Interval Round (5)


~お婆さんの場合~

 ひとまずアリスはレイナさんの所に放置して、一人でお婆さんの方に向かった。

 見た目は非常に上品で、生地の良さそうな紫の着物に濃紺の帯。足元は白い足袋に下駄を履いており、白髪を結い上げてかんざしまで刺さっている。

 口元と目元はずっと微笑んだまま、どこか遠くの方を見つめていた。

 こういっちゃなんだが、この人も厄介そうだ。


 なんせこの人、先ほどのだから。


「初めまして、カミヅキユウキと言います」

「あら今日こんにちは。あたくし、マツタケコウメと申しますの」

良かった、どうやら思ったより普通そうだ。


「マツタケさんですか、よろしくお願いします」

「あらやだ、そぉんな他人行儀な言い方しなくても、ウメコさんで結構よぉ」

「あ、はい、でしたらウメコさん、貴女はどうやってここに来たか覚えてらっしゃいますか?」


「?」

聞こえていないのか、ウメコさんは首をかしげるだけだった。

「あ、すみません、覚えてませんよね。実際オレも覚えてませんし……」

「いえいえ、今日の話でしょう? 勿論覚えていますわよ」

「えっ? ほんとですか!?」


なんだ、ようやっと一つ手掛かりが手に入りそうだ。

「今日はいい天気でしたわねぇ~。ところで、あなたお名前は?」

「ん? えーっと、ややこしかったですかね? ユウキです」

「あら今晩こんばんは。あたくし、マツタケコウメと申しますの」


あれ、雲行きが怪しくなってきたぞ?

「あ、はい、お名前は伺っていますよ? ウメコさんですよね?」

「あらお友達でしたかしら? なら気安くウメちゃんでいいのよ?」

「いえいえ、ウメコさんと呼ばせて頂きますよ。で、聞きたいことがあるんですが……」

「あらあらぁ、どうぞどうぞぉ。あたくしの話でよかったらいくらでも。

 ところで、申し訳ないんだけど、どちら様かしら?」


…………、こりゃだめだ。

「ちなみに、あたくし、マツタケコウメと申しますの。ウメ先生って呼ばれているのぉ~……」



~女の子の場合~

 さて、ウメコさんとの自己紹介も終わり(?)、残る一人である女の子を探すことにした。何故なら、その子はオレ達が大広間に来てからもずっと、走り回って遊んでいるからだった。今見渡してみると、どうやらレイナさんの近くで床に座り込んで、何やら遊んでいるようだ。

 ちなみに、レイナさんはいまだにアリスと言い争っている。いつまでやるつもりだ、あの二人。


 その子はいわゆる園児服を着ていた。上は水色の長袖シャツ、下は紺のスカート。黄色い帽子を頭に被り、左胸に大きな名札がついている。

「やあ、初めまして。お嬢ちゃん、何してるのかな?」


 声をかけると、少女はこちらを見上げた。くりくりとした瞳に真っ赤な頬。三つ編みの幼い顔がぬいぐるみのようで、何とも愛らしい。その子は口を開き、


「ひとになまえをたずねるときは、まずじぶんからなのるものではないのかな?」

と言った。え、何だって?


「いや、ごめんごめん、その通りだ。オレの名前はユウキっていうんだ。よろしくね」

「まあ、よろしくするりゆうは、かいもくけんとうもつきませんが、れいにはれいをつくすべきですね。なはサトウユアラです」


 頑張れ、負けるなオレ。

「そっか、ユアラちゃんか~。そういえば、さっきまで何してたの?」

「ゆってもわからないかとおもいますが、きんねん、『じゅうりょくは』がかんそくされましたので、アインシュタインの『いっぱんそうたいせいりろん』について、しらべなおしていただけです」


 よし、何を言っているのか理解できない。オレはどちらかというと、文系な脳みそなのだろう。

「やはり、レベルがちがうとかいわがむずかしいですから、かまわなくていいですよ。くうきくらいはよむつもりですから」

そう言ってユアラちゃんは、オレを無視してまた何か続きを床に書きだしたのだった。




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