第38話 黒い巨人 

拓也は研究室から送られたレポートを手にとって読んでみる。


自分の姉が死んで(この表現が正しいのかどうかは分からないが)そろそろ4時間半が経過しようとしていた。


「判定不能・・・・。」


その数枚の紙の報告書には先ほど回収した自分の姉の砂について書かれていた。


砂の物質は様々な検査にかけられたがどの判定機械もこの砂がどのような物質かを見抜けなかったのだ。報告書の最後には「この世の物質ではない」なんて書かれている始末であった。


他にもこの事件の関連性のあるものとしていつぞやの妹思いの少年の出来事が書かれていた。死んだハズの妹を思ういい少年であった。


記述に関しては薄い描写だけであったが確かに今回の件と切っても切り離せない


「こんなのじゃ話にならんのだよ。」


報告書をポイと無造作に自分の机の上に置く。こんなものが何の役に立つのか・・・・・。


けたたましくサイレンが鳴り響いた。UBの登場を示すサイレンであった。





そして外では新たなUBが現れ街を荒らしているところであった。


「そろそろ淳が到着する頃合か?」


今いるsignalの自室の窓から街を見てみる。まだ青い巨人は現れていない。


「あいつはまだこないのか!何をのろのろしている!」


しまいには舌打ちをしてしまう程怒りはあった。グズグズしている暇は無いのだ。あいつしかこの世界をUBから救えるのはあいつしかいないのだから・・・・。


「人型のUB・・・・。黒い。」


自室の窓から見えたUBはこれまでの動物的なイメージが全くない人間的なシルエットであった。体の色も真っ黒であった。


「まるで青い巨人を黒く染めたようだな。」


顎に手を置いて考える。少し似ているだけだがもしかするとこの2つの巨人は関係があるのではなかろうか。それだけではない。これまでのUBの件だってそうだ。なぜ巨人とUBは対立しているのか。理由は分からなかった。


だが今窓から見える青い巨人は黒い巨人とその仲間のUB・・・・。


そこまで考えた所で目の前の黒い巨人のUBは右手に青い火球を作り出し、その火球をとある方向へと投げつけた。


その火の玉はsignalの研究所へと直撃した。


燃え盛る研究所。逃げる暇など無かった。


山は燃える。研究所は燃える。





「やっと着いた・・・・・!」


淳は学校から避難する他の生徒から逆行するようにUBの方へとたどり着いた。


「黒い巨人・・・・?」


初見の感想はそれしか出てこなかった。シルエットも似ていれば目元も似ているように思えた。


「まるで兄弟みたいだ・・・・・。」


そんな事を考えている場合ではない。


「巨人!僕に力を!」


少年の身体が青く光り輝く。少し恐怖に怯えながらも少年はそれに立ち向かっていく。





バイクから飛び降り、俺はカメラを構える。


「隆・・・・!隆、俺は大丈夫だ。」


体が震えたが、俺は自分の名前を自問自答した。黒い巨人にしか見えないそれは青い巨人を彷彿とさせ、今まで味方であったものを敵なのではないか?と認識させるには十分であったのだ。


「相手の方が何枚も上手だというのかよ!」



戦いが始まり2分が経つとペースがどのようなものか素人でも見ていてわかった。


青い巨人の攻撃はことごとく黒い人型のUBにカウンターされるが如く裏目に出ていたのだ。


青い巨人が右でパンチを繰り出せばそれをかわされ、腹に蹴りを一撃食らわされ、口からまかれる火炎放射で炙られる。






青い巨人と黒い人型のUBが戦闘を始めて5分が経とうとしている頃。青い巨人は相手にパンチ一発ですら攻撃できていなかった。


あまりにも一方的すぎた。


黒い人型のUBは青い巨人の右肩に飛び蹴りを食らわせる。


かなり遠くへ飛ばされ、ドン!と衝撃と共に背中が地面につく。


右肩を抱えながらよろける青い巨人。肩で息をしていた。


それでも青い巨人は立ち上がる。フラフラと立ち上がったその姿からは今まで見せてきた強さというものはあまり感じられなかった。


先程から一方的な状態だったからか青い巨人はまともに立ってすらいなかった。


それでもなんとか持ち直し、肩で息をしながらも臨戦態勢を整える。青い巨人の体にHP表示があればもう体力はミリ単位しか残っていないのだろう。


それをみた黒い巨人は両手を胸の前に構え、ファイティングポーズをとるが・・・・。


「・・・・!」


俺は今まで見たことのない光景を見ることになる。


「青い巨人が倒れて動かない・・・・?」


青い巨人は力を失ったように倒れ込み、粒子となって空に舞い姿を消した。


「青い巨人が・・・・いや、淳が敗れた・・・・!」


黒い巨人がまるでKO勝ちしたように街をリングに勝ち誇っていた。

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