第26話 向き合うという事。
「すまないな、折角の休日に呼び出してしまってな。」
そう言った俺の口からは白い煙が少しばかり出る。秋も終わりに近づき、気温は低くなり、こたつとみかんが恋しくなる季節に移り変わろうとしているところであった。
「いえ、気にしてないですよ。僕も暇でしたし。」
そこに到着したのは淳だった。淳は走ってきたので白い煙を俺より多く出していた。
彼はきちんと見なければならない。自分が行ったことを。もちろんいい意味でも、悪い意味でも。
「今日は少しばかり取材に付き合ってもらおうかな。と思ってね。」
はぁ・・・・とだけ淳は返す。
「そんなに怖がらないでくれよ。今回の取材は巨人のことを住民の皆さんに聞くという趣旨の簡単な事なんだからさ。」
「その取材に何故僕が同行するんですか?」
淳からの質問に
「俺はやっぱり本人の刺激に少しでもなればいいかな?とも思ってたりしてね。」
彼には自分向き合ってもらう。今日で俺がどんな悪魔になろうとも。これからの取材はそんな意味を込めていた。
「じゃあ時間も迫ってきたから行こうか。」
俺は淳を誘導する。
「巨人は私達一家を助けてくれたんですよ!怪獣の進行方向に私たちの家がありましたが、それに立ち塞がり、怪獣と戦ってくれたんです!これは神の御加護・・・・いえ、巨人の御加護があったからこそです!」
一人目に取材した村山さんはそう答えていた。彼女のその輝く瞳には巨人しか映っておらず、淳と俺など眼中に無い。という風に思えた。
「あなたの目の前に巨人がいたりしてね。」
なんて俺が返すと村山さんは「冗談はおよし」と笑った。本当に目の前に巨人(淳)はいるのにも関わらず。まあ淳が今から変身でもしなければ信じはせんだろう。
「我々はあの巨人は神が仰せつかったものと考えております。」
取材した、二人目の男性、大倉さんはそんなことを喋る。
「あれはまるで神々と悪魔の戦争。あの怪獣は悪魔でして、巨人という神に抗い・・・・」
長すぎて俺は途中までしか聞いてなかったが要は巨人と怪獣の戦いは神々の世界の聖戦なんだ、地球という場所が戦いのリングになっている、という自論を立てていた。
「例えば巨人は本当に人間だったとしたら・・・・?」
なんて俺が質問すると
「バカいうな!あんな誇り高い神が低俗である我々人類なわけ無かろう!」
そこそここっぴどく叱られてしまった。
この他にも本当に多くの人間に取材したが、やはり巨人は偉大だ。と一言で括ってしまえばそんなものだった。そして誰も「巨人は元は人間」なんてものを信じなかった。
そして淳も少し晴がましい顔をしていた。まあこれだけ誉めちぎられたら誰もがニヤついてしまうものか。俺も淳だったらニヤついてたと思う。
朝方から始まったこの取材も夕方になり、実働時間は8時間を超えようとしていた。
「あと一件だ。これさえ終われば今日の取材は終了だよ。」
俺の言葉で安堵する淳。まあこれだけやれば疲れてはくるかもしれない。
だが、最後の一件は淳にとってはとても辛いものになる。
「最後の一件の方のお宅だ。最後のお二人はこの家に集合して貰ってる。」
赤色の屋根をした家屋。普通の一軒家という言葉がそのまま当てはまるように思えた。
インターホンを押し、部屋に入る。
そこには二人の婦人がいた。
40歳位の女性だった。
リビングに案内され、俺と淳を含めた4人はテーブルを挟んでソファに座る。
「すいませんね、こんなお忙しい時に取材なんて・・・・」
俺はそう言うと同時に名刺をテーブルを置く。
「僕は小倉新聞の大久保隆です。隣のは今回取材に同行させた結城淳です。」
ペコリと淳は挨拶を済ませる。
「これはまたご丁寧に。私の名前は澤井よしえ、隣が大谷礼と申します。」
目の前の婦人が挨拶した瞬間だった。淳がいきなり震えだした。膝の上に拳を載せ、震え、そしてこの短い時間で異常な量の汗が出ていた。
「う・・・・うわあああああ!」
ついに淳は頭を抱えだす。そして何かから逃げるようにその場から逃走した。
「おい!どうしたんだよ!」
瞬く間に玄関を通り抜け、外に脱走していく淳。俺はそれを追いかけていく。ある程度の混乱は分かっていた。だが、ここまでとは思っていなかった。
「すいません、少しの間待っていてください。」
俺はその場で軽く頭を下げ、淳を追いかけていく。
淳から遅れること十数秒。玄関を出て、外に出る。
「おい!淳!どこだ!」
実は俺はある程度の予測は立てていた。
淳は「罪」に立ち向かわなくてはならないと俺自身は思っていた。本当は裁きをうけるべきなんだろうが俺には出来ない。その権利が無いと思った。だからこそ、被害者の親には信じてもらえないかもしれないが真実を話して許されない事だろうがそれでもやらなければならない事だと俺には思えたのだ。
一体どこに行ったんだ・・・・。寒い中2、3分ほど探した。
いた。
淳は道の端でうずくまっており、体を震えさせていた。
「おい、どうしたよ?」
俺は淳に近寄る。プルプル震えた体は何も反応しない。
「僕が殺したんです・・・・。2人を・・・・。校舎裏の死体の2つは僕が殺したんです・・・・」
淳は震えながら話す。やっと打ち明けられる相手を見つけたように。
「ああ・・・・知ってるよ・・・・」
そうだ。知ってるから今日1日取材に同行させたんだ。そして死んだ2人の親御さんに取材を依頼したんだ。と俺は返す。
「知ってるって?なんで?」
うつむいていた顔が上向く。その顔はまた絶望と驚きが少しだけ増した顔であった。
「巨人が俺に見せてくれたんだ。まるで再現VTRを見せるようにな。」
巨人が・・・・?淳は返す。
「ああ。真っ白い空間にいきなり連れてかれてな。」
「お前がブチ切れて我を忘れたようになって・・・・」
「それ以上は言わないで下さい!」
俺が言葉を続けようとすると淳はまた耳を塞ぐ。
「僕は殺したくてやったんじゃないんですよ!あいつらが許せなくなって、いつの間にか・・・・」
「でもお前は実際に殺したんだ!今の法ではお前は裁けない!」
俺は淳の言い訳がましい言葉につい大声をあげてしまう。
「だからこそお前はその親御さんには謝って・・・・多分信じてもらえないと思うけど・・・・。あと謝ってもどうにもならないかもしれないけどさ・・・・でもお前は罪は償わなくてはならないんじゃないか?」
「うるさい!黙れ!」
淳は一喝する。
「僕はこの街を救ったんだ!何かそれ以上ありますか!」
淳はこの言葉を言ったあと口を押さえた。言い過ぎたと思えるところがあったのだろうか。
「だからみんな巨人を褒め称えた。インタビューに応じてくれた人だってお前のことを神様とかなんとか言ってたじゃないか!」
「だからこそお前は自分のやった罪とも向き合わなければならない!違うかよ!」
俺がその言葉を言い終えた時、淳は
「ああああああああ!!黙れええええええええ!!」
淳は発狂したように叫びその場から駆け出した。
俺が止めるより早く、淳は街の喧騒へと消えていった。
「これ以上はインタビュアーを待たせる訳にもいかないか・・・・。」
俺は親御さん2人の方へと戻っていった。
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