第12話 三度目の来訪

山を進むとそこには一つの研究所があった。その名も「signal」



前にも2回ほど来ているが俺にはなんだか落ち着かない場所であった。それもそのはずだ。来るたびにひどい目にあって帰ってきているのだから。



「ふぅ・・・・」



と息を整え、中に入る。



「よく来てくれたね。」



入ってすぐに所長の黒柳拓也がいた。



「一体何の用なんだ。あいにくだが俺はここにホイホイ来れるほどの暇は持っちゃいない。」



俺は会話をする気はなかった。のかもしれない。結構な憎まれ口を叩いた気がする。


そうかね。とだけ拓也は生返事をして話を続ける。



「これを君にあげよう。」



拓也がポケットから出したのは銃だった。前にもらった竹材の特殊な銃であった。



「俺はもう持っている。2丁もいらんさ。」



そんな俺の言葉を待っていたかのように拓也は次のような言葉を発した。



「どうせ君のことだ。試し打ちとかしてないだろ。俺には必要ない。だとか俺にはこんなものを使う場所が無いとか思ってるんだろ?」



引っかかる言い方だった。だが事実でもあったっちゃあった。



「何が言いたい?残念ながら俺にはお前の含みある言い方を気にかけてる時間は無い。」




こう俺が返すと



「端的に言おう。」


拓哉は銃の引き金部分に指をかけ、銃の後ろの部分を持ってくるくると銃を回す遊びをしながら言う。



「あの銃はニセモノだ。弾は確かに入れてあるが銃そのものの構造上撃てやしない。」


拓哉はその時少し微笑んでいたように見えた。



「そんなに俺が信用出来なかったかよ。」



俺は大人しく白状する。だがこの言葉は少しばかり怒りが含まれていた。



「あんたは上司としては優秀だよ。部下の全部を管理してるみたいで気持ち悪いが。立派だよ。気持ち悪い事この上ないがなね!」



とだけ付け加えて研究所を後にしようとしたとき、



「まだ私の話は終わっていないさ。」



拓也はまだ俺を引き止めた。



「特製の弾丸入りのマガジンと通信機だ。ポッケにでもしまっておけ。」



拓也はポケットからマガジンと通信機を出して目の前のテーブルに並べた。



「ありがとよ。」



言葉だけの感謝をし、俺は本当にその場を後にした。








研究所を後にしていつもの雑木林をかき分けて行くと一人の小学生位の少年がいた。



「君、そこで何をやっているんだ。この森はあまり安全とは言えない。今すぐ帰るべきだ。」



少年は俺の言葉を気にすることもなく明後日の方向を見て、ただただ何かに怯えていた。ただただその方向を見ていた。膝も震えているように見えた。



「一体どうしたってんだよ?」



少年に近づき、少年の背丈に合わすようにしゃがみ、少年の目線を合わせた。



そこには触手を広げ、ラフレシアのように口を大きく開いたUBがいた。そしてUBもこちらに気づいたのか触手をより大きく広げこちらにその触手をものすごい速度で伸ばしてきた。



「しゃがめ!」



俺の一言と共に二人はしゃがみ、触手をかわし、そこから脱兎のごとく逃げた。



ポケットに入れていた通信機を取り出し、電源をONにする。通信機の緑のランプが作動し、通信ができる状態へと変わる。



「こちら隆!UBから攻撃を受けている!助けてくれ!森で迷っていた男の子もいる!」




「こちらでも確認しています。至急そちらに淳君を向かわせます。」



通信機から聞こえてきた音は冷淡な女の声だった。



ギィ!とUBが雄叫びを上げ、ものすごく太い幹のような触手を俺たちに振り落とす。



少年をとっさに抱きかかえて間一髪避ける。



「離せ!」



少年はそう言い俺の腕を解き、UBの方向へ突進しようとする。



「馬鹿な真似はよせ!」



俺のそんな声に少年は



「あそこには・・・・あの化物の中には・・・・妹がいるんだ! 」



「なんだと!?」


俺は驚愕した。化け物の中に妹が存在していたというのだ。


「早く来てくれ!淳!」



それが今の俺の一番の願いでもあった。

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