第16話 英雄の決断 前編

オラァ!


羽交い締めにされている淳を剣道部の部長大原は高く蹴りあげる。


「なんだってお前はそんな生意気になれるんだぁ?あぁ?」


大原に髪の毛を捕まれ、額があらわになる。だが淳は死体の如く、無口だった。


「何も答えないのか!」


大原の言葉に淳は何も返さなかった。いや、返せなかった。意見が無いのだ。どうでもいい。早くこのくだらない事が終わればそれでよかった。


ドドドッ!周りの木々が揺れる。いきなりだった。


「な、なんだぁ?」


大原が声を上げるなか、砂と草が隆起し、地震のような感覚に襲われる。少なくとも地震の類だと思っていた。


瞬間、地響きとと共に空き地の砂が溢れ帰り恐竜の角のようなものが現れる。


「UB・・・・!」


淳は驚愕する。


頭、胴体、足の順番に現れたUB。自分の身長の何十倍もするその黄土色の巨体は今、我が物顔でこの街を闊歩しようとしていた!










形式だけの挨拶かもしれんが校長に挨拶をし、校長室の外に出る俺。校長室でもらったコーヒーは少し苦かったというのが正直な感想だった。


キャー!耳をつんざくような黄色い声が俺の鼓膜に響く。声の発生場所は外からだとすぐに分別ついた。


「一体どうしたってんだ。」


急いで窓に近づく。


そこには空き地のようなところに大きな黄土色の物体があった。


俺が今いる場所が4階だから25m位。そこに頭のようなものがあった。赤い目をしていてくちばしよような物があり、手にあたりそうな部分にはよくしなるムチのようなものを装備しているように見えた。


「UB・・・・?」


俺は疑問に持つ。が、気にしてる暇は無かった。そして間違いなかった。


階段を急いで駆け下りて校舎の門を出る。


校舎から見えた方向へ足を止めることなく走る。


街はパニックと化しており、人が盛り上がるようにして逃げ惑う。声にならない声が空気を押しつぶす。


助けてくれ!


そんな声が一番聞こえたが俺はそれに構うことなく走る。人を掻き分けて、人を押しのけて。それが残酷な事かもしれないということは俺が1番わかっていた。


少しずつUBが近くなる。目の前の距離から考えるに多分空き地にいるのだろう。


逃げる人に逆行し、空き地へと辿り着く。


そこには剣道着を着た少年達がいた。


「剣道部のやつら!なんで離れていない!」


胸ポケットから前に拓哉からもらった特性の銃を取り出し、UBに連射しながら救出するために走る。


「なんで早く逃げない!」


俺はそばにいた剣道着の生徒に話しかける。


「だって!だってよぉ!あの怪物が!裕太を!裕太を!」


少年は声が震えていた。


「裕太?」


俺は少年が指さす方向を見る。UBが口をモゴモゴさせている。鋭い牙からうっすら見えるそこから靴が見えた。


「食われちまった・・・・」


少年は震えた声で続けた。


「もうダメだ!みんな死ぬしかない!」


少年は頭を抱えて目を閉じる。


「バカ野郎!俺たちが今を諦めてどうする!」


少年は俺の声に目を開ける。


「いいな!最後まで諦めるなよ!」


少年を立ち上がらせ、少年はふらつきながらも走っていった。


「あいつは・・・・淳はどこなんだ。」


目の前のUBに目をくれる事無く探す。今はあいつしか戦える人間がいないからだ。


空き地の奥にまた1人少年がいた。淳だ。


「淳!早く巨人になってくれ!このままじゃみんな死んじまう!」


俺は叫ぶ。パニックの中、声が届いているか分からなかったが淳はひょうひょうとそこに立っているだけだった。


「聞こえなかったのか?」


だがそんなもの関係無かった。目の前にUBがいる。それだけだ。


雑草を掻き分けて走って淳によっていく俺。少し木やら何やらのせいで切り傷ができていた。


「なんで巨人にならないんだ!」


俺が寄っていった時、淳の目は濁った川のような虚ろな目をしていた。

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