように反応を返さないといけない。

「まあ、昨日だったから貰えただけだし……」

「昨日だったから?」

「いや、そうじゃなくってっ!? えと、その……」

 何とか、話を昨日何が起きたのかとならないようにする。

「た、担当の人と仲良くなって、その縁でもらったんだよ」

「ふーん……」

「で、その人、昨日で辞めちゃうらしくって」

「それで貰ったんだ」

「う、うん……っ」

 何とか笑顔を繕う美天。

 もはや、これ以上は我慢できない。精神的に追い詰められているのが自分自身でも分かってきた。

 しばらくペンダントの結晶を眺めた後、瑠奈がそれを美天に返すと、

「ちょっと、トイレ行ってくる」

「え、うん」

 等と、適当な理由で席を外れる。

 教室から廊下をたどり、お手洗いに入るまでの時間がいつもより早く感じた。それだけ、美天は瑠奈から離れたかったのだ。

 水で顔を洗い、洗面台に手を着く。

 瞼を閉じて考え込み、ため息を吐く。


――無茶はするなよ? 抱えきれなくなったらその分だけ、俺も背負って、考えてやる。

 一晩経って、その言葉がむしろ美天の心を苦しめる。拠り所が欲しいという心頼。


――バラせば、その話を聞いたお友達や親類方も、昨日あなたがされた様な事をされるまで。

 一晩経って尚更、その言葉が美天の心に突き刺さる。絶対に知られてはいけないという守秘。


 二つの出来事と言葉の板挟みで、美天の心はまた追い詰められる。息も苦しく、声も喉を通らない。正直、これ以上瑠奈の前には居たくなかった。何がきっかけで瑠奈が美天の異変を知ってしまうのか。それが怖かった。

「どうしろって……」

 助けを求める事も出来ず、美天の心は独りであった。

 そんな状況を変えたいと思っても変えられない。

 美天は首に下げているペンダントを首から外して眺める。

(こんなもの……捨てちゃえばよかったんだ)

 何を思ったのか、捨てずにいた。

 何を思っていたのか、首から下げてしまった。

 管理官と言われていた男の言う通り、大事にしてしまった。何かのせいにしたい。こうなってしまったのは。

 もういっそのことトイレにペンダントを流してしまおうかと――

「…………」

 思って輝きを眺めていると、その気が失せる。まるで「やめろ」と結晶に言われているようで、躊躇いが生じるのだ。

 そんな、皆の為自分の為でやりたい事が正反対になってしまっている。美天は頭ではだめだと分かっていても首に下げてしまって、服の中にしまった。


「バカだ……私……」

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