最終章Ⅰ 最後の力(前編)

かなり多くの数の人間が怒号を上げて自分を通り過ぎていく。


今、淳は病院にいた。目を覚ますと廊下に寝っ転がっていた。


淳にとって何が何だかよく分からなかったが後で医者に聞いた話だと隆が倒れてる所を発見し、この病院に運び込んだという。だが、黒い巨人のようなUBのせいで街は混乱に陥り、今や病院は人で溢れかえる事態となっていた。


ベッドも空いてるところはなく、血だらけの病人ですら廊下にシートを引いてそこで寝ながら苦しんでいるという状況だった。


「ここは・・・・地獄だ!」


つい声にだして今の状況を言ってしまう。だが、何故この状況になってしまったかはよく分かっている。


自分が負けたからだ。


初めての敗北を味わった。自分が負けたという事で多くの人が犠牲になるということは分かってはいたがここまでまじまじと見せられると・・・・。


「僕のせいで・・・・!僕のせいで・・・・!」


涙が止まらない。不意に溢れ出した涙の粒一つ一つがこの戦いで犠牲になっていた人の供養になるとは思わなかったが、それでも流す他無かった。


「目が覚めたか!」


後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。


声の主は隆だった。


「こっちもてんやわんやでな。近くの病院も全部こんな感じだ。」


隆はカメラを片手に様々なところを回っていたようだ。その証拠に服が中々の汚れ方をしていた。


「見るからに記者の仕事をしてきたようですね。」


「まあそうだな。俺の仕事は例え残酷であれ、真実を報道する事だと思っている。」


おそらくカメラのデータの中には今回の出来事が克明に記されているのだろう。


「ここで話すのもなんだ、一旦外に出よう。」


隆の言葉に誘われとりあえず外へ出た。




「お前が戦ってる間、負けて寝てる間、様々なことがあった。」


「まず多くの死者がでた。街は壊れ、様々な物が姿を変えた。」


隆は淡々と喋る。


「黒い巨人のようなUBはお前を倒した後どこかへ消えた。」


そして最後に隆は驚くべきことを口にする。


「signalが敵の攻撃を受けて壊滅した。」


え?


「もうsignalはない。黒いUBの火球攻撃を受けて爆発した。つい先ほど消化活動を終えたらしいが生存者がいるかは分からん。」


隆の言葉は淳にはあまりにも衝撃が強すぎた。


「俺たちがバイクに乗って向かう時にUBが攻撃したんだろう。お前の責任ではないよ。」


signalが無くなると言うことは淳の帰る場所が無くなったということになる。自らを実験体、モルモットとして扱っていたあの場所も唯一の帰れる場所であった淳にとってはかなり辛いものであった。


しばらく二人は言葉が出なかった。


「隆さん。」


先に沈黙を破ったのは淳だった。



「なんだ?」


「実は僕、あの戦いの後、巨人とまた会ったんです。」


「あの白い空間でか?」


「はい。」


淳は巨人に言われた「人が存在するようにUBも存在する」という旨のことを話した。淳にはこの話を理解出来なかったのだ。


「人が存在するようにUBが存在する・・・・か。」


隆は淳に言われた言葉を深く考える。


「俺たちが死んでも、人類が生きながらえていく限りUBは生き続けていくということか・・・・?」


これはあくまで隆の解釈だが巨人の言葉を最大まで要約するとそうとしかとれなかった。


「じゃあ僕は何の為に戦ってきたんだ・・・・?」


淳はその言葉を聞いて顔に陰りを見せる。


「淳・・・・。」


隆は彼の絶望的な表情を見たが、かける言葉が見つからなかった。


ジリリリリッ!


突然、けたたましい警報音が病院内に鳴り響く。


「数時間前に姿を消した黒き巨人が現れました!病院内にいるみなさんは至急、避難してください!繰り返します・・・・」


警報音の後の男の声のアナウンスが絶望を知らせた。


「淳!黒い巨人が現れた!次こそは勝ちに行くぞ!」


隆は淳の肩をポンと叩き、病院内を出る。


緑の芝生が辺り一面が広がっており、生命の力強さを感じさせた。


だが、淳は怯えていた。


そうである。淳はもう一度青い巨人に変身すれば死んでしまうからであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る