Fatal Round (3)


 人の生首というものを、こんなにまじまじと見るなんて、生まれて初めての経験だった。

 想像していたよりも精悍せいかんな顔立ちをしているな、なんて場違いな感想が最初に浮かんだ。だが実際、彫りは深く整った鼻筋に、意志の強そうなはっきりした眉毛、肌は浅黒く短髪で、スポーツ選手だと言われれば信じそうな顔つきだった。目と口が閉じられている為、まるで眠っているみたいだ。

 首はちょうど喉仏の下をラインにして綺麗に切られており、血が出ていないのが不自然なくらい……、ん?


「なんだこりゃ!? これ、どうなってんだ?」

オニマサさんが確認のために手に取ると、そう声を上げる。


 そう、メイジさんの頭は、何故か首の断面が真っ黒に塗りつぶされていて、オニマサさんが黒い面を軽く叩くと、コンコンと硬い音が鳴った。そこだけ見ていると、まるでマネキンの頭にも思えてくる。

 ましてや、オレはメイジさんを直接見たことがないので、誰かが悪趣味で用意した偽物に見えてきた。


「これって、本物のヒトの首なんですかね?」

「俺は残念ながら、検死とかに立ち会ったことはないが、肌の質感や口内の歯並び、瞳孔の開き具合を見るに、少なくとも作り物じゃないと思うぞ。」

オレの問いに対し、オニマサさんは一つ一つ確認して答えてくれた。


「ウメコさん、貴女が最後に見られた男性は、この人に間違いないですか?」

「た、多分同じ人よぉ……。」

ウメコさんはずっと目を背けていたが、ちらりとこちらを見て確認する。


「あまり晒し者にするのも不憫ふびんだ、しまっとこう。」

そう言って、メイジさんの首は、再びオニマサさんの手で箱に戻されたのだった。




「…………、正直、こんなん見るまでは、『ドッキリでした~』とかならへんかなって思ってたんですけどねぇ……。」


 全員元の席に戻り、それぞれ押し黙る中、チュウキチさんがポツリポツリ話し出す。


「メイジさんがあんなんなって、レイナ姉さんはどっか消えてもうて、ボクらも何やかやおんなじ目に遭うんちゃいます?」

「おい、ユキチ君。 滅多な事は口にするもんじゃない。」

「せやかてオニマサさん、さっきの部屋と同じパターンですやん! しかもメメの奴は、9問『クイズ』するうたんですよ?

 それって、ボクら9人を、一人ひとり殺すって事なんじゃ、」



!! 黙らんかいッ!!!」


オニマサさんは、チュウキチさんの発言を掻き消す様吠えた。



「俺らが焦っても仕方ないだろ? 見ろよ、子供たちがビビっちまってるじゃねえか。」

「いえ、それはあなたのどなりごえにきょうがくしただけですよ。」

ユアラちゃんがしれっと突っ込む。


「とにかく、今は冷静に行動しよう。

 この大広間の扉は二つしかないんだ。 なら、そこから出たって可能性もあるだろ?」

「もう一つ可能性はあるわ。」

ずっと黙っていたアリスが、ここで口を開く。


「最初の部屋みたいに、隠しルートがあるかも知れないじゃない。」

「そんなら、二手に分かれるのはどうです? ボクら男性チームで部屋の外を、女性チームで部屋の中を調べてみましょ。」

チュウキチさんがそう提案する。


「よし、それで行こう。 じゃあユキチ君、ユウキ少年、あとキングの坊主もついてきな。」



 こうして、オレ達4人は大広間の外に出ることにした。





 部屋の去り際、キング君はパソコンにこう打ち込んで、オレに見せてきた。


『カミヅキ、お前はあの老婆が「実行犯」だと思わないか?』

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