第19話 過去と復讐と

怪物と巨人が市街地で戦って1週間が経とうとしていた。


世間ではあの2つの生物はなんなのか?敵なのか?味方なのか?そんな報道がどこの報道局も流していた。


だが、どんなに偉い専門家でもこの事件の真相が分かるはずが無かった。


世間では巨人を偶像とし、崇拝するものまでで始めたらしい。まるで新興宗教のように。


だが、この巨人をよく思わないものもいた。


人知を超えた力は人を傷つけて滅ぼす。そのような事を言う者もいた。


果てにはあれは前人類が作り出したものだと騒ぎ出すものまで居た。



街には大災害とは言えないまでも大きな傷を負っていた。そしてこの件での犠牲者は15人を出していた。


それが今、世間で流れてる巨人と怪物とのすべての情報だった。





「ようはUBの情報や淳の情報は漏れてないってことか。他なんか言うこと無いか?隆?」


実はジッポーのトリガーに手をかけ、口にくわえてあるタバコに火をつける。


「実さん、俺は煙いの嫌いなんすけど・・・・」


俺の言葉も無視するようにタバコは煙をモクモクと渦を巻いていった。


ここはsignalの会議室だった。机が並べられており、窓には大型のモニターが備え付けられていた。


「まあそう言うなよ・・・・」


構わず煙を吐く実。部屋に副流煙が舞う。


「とりあえず本題に入ろう。」


実はリモコンを操作し、目の前のモニターに何かを表示する。


「これは先日の巨人とUBの市街地戦での定点カメラで捉えた映像だ。」


確かに映し出された映像には巨人とUBが戦う姿が映されていた。


「そうか、そういやお前、現場にいたんだっけ?」


実は唐突に思い出したように言い、リモコンの一時停止ボタンを押す。映像がピタッと止まる。


「なんか・・・・気づいたこと・・・・ないか?」


実はタバコを灰皿に捨て、意味深に近い質問をする。


「気づいたこと・・・・ですか。」



特には無かった。あいつはいつもどおりに、いや、いつも以上に戦っていたと思う。


「体長が変わってるんだよ。UBに応じてな。」


タバコの煙が宙を舞う。確かにその通りだった。


「前戦ったUBは15m程度のやつだった。だが、今回現れたUBは25mほどの大きさがあった。」


一言言い終える度にタバコの煙が宙を舞う。


「それに巨人はUBとほとんどピッタリ体長を合わせ戦ってるんだよ。わかるか?」


実はポケットの中から何枚かのスチール写真を取り出した。


「これは?」


そこには巨人と過去に出てきたUBとの戦闘場面が写されていた写真だった。そして横には何かの目盛が記されていた。


「今までのUBとの戦いとつい先日の巨人との戦闘を比較したものさ。」


確かに目の前の写真にはアクティブに動く巨人を写していた。


「横の目盛見りゃ分かると思うが巨人は戦闘の度に身長を変えているんだ。さっきも言った通り、UBに合わせるようにしてな。」


確かに不思議ではあった。だが不思議とそれ以上の疑問は湧かなかった。湧いてどうするんだ?とかも思えていた。


「別にいいんじゃないですか?」


俺は返す。巨人は神秘に近い存在であった。これ以上考えるのは野暮という風に捕らえてしまっていたのだ。


はぁ?と呆れた顔で実は返す。


「どんな形であれ、俺たちの事を守ってくれてるんですよ。俺は野暮なことは考えるのやめてますよ。」


こう返すと実はまたはぁ・・・・と溜息をつく。


「お前本当に記者か?こういうのは報道屋ならホイホイされそうなんだがなぁ・・・・ 」


実のタバコの煙のめぐりが心なしか悪くなってきていた気がする。


「世間一般は興味をもつかもしれませんが俺はもうある程度は知ってますからね。こういう巨人というのは少しインチキというかちょっときな臭い方がいいのかもしれません。」


実には俺の言ってることが分からなかったのだろう。


「お前がそう思うのは勝手だが俺はそういう訳にはいかねえんだよ。所長に口を酸っぱくして徹底的に調べ上げろって言われてるからな。」


実はそう言うとタバコを一本また口に加えて言葉を付け加える。


「UBを殲滅しなきゃ俺も拓也も拓也の姉も報われねぇからな・・・・」


俺は少しその言葉が気になった。


「どういうことです?」


実は俺の方を向き、


「聞きたいか?」


長くなるぞ。と付け加えタバコを吸うのをやめて俺に語り始めた。




「俺と拓也は昔からの同級生だった。まぁ自慢じゃねえが互いに頭も中々によかった。だからこそ俺もあいつも生物系の職業につくことになるんだろうな。」


実は俺に語りかける。




