第25話 言葉の意味と。
翌日になり、俺はいつも通りに新聞社へ出勤していた。
だが、どうしても昨日の、巨人との出来事が頭から離れなかった。
「全ては君に繋がっている・・・・」
この巨人の言葉がずっと引っかかっていた。
「俺に繋がっている・・・・?」
意味がわからない。何が言いたいんだ・・・・?
そんなことを考えているとばさっと俺の頭に何かが落ちてくる。落ちてくるというよりははたかれたというような感じがした。その方向に振り返ってみる。
「何回も言わせんじゃないよ。呼んでるのによ。」
「編集長・・・・」
編集長と呼ばれた男は口元に少しヒゲをはやし、髪を少々ワックスで逆立てている30代位の男だった。そしてそのスーツ姿の右ポケットの名札には佐々木と書かれていた。
「何をぼやぼやしてるんだよ。こっちは巨人やらなにやらで休憩してる暇すらねえんだぞ!」
編集長はそう言うが、手に持って顔を転がしてる美顔ローラーが言葉の緊張感を無くしていた。
「いや俺も巨人のことで色々悩んでまして・・・・」
俺は編集長に淳やUBの事を言いふらしてしまいそうになるが、
「いや、いいです・・・・。」
やはり言えなかった。言ってしまえばスクープにされて魔女狩りに遭うのは淳だ。
「なんだよ。隠し事かぁ?」
編集長は怪しげに俺を見る。
「まあいいか。確証の無い記事を載せられてもそれが嘘だった場合面倒なことになるしな。」
つい俺はほっと息をついてしまう。
「でもまあもっと困ったことがあったならそん時は俺に相談してくれよ。」
編集長のそんな言葉が俺の胸に強く響いた。
「ありがとうございます・・・・。」
こういう言葉を聞くと自然に笑みをこぼしてしまう。この人の部下になってよかった。心からそう思えた。
「ああ、あとウチの社はあの巨人の事は全力で応援する方向に舵を取る事にしたからな。批判的な記事はご法度の方向でな。」
編集長はそう言い残して自らのデスクへと戻っていった。
現在、巨人への対応は2つに大別されていた。
巨人を擁護する会社、そしてもう一つは巨人を批判する会社と。
批判する会社の言い分は決まっていた。
「あれは人知を越えたものだと。放置していればいずれは滅びの時を迎えるぞ。」
と。真実を知っている俺からすれば馬鹿げた話であった。
ふと隣のデスクに目が留まる。
それは仮原稿と印が押されていた。これから編集長やら多くの人にチェックされ、世の多くの人の目に留まる事になる原稿であった。
その仮原稿の内容もまた巨人の事だった。
ー巨人は人々を導くノアか、それとも人々を救い出すメシアかー
そう書かれた見出しだった。似たような意味ではあったが、俺には全く違うものに感じられた。何を隠そうこの見出しをつけたのは俺自身であったからだ。
だが、俺には巨人になっている「少年、淳」のことを考えるとそんな大層なものではない。と断言できる。所詮みんなが崇拝してるものはどこにでもいる、ただの人、少年でしか無いのだから。
さらに読み進めると巨人に助けられた人々のインタビューが掲載されていた。
ーあの巨人がいないと俺は死んでいた!ー
ー巨人があの場で奮戦してくれたお陰でお腹の赤ちゃんが助けられましたー
ーあの巨人は人類を助け、導いてくれる存在なんだ!ー
そんな言葉が書かれている。
この場合は実情を知らない、この記事に書かれた人達というのはとても幸せ者なのかもしれない。その巨人がどれだけ苦労し、どれほど苦しんでいるのかということを。真実を知れば魔女狩りのような事をし始めるかもしれない。そうなるならば神の使いとでも思ってくれた方が都合が良い。
「俺はこれを多分あいつに見せなきゃいけないんだろうな・・・・。」
淳には自分がやってきた事について評価をうける必要があると俺は思った。
だがこの選択は大きな間違いを犯す事になるということを俺はまだ知る由も無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます