第14話 厳しさと怒りの矛先

その場を離れた俺と淳はふもとの公園にいた。俺はねぎらいの意味も込めて缶コーヒーを淳に渡す。




「まぁ仕方ないさ。少なくともあの子の妹はUBに食われていた。少年は食われても妹が死んだなんて嫌でも思いたくなかっただけさ。」



俺は缶コーヒーのプルタブを開けながら言う。



「でも・・・・」



淳は震えた声で言う。



「僕だって必死だったんだ!必死でみんなを守ったのに!なんであんなこと言われなきゃいけないんだ!僕は戦ったんだ!でも誰だって評価しない!誰もありがとうの言葉さえ言わないじゃないか!守ってもらって当たり前!僕はやってるんだ!戦って!」



淳の感情は相当感極まっていた。どこにもぶつけられない怒りが放出されていく。



俺は敢えてこのことについては何も言わなかった。いや言えなかったのだ。俺も所詮は巨人、淳に守られて生きているのだから。



「僕はもう変身しない!戦って一体何になるっていうんだ!また!ああいうふうに言われるんだろ!」



淳のこぼれる涙が言葉の真意を明かす。



「俺はもう一度研究所へ行くよ。俺はお前に協力したいと思ってるし、人を守りたいと思っているからな。確かに理不尽だ。だけどこの理不尽さこそが世界なんだ。世間なんだよ。」



俺は淳に構うことなくもう一度研究所へ足を向ける。ここでこいつを慰めたら為にならない。そう思っていたからだ。だがこの言葉はもしかしたら淳には重く思える発言だったかもしれない。






「そんなバカな!」



俺は研究所へつき、執務室へ呼ばれた。実からとある事を聞かされ、驚愕した。



「間違いないさ。あの子の妹は川原にて死体が発見された。UBは関係ない。」



実はポケットからタバコとジッポーを取り出し、気にすることもなくタバコに火をつける。


「ただの溺死体だったってことか?」



「そうだ。それにこの事件、一週間ほど前に捜査が始まったが一昨日死亡認定されている。」



これがどういうことかわかるな?実は灰皿にタバコのカスを落としながら言う。



「その女の子は今日よりも昔に死んでいる・・・・?」



そういうこった。と実は返し、



「死体も死にたての感覚はなかった。ありゃ死んでもう2日は経ってるぞ。」



「一体どういう事なんだ・・・・?」



もしかして幽霊?なんてのもよぎったが少なくとも今は場違いの予想だと思った。



「とりあえず今日喋れるのはここまでだ。ここにいてもお前さんのプラスになることはなんもないよ。」



実はシッシッ!と虫を追い払うような動作をする。



「あいも変わらず!」



俺は一言だけイヤミを言い返して隆は研究所を後にした。





日は過ぎる。人は何も知らず仕事、勉強に励む。



はぁ・・・・。俺はため息をつきながら目の前のパソコンのデスクトップを見る。



「どうしたの?ため息なんてついて?」



俺の上司、村田アキは話しかける。



「いや、ここの見出しを何にしようかなと思い・・・・」



嘘である。本当は昨日の一件、少年の妹の溺死体の事が気になっているだけである。



俺は現場取材をしながらもあるときにはライターも兼任していた。地方新聞記者ならではなのかもしれない。



「老人会のゲートボールの記事でしょ?」



アキの質問にええ。とだけ返して



「そんなの決まってるじゃない!『ゲートボールを楽しむ元気な老人達』でいいでしょ?分かり易いし。」



じゃあ、そうしようかな?と俺はキーボードを叩こうとすると、



「ちょ、本当にやるの?」



アキは驚く。一体何があったのか。



「あんたの意見はそれでいいの?」



え?と俺はタイプを止める。



「あんたの意思はそれでいいの?ってことよ。」



提案したのはあんただろうに・・・・。そう思いながらも



「意見云々よりわかりやすさを求めるならアキさんのアイデアのがいいですよ。」



またタイプを始める俺。早くこの仕事を片付けたいその一身だった。



「上司に従うとしては十分だけど記者としてはまだまだ半人前よねぇ・・・・」



アキの言葉にほっとけよ!と俺は思ったが口には出さなかった。いらぬトラブルを起こすのは俺の主義ではなかった。



「あとあんたの剣道部の記事中々の評判でね、また記事にする事が決まったわ。また不定期かと思うけど剣道部行ってきてくれない?」



その言葉とともにお願い!と言葉をつけあわせる両の手を合わせるアキ。片方の目をつむっていた。



「分かりました。いつ位に行けばいいですかね?」



「うーん・・・・明日位?」



この人の悪いところは明日に急に行け。という無茶ぶりを普通に言うところだ。




「アポくらいはとってくださいね。」



俺はとりあえずタイプだけは済ましておいた。また何か言われるかもしれないが今は構っている暇はない。UBに取材に大忙しなのだから。






「やっぱりなんか引っかかるんですよね。」



研究所の事務室にてタバコをまた吸いながら実は拓也に疑問を投げかける。



「少年の見間違いという事ではないのかね?」



拓也はフゥと息を吐き、そう言う物言いをしてしまう。めんどくさそうに。



「でも普通に考えて家族の顔を間違えます?」



実は手に持っていた少年たちの家族写真を見ながら言った。



「錯乱していた可能性もある。」



拓也はそう言ったあと立ち上がり、




「君には巨人の周辺効果の調査を依頼しているはずだ。そして我々の仕事はUBを倒すことだ。死体を追求することじゃない。」



最後にそう言うと拓也は時計を見、その場を急いで出ていった。



「所長ってのも人付き合い悪いもんだね~。」



実は「ま、自分の事言えねえか。」とひとりごち、拓哉の後を追うように事務所を出ていった。

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