当時の俺、実と拓也はロシアのとある研究所に呼ばれることになるんだ。


その研究所には拓哉の姉がいてな、まぁ姉さんも弟のことを優秀な研究者と思っていたからスカウトしたんだろう。


それに同じ研究室で働いていた俺もついていく事にした。


その研究所は世界のまだ解決して無い殺人事件や異常現象について調査している研究所だったんだ。


ロシアの町外れにあるそこは研究所としての立地は最高だった。


そして拓也の姉はそこでUBについての調査をしていたのさ。


だが、拓也自身はあまりUBについては信憑性の無いものと考えていてな。姉さんの言う事をことごとく無視してきたのさ。


考えてもみろ。目の前に怪獣みたいなのが現れたなんて誰が信じる?


確かにその時ではUBに関する情報はあまりにも少なく、信用させようにも物的証拠は無かった。


そりゃ怪獣が本当にいたんです!なんて言って証拠が無けりゃ意味ないよな。


たが、拓哉の姉さんは今にもUBが現れ、人類の天敵となるであろう、人の命を奪い、街を壊し、人類を破滅に導くであろう。と考えて研究を重ねていたんだ。


「我々研究者が起こりもしないと言い切れないものを頭から否定し、それをないがしろにする行為はあまりにも愚かです!我々研究者は現象を予測し、不幸な未来を変えていくものでしょう?」


あの人はそう言ったが耳を貸したのは少ししかいなかった。その少しに俺も拓也も含まれてはいなかった。


そして恐れていたことが現実として起こることになるんだ。





ある時、火災がおこった。


原因は分からなかった。その時間に研究は行われていなかったし、薬品は厳重に保管されている。


だが、原因はすぐに分かることになる。


俺は慌てて外へ出ると研究所のビルの1.5倍はある、20m位の巨大生物がビルを壊しながら火を吹いていた。


「俺たちの研究所が・・・・」


炎上する研究所は酷く脆く、呆気なく崩れさっていく。


20mの怪物は我が物顔でその場に留まる。


死・・・死ぬ・・・?


俺はそう考えた。テンプレのように「もうダメだ。」と思ってそれが脳から離れなかった。


あの時、拓也の姉さんの言っていることを信用して対策を立てていればもしかしたら今よりマシだったかもしれない。そうも考えた。


「諦めないで!」


遠くでそんな声が聞こえた。


聞こえた方向をふり向くと拓也の姉さんがいた。


手に持ったハンドガンで怪獣を牽制し、突撃していく拓也の姉さん。


怪獣に立ち向かう姿は彼女しか居なかった。みんな逃げることで手一杯だった。


そこから後のことは俺はあまり覚えていなかった。


怪獣を退けたらしい。姉さんの命と引き換えに・・・・。


姉さんは怪獣の中に飛び込んで自身が潜まさせていた爆弾を起爆させて潰したそうな・・・・。


そこから後は拓也の姉さんが残したデータを手に、生き残った研究員と共に日本へ渡って拓也のこの別荘を俺たちの拠点とし、あの時の怪獣をunknown beastと称して俺たちは戦うことを決めたんだ・・・・。






「と、おれが知りうる限りの過去の話だ。」


また新たなタバコに火をつけ、ライターをズボンのポッケへしまう。


「要はお姉さんへの仇討って事ですか・・・・?」


俺は質問をした。この言葉は言い方が悪かったかもしれない。理由はないが俺はそう考えていた。


「どうなんだろうな。少なくとも俺にはそう思えるな。だけどそれは人類にとっても大きな脅威を取り除くことになるはずだ。」


「そりゃあまぁUBを倒すことに代わりはありませんからね・・・・。」


俺は話しながらも煙たい部屋にそろそろ嫌気が差していた。


「僕はもうそろそろ出て行きますよ。」


俺は煙たさで酸欠になりそうになったので出口へのドアに近づいていく。


「どうした?また仕事か?」


ふーっと煙たい部屋がまた煙たくなる。これがなければもう少しここにいてもいいと思えたのだが・・・・。


「まぁ、ええ。世間的には巨人の騒動はまだ終わっていませんからね。」


俺はそういい、ドアノブを触る。


「まあ俺もまだその騒動に加えて少し前のガキンチョと遭遇したUBの事についても詳しく調査しなくちゃならんしな。」


ドアを開いて互いに頑張りましょうよ。そう言い残して俺は研究所を後にした。


今日の会話で所長の拓哉と実の意志は強固なものだとわかった。俺も大切な人が死んだら復讐に燃えるだろう。


でもなんだろうか・・・・。なぜだが腑に落ちないような気分もあった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る