第13話 正義

ピピッ!ピピッ!と淳の携帯から電子音が急に鳴り響く。学校への帰り道より少し寄り道をしている途中だった。



「どうしたの?取らないの?」



淳の横にいた長良美智子は声をかける。


美智子はこの寄り道が大好きであった。付き合い始めてまだ少ししか経ってないため、デートその他もしたことなかったからかこの寄り道がその代わりとも思えたのだ。



「ん?あぁごめん。取るよ。」



電話の相手は拓也だった。電話に応答すると研究所周辺にてUBが現れた。直ちに迎撃に迎え。との事だった。



分かりました。今すぐに向かいます。とだけ返して電話を切った。



「ごめん。今すぐに家に帰らなくちゃならなくなっちゃった。今日の寄り道はここまで。」



淳は携帯をポケットにしまい、森の方向へ足を向ける。



「行かないで!」



森へ向かおうとした淳を美智子が引き止める。



「あなたは一体何をしているの?私には分からない!ここ最近あなたは電話がかかってくる度に家だ、なんだと言って消えてしまうじゃない!これで何回目よ!」


美智子の顔からは涙が流れていた。美智子がヒステリックな訳ではない。今回のような事は何回か続いており、電話を取るたびに淳は何かを覚悟するような顔をしていたのだ。そして戻ってくるとボロボロになっていることもあった。これは異常だった。



「ごめん。でも僕にはそうしなきゃ行けない理由があるんだ。」



「なんで?なんでそんなに家を守ろうとするの?」



美智子は逆上に近い状態になっていた。淳にすがりついている。



「ごめん。家を守る訳じゃないんだ。家よりもっと大事な・・・・ごめん。僕はもう行くよ。」



淳は森に向かって走り出した。そこに人がいるなら淳は助けたい。ただそれだけだった。



「あなたは謝ってばかりじゃない!」



美智子の悲しき叫びは淳には聞こえない。言葉は涙で震えていた。







手持ちの弾丸は全て撃ち尽くしてしまい、俺は絶望していた。



銃は使ったことも無かったが何発かは触手に命中していた。だが、効果は無かった。当たっても弾かれていった。


「この銃、UBだっけか。あの怪物に効かなきゃ意味ねえじゃねえか!」


そんな俺の大声の愚痴も虚しく、UBは襲いかかってくる。


そして敵の触手の魔の手はそんなこと知らないように伸びる。



またなんとか間一髪避けるが、次はない。とも思えた。



「そろそろまずいぞ・・・・。」



少年を担ぎながら移動するにはもう限界が近かった。



「離せよ!あそこには妹が!俺は助けなきゃ!俺は兄ちゃんだから助けなきゃいけないんだ!」



抱えた少年は妹の為を想い、叫び、抱えた腕の中で抵抗するのであった。



そんな声を無視して俺は雑木林をかき分ける。



足の痛みも感じなくなるほど走ったところで木の枝に引っかかり転んでしまう。



「まずい!このままじゃ!」



しめた!と言わんばかりに触手の魔の手は伸びる。



もうだめだ!と俺が目をつぶった瞬間目の前で爆発音が鳴る。



何が起こったのか分からずゆっくりと目を開く。



目の前の触手はまっぷたつになり、見上げると青い巨人がラフレシアのようなUBに食いかかるように殴りかかった。



「やっと来やがったか!遅いぞ!」



口元に膝蹴りををかまし、口と繋がった胴体に高速パンチを浴びせる。



キキィ!と辛そうな声を出すUB。そんなことに勿論構うことなく蹴りをお見舞いし続ける。



そしてすかさずマウントポジションをとりひたすらに殴る。殴る。殴る。



UBもひたすらやられるわけにもいかず残っていた触手を巨人に絡みつける。



身動きを取れなくなった巨人にUBは溶液の様なものを口から吐きつける。



巨人の胸にそれがかかり軽い爆発が起こる。



UBはラフレシアのようなでかい頭で頭突きをして距離をとった。



そしてまた触手を伸ばし、巨人を絡ませようとする。



が、巨人に2度も同じ手は通用しなかった。



両腕をクロスさせ、剣を形成し、飛んできた2つの触手を粉々に切り裂いた。



やめてくれー!森には少年の声も響いたが巨人には勿論届かなかった。



巨人は自分の腕を胸に密着させた。



ハァァァァ!と掛け声を出すと共に弓矢の弓を形成してみせた。



それを剣に引っ掛けて剣を放った。



やめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!




少年の声も虚しく放った剣はあまりのも早い速度でUBに命中し、爆散していった。少年の悲しみと共に。










「大丈夫でしたか?」



俺の目の前に淳がやってきた。変身を解除したんだろう。



「まあな。この少年の保護を頼めるか?」



俺は抱えていた少年を降ろした。



「なんでなんだよ・・・・!」



降りた少年は小さくも怒りに震えた声で喋る。



「なんであの怪獣を殺した!あのでかくて青い巨人は!妹を助けてくれたって!」



少年の声は涙に濡れていた。



俺は言う。



「あんままやっていたら死んでいたのは俺たちなんだぞ!」


正直少年の言う妹がUBに取り込まれた時点で命は助からなかった。死んでいたはずだ。少年に理解できているのかはわからないが。



「でも!それでも!今日は!今日は妹の誕生日だったんだ!みんなでケーキを食べるはずだったんだ!それを!それを!あいつが!あいつがやったんだ!」


少年は怒りに震え、泣きじゃくる。



「俺は・・・・あの巨人を・・・・許さない!」



少年の目には殺意で溢れていた。妹を失った悲しみと、自らが何もできなかった怒りで。

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