第15話 出会いと歪んだ矛先

俺は翌日になり、学校に訪問するというアポも取り付け学校へ向かう途中、いつもの公園のベンチに座り、携帯を開いて今日の仕事の内容を確認していた。



「ちょっと横、失礼していいかしら?」



携帯とにらめっこしていた俺は顔を上げる。



「す、すいません。」



と言い、俺は顔を上げることなく横にずれる。


「こちらこそすいません。お仕事か何かの邪魔をしてしまい。」



ブラウンの長い髪にカールが魅力的な女性だった。それでいて彼女の声は優しかったのだ。



「いや、俺はただ確認してただけなんで。」



俺は携帯をポケットにしまい、向き合う。



俺は少し緊張していた。彼女のブラウンの綺麗な髪もそうだが曇りのない瞳に吸い込まれそうにもなっていた。



「お仕事は何をしてらっしゃるのですか?」



彼女は聞いてきた。だが少しその間に不自然な違和感もあったように思える。



「そ、そうですよね。す、すいません。自己紹介も無しに。」



俺は少し緊張でもしていたのか言葉がどもってしまう。そして彼女は俺のその言葉に何かを気づいたすぐに訂正を加えた。



「私は黒柳風香と申します。」



風香と名乗った女性はペコリと頭を下げる。



「え、ああ、俺は大久保隆。ここいらの地方の新聞社に務めてるただのしがない新聞記者です。」



俺はペコリと頭を下げ返す。



「お仕事は何を?」



俺は先ほどの質問に答えて貰って無かったので聞き返す。しつこいとか思われてないだろうか。



「すいません、まだこっちに帰ってきてすぐで職業と呼べるものは無いんですよね。」



ん?と俺は彼女の言葉に疑問に思う。



「私、長い期間海外で仕事をしてまして日本に戻ってくるときに会社も辞めたんです。」



「ついでに会社も辞めたんですか・・・・。」


彼女の言葉は意味としてはかなり重いものだったのだろうが、軽やかな口調で話した。



「ええ。海外は楽しかったけれどやっぱり自分の故郷こそが1番のオアシスなんですよね。」



えへへ。と風香は少し照れて笑って見せる。



「ということはここいらにご実家が?」



俺はまた疑問を投げかける。



「いえ、厳密にはもっと向こうの山を越えたところなんですが、弟がここらで働いてるという事を聞いたんで・・・・。会えたら会っておこうかな。と思いまして。」



「へぇ~。そうなんですか。ちなみにどのようなご職業で弟さんは働いてらっしゃるのですか?」



俺のこの質問に風香は少し戸惑いを隠しきれなかった。



「すいません、記者なものですから次から次へと質問してしまい・・・・。職業病とでも思ってくれませんか?」



困っている風香の顔を見た俺は照れ笑いしながら頭を掻く。



「職業病ですね。分かりました。」



クスッと風香も笑った。



「すいませんが私はそろそろ行かなくては。」



風香は立ち上がり手持ちのバッグを持つ。



「あとこの周辺で花屋さんは無いですか?」



「花屋さんならあそこの通りをまっすぐ行ったところにありますよ。」



俺は風香の質問に即答し、風香はありがとう。とだけ返してどこかへと行ってしまった。




「美しい人だったなぁ」



俺は飲みかけのコーヒーを飲み干して自分の仕事へ向かうようにした。






学校に着く。建物自体はイメージする学校とほぼ変わらなく良くも悪くも「普通」の学校だった。



「おお!またもよくぞ来てくださいました!」



校長はニッコリ笑い、俺も会釈を返す。



「俺は一応剣道部を取材出来れば満足なんでそんなお構いにならないで下さい。」



「そうは言っても私もお客様を無下に出来ませんよ。案内されてくれませんか?」



校長の過剰とも思える好意に甘える。ま、まぁそう言うなら・・・・。



そう言われるがまま剣道部に案内される俺。道は前と変わらなかった。まぁ当たり前だが。



部の道場まで連れてこられるとあとは部の生徒に挨拶をし、手に持っていたカメラで写真を撮った。



いつも通りであろう風景を撮り、記事にする構図を考えながらまたシャッターを切る。



練習が終わり、そそくさと生徒達が帰り支度をする中、一人の女の子が俺に気づく。



淳の彼女の長良美智子だ。



「あんた!なんでいるのよ!」



指をさし、大声をあげる。



「そんなこと言われてもな、こっちは仕事だ。さっさと淳といちゃこらしてこい。」



俺はカメラをカバンの中にしまいこみ、そそくさと準備をする。



「ば・・・・いちゃこらなんてしてないわよ!」



美智子は顔を真っ赤にしてその場を去る。



ここで一つの出来事が俺の頭をよぎる。



またイジメられてないだろうか。



前あんなに言ったのだ。あとしばらくは大丈夫だろう。そうも思っていた。



そしてあの彼女、美智子がいるのだ。



とりあえずは校長に挨拶をして帰らねばならない。校長室へと足を向ける。








「やめてよ!」



美智子は目の前の男3人に羽交い締めされる。動けない。



オラァ!美智子の目の前には顔面を蹴られ、剣道部の部長、大原に蹴られ、血を流す淳の姿があった。



「あなたたちは同じ剣道部なんでしょう!なんでこんなことするの!」



美智子の声も無意味。羽交い締めされてるのがより虚しく見える。



「こんなことなんてのは失礼だな。これはあくまでも教育。先輩からの年功序列を守れなかった人間への罰さ。」



美智子を羽交い締めしている少年の一人が答える。そして暴行は続く。



「竹刀で殴るよかマシだろ。」



へへ。へへ。と汚い笑顔が飛び交う。



「年功序列ってどういうことよ!」



美智子が叫ぶ。



「ただただ俺たちより強い。それだけさ。だから気に食わねえ。それにコイツのせいで俺たちは他にも迷惑なしてるんだ。仕方ねえよなぁ?」



羽交い締めしている少年は高笑いする。部長は彼らの声に呼応することなくまるで作業のように淳に暴行を加えていく。



「もうやめて!」



美智子は叫ぶも何も届かない。夕空の赤が血にも思えた。

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