第24話 幻想
真っ白な世界に包まれ、そこには巨人がおり、そして少し先には淳と3人の男の子が現れ、3人の男の子は淳をいじめている。というような状況だった。そこに俺が困惑する暇を与えなかった。1人で羽交い絞め、2人で殴りかかるという構図ができていた。
「やめないか!」
俺は男の子3人を止めるために駆け寄り、手を伸ばす。
スカッ。
確かにイジメをしている男の子を手をつかんだはずだが、何も掴んでいなかった。空振りしたかのように手応えがなかった。
「無駄だ。やめたまえ。」
巨人はまた静かに俺に話しかける。
「今の君と私はただの幻想だ。この世界ではなんの意味ももたない。」
「私はきみに真実をお見せしようとは言ったが、真実を変えてくれ。とは言ってないのだ。」
「何を言ってる?」
俺は巨人の言う意味が分からなかった。
「君は死んだ3人を見たくてあの場に居たのだろう?ならば君は見るという権利以上のことはしてはならないはずだ。」
巨人の言葉はどこか哲学的に感じた。
「なるほどな・・・・これはいわゆる再現映像ってことかよ!」
「私は頭の柔らかい人間は好きだ。」
要は正解という事らしい。
「指をくわえて見てることしか出来ないのか・・・・」
こうして見てる間にも男の子3人の淳に対する罵詈雑言は激しさを増す。
なんで裕太が死んでお前が生き残る!裕太はお前なんかよりいい奴だった!
そんな言葉が重くずっしりと俺の心に響く。
そう俺自身もその場に居合わせ、裕太と呼ばれる少年がUBの中へ食われていくのが見えたからだ。だが、どちらが死んで欲しくてどちらが生きて欲しいとは俺には思えなかった。
「なあ巨人さんよ。」
俺は巨人に自ら初めて話しかけた。
何かね。とこのような状況でも落ち着きのある声を平然と出す巨人。
「あんたは命に優劣があると思うかい?」
俺のその声は今にも口から悔しさがこみ上げてきてる。そんな声だった。
「すまないが、私は人間の価値観で測れるほど賢くはないようだ。YesともNoとも答えられない。」
巨人の回答に俺は「そうか。」としか返せなかった。
「もう一つ質問だ。あんたには命って感覚はあるのかい?」
「ある。が、それだけだ。命という存在があるという。」
「そうか。」
巨人の言葉はどれも完結しすぎていた。それ以上の感想が出てこない俺は自らの歯がゆさを嘆いた。
「よく見ていたまえ。」
「君は今からのシーンを判断しなくてはならない。」
巨人はそう言うと、とある方向を指さす。淳がいる方向だった。俺は淳の方へ目を戻す。
「何が始まるというんだ・・・・?」
淳に対する事は暴言だけでなくもう手は出ており、腹にパンチを2、3発は打ち込まれているという状況だった。
「巨人って奴だってなんでもっと早くこないんだ!あいつさえ早く来ていれば・・・・死なずにすんだのに!お前が死んでるって未来だったかもしれないのに!」
先輩のその言葉に淳の目が見開く。倒れかかった体は持ち直す。
それでもフラフラと不確かながらも立ち上がる淳。
「ふざけんな・・・!そんなに言うならお前らが死ぬんだよ!死ね!」
淳の背中から黒いオーラが立ち込める。
オーラが煙のように男子生徒2人を囲んだ。そのオーラに驚いたのか羽交い絞めしていた生徒も羽交い絞めを辞め、殴っていた2人にくっついた。
「なんなんだ・・・・これ・・・・」
男子3人と俺の声が被る。
男子生徒3人の空間だけ黒く染まっていき、この白い空間と対照的に不気味さを演出していた。
「命も大切に出来ないなら!お前らは消えろ!」
淳がそう言うと黒いオーラは一瞬にして真っ赤な炎へと変わった。
3人は苦しみ悶える。業火の炎に焼かれ、炎はより燃え上がる。
「熱い!熱い!熱いんだよぉぉぉぉぉぉぉ!」
3人の少年はそう言い残し、灰に変わっていった。
俺はその光景のせいで両手を口にし、戻しそうになってしまう。
「もうやめろよ!こんなこと!これじゃただの人殺しじゃないか!」
だが俺の声は届く筈がない。これはあくまでリプレイ動画のようなものなのだから。
「巨人!なんでお前はこんなものを・・・・!俺に・・・・!」
俺の頬は涙に濡れていた。今の無慈悲で無情に泣いていた。
だが、巨人は答えない。ただ一言、
「すまないが時間は無くなったらしい。また会える日を。さらばだ。」
それだけ答え、サーっと巨人の体が白い世界に砂のように溶けていく。
「待て!待ってくれ!」
俺はそう叫ぶが、勿論待つ訳もなく、巨人は消えていった。
「全ては君に繋がっている・・・・。」
最後に巨人はそう言っていた。俺がそれが気がかりだった。
「大丈夫ですか!」
そんな声が遠くから聞こえる気がする。まだうっすらとしか目を開いていない為、全部を把握はしていなかった。
ふと無意識に目を開く。さっきまで目を閉じていたという記憶すらもない。覚えているのは巨人が見せてくれたあのリプレイ映像・・・・・。
俺は巨人なる野郎とあんなものを・・・・。
目を開くと女性が懸命に自分に声をかけている。
「美智子ちゃん・・・・?」
俺は目を開いて2秒くらいで気づく。
「よかった!目覚めてくれて!もし目覚めなかったらどうしようかと・・・・」
「俺は一体・・・・?」
ふと思い出す。巨人と会話・・・・いや、あれは少し会話とは違う。そんな生温い言葉で形容してはいけない。だがそれ以前のこの学校に来たあとの記憶がほとんどないのだ。確か淳を保健室に運んだような・・・・・。
だが今の状況は俺はコンクリートの上に寝そべって倒れており、美智子ちゃんに介抱されているというような状況であった。
「俺は・・・・一体・・・・?じゃないわよ!」
考える暇もなく美智子が喋りかける。
「とりあえず保健室に行くわよ!」
美智子に連れられるがままになりそうになり、
「今から会社戻らなきゃ行けないんだ。ごめん。」
そう言って学校を後にした。
淳に会いたかったが、後にしてしまった以上は仕方ない。とりあえず今は作業に入る方が優先だ。
「俺は本当に巨人と・・・・」
あの不思議な世界がなんだか確信は無かったが実感は大いにあった。なんだか矛盾しているようにも思えた。
「俺は本当に巨人の声を聞いたんだよな・・・・?」
全てが不確かだった。だが今やるべきは会社に戻って写真を届けることだった。
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