Second Round -Left side-

第5話 Second Round -A- (1)


 二つに分かれた分岐点。二つに裂かれた誓い。二つに一つだけの結果。


 だからこそ、二択というのは美しい。









Second Round Start.




 ドアを開けた先は、とても殺伐としていた。


 とにかく最初に目に入ってきたのは、天井から突き出ている、無数の刃物。イメージでいうなら、地獄の針山地獄を逆さにして、この部屋の天井に張り付けたような危うさ。正直、怪しく光る刃を見てるだけで、さっさとこの部屋を抜け出したくなる。


 次に気になるのは、床に書かれた大きな『』のマーク。外のドアとおんなじように、こちらも赤色のペンキで描かれていて、その赤が血を連想させ更に陰鬱な気持ちになる。


 そして、やっぱり真正面にはディスプレイが、今回は壁に埋め込まれて設置してある。それ以外はほかに物などは見当たらないし、非常に殺風景な部屋だった。



「クイズが始まる前に、君らにお願いしときたいことがあるんだ」

オニマサさんは部屋に入ると、そう切り出した。


「まあ見ればわかると思うが、俺は頭を使うタイプの人間じゃない。そして、次ミスしてしまえば、自分が小指を無くした理由を知ってしまうかも知れない。それが、とても怖いんだ。

 だから、回答するときには、二人の内どちらかに頼みたいんだ」


「ボクは別にかまいませんけど、アリスちゃんはどうなんかな?」

チュウキチがそう返事したので、私も、

「オニマサさんがおっしゃるなら、責任持ってやらせてもらいますよ」

と答えた。


「いや、本当にすまん。本来こういう時は、大人が率先して行動するべきなんだが……」

「気にせんでいいですよ。そん代わり、もしボクらがヤバなったら、助けて下さいね?」

「ハハッ、助けるときは、レディーファーストってやつだろ。ユキチくんは自力で頑張りな」

と、ここでようやっとオニマサさんに笑顔が戻った。やるじゃない、チュウキチ。



「まあとはいえ、めちゃめちゃ物騒な部屋ですよねぇ……」

 チュウキチの云うとおり、ずらりと並んだ刃がこちらを向いていて、防ぐ物も隠れる場所も無い。広さも最初の部屋と同じくらいだし、仕掛けも何もあるようには見えない。


「まるでダモクレスのつるぎね」

ふと思ったことを口にし、

「なんです、ダモなんとかの剣って?」

チュウキチが耳ざとく尋ねてくる。


「ダモクレスね。簡単に説明すると、昔、ディオニュシオスってぜいを極めた王様と、ダモクレスという部下がいたの。ダモクレスは王様っていう権力をすごく羨んでいて、少しでも近づきたくてディオニュシオスを褒め称えたのよ。

 すると後日、王様はダモクレスを豪華な宴に招待してもてなしたわけ。ダモクレスはいい気分になって、ふと天井を見上げたら一本の剣が細い紐で吊るされてこちらを向いていたの。

 ディオニュシオスは、王様という立場が、実際はどれほど危ういものかを分からせる為に、敢えてそんなことをしたんだって」


「へぇ、なんていうか、深い教訓があるようでないような話ですねぇ。だって、いくら口では分からないだろうとはいえ、別に普段から剣を吊るしてるわけでもないでしょうに」

チュウキチはいまいちピンとこない様子だったが、


「嬢ちゃんの話はつまり、偉くなればなるほど安泰どころか、むしろ命を懸けていかなきゃならないってことじゃねえのかい?」

と、オニマサさんが要点をまとめて言った。



「そういうことですね。まぁ要はって意味です。まさに、今の状況そのものでしょ?」

 私がそう話を締めた瞬間、ディスプレイから音が聞こえだした。



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