第27話 苦さと甘さ
何キロ遠のいたのだろうか?少なからずとも先ほどの風景は全く見えない。はぁ・・・・はぁ・・・・。体は休むことを要求している。
僕、結城淳は今という現実から逃げているという意識はどこからかあった。
僕はあの場から逃げた。怖くて逃げ出したのだ。
頭に隆の言葉が駆け巡る。
-だからこそお前はその親御さんには謝って・・・・多分信じてもらえないと思うけど・・・・。あと謝ってもどうにもならないかもしれないけどさ・・・・でもお前は罪は償わなくてはならないんじゃないか?-
「黙れ!うるさい!」
目の前には何もないのに手で払いのける動作をしてしまう。
「うるさい!あいつらが悪いんだ!なにもかも!」
熱い!助けてくれ!男子生徒二人の体が焼けていく。死にたくない!そんな言葉も聞こえた。
目は瞳孔を開き、極限の状態にあった。
だが、聞こえるものは幻想でしかなく、淳の罪深さをより明確にした。
「消えた・・・・」
苦しんでいるうちにその幻想は何事も無かったように消え失せた。
あの時の光景が蘇る。人の命はもろく、あっけなかった。
「僕は・・・・」
手は汗でぐっしょりと濡れ、服は体にひっつくほどの汗をかいていた。思い出すだけでこれだけの思いをしてしまうものなのか・・・・。
「淳!おーい!」
後ろから僕を呼ぶ声が聞こえた。
「美智子ちゃん・・・・」
振り向くと僕の彼女、美智子ちゃんがいた。
「ちょっとどうしたのよ?汗だくじゃない?」
どうやら僕は端から見ても相当な汗をかいてるみたいであった。
「ちょっと運動しててね。」
適当な嘘をついて見せる。
「あんたがそんな汗だらだらにしてまで運動するなんて珍しいわね~。それもこんな真冬に。」
美智子ちゃんの純朴すぎる返し方に少しだけ心を痛めてしまう。
美智子ちゃんはいきなり「あっ!」と何かを思い出したような反応した。
「そう言えばあなたにプレゼントがあるの!」
美智子ちゃんは自信げにそう言うと手に持っていたバッグからマフラーを取り出した。
「これ!プレゼント!」
え?突然のことに僕は驚いてしまう。今までそのような事をしてないし、されてもなかったからだ。
「そろそろクリスマスじゃない?彼氏に手編みのマフラー位はあげたいじゃない? 」
かなり照れて美智子ちゃんは言う。唇を手袋で隠す。その姿は可愛かった。彼氏という人種の特権なのだろう。少しばかりにやけてしまう。
「ばっ、バカ!笑うな!」
美智子ちゃんは顔を真っ赤にさせていた。
「ありがとう・・・・」
僕はそう言って、気がついたら彼女を抱きしめていた。
「ちょっ!?えぇ?!えぇ?! 」
彼女もいきなり抱きつかれて慌てふためいている。
驚いたのか10秒もしないうちに僕を突き放してしまった。
「私達まだ早いよぉ!」
かぁーっと完熟したりんごの様に頬を染める美智子。恥ずかしさの極みともいえるような表情をしていた。
「ご・・・・ごめん・・・・。」
2人照れくさそうに地面を見る。ただのコンクリートも少し光って見えた。
だがその時、ドン!と二人の照れくささを引き裂くようにあまりにも大きな物音が鳴る。
キシャァァァァァァァ!
上を見上げるとそこにはUBがいた。
「か・・・・怪獣・・・・!」
光線を放ち、我が物顔でこの街を闊歩するUB。
ズシンズシンと大きな足音がよりUBの巨大さを増させた。
その光景を見た美智子ちゃんに先ほどの赤いりんごの頬はなく、恐怖で顔が青く染まりつつあった。
「に・・・・逃げなきゃ!」
美智子ちゃんは僕の手を引っ張り避難所へと連れていこうとする。
「ごめん、僕は避難所へは行けないよ。」
僕は美智子ちゃんの手を振り解く。
「な、何?こんな時に馬鹿な事言ってるの?」
美智子ちゃんの言ってるように僕も逃げたかった。だがそれは出来ない。
「今、僕は美智子に返すプレゼントは無いけど・・・・君が明日も笑ってられるように今から頑張るよ。それが僕からのクリスマスプレゼントのお返しでいいかな?」
「な、何言ってるの?」
僕には戦わなければならない理由ができた。それは彼女を守ること。そして彼女が明日も笑って生きていけるような世界を作ることだった。
「君には本当の僕の姿を見て欲しいから・・・・」
僕は首にぶら下げていた青いブレスレットを外す。
「巨人!僕に力を!みんなの明日の笑顔を守る力を!」
大空にブレスレットをかざした。ブレスレットが強烈な青い光を放ち、美智子は瞳を右手で隠してしまう。
光が終わり、美智子は隠していた右手をどけると目の前にはまるで大きな足のオブジェのようなものがある。それは人の何倍もある。
そして上空を見上げる。
「巨人・・・・?」
「淳は巨人だったとでも言うの?」
美智子は巨人を見上げて言う。
巨人は美智子を一瞥し、UBに立ち向かう!
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