第11話 普通の幸せ
また何もなく日々は過ぎた。
俺はデスクワークに追われ、淳は学生生活を過ごしていた。
数日前、研究所内を案内されたあの日、俺は研究所、signalを出る際に渡されたものがあった。
竹材の銃とそれに対応した弾丸の入ったカートリッジが15箱もらっていた。
銃自体も金属探知機に引っかからない、弾丸も特製のものらしい。
「君も我々の仲間ならunknown beast、略してUBに立ち向かうものならそれを装備しておくべきだ。」
そんな事を拓哉から言われても地方の新聞社で働く俺には何となくまだこの銃の実感が湧かずにいた。
とりあえず銃は家のクローゼットに入れ、家を出た。今日の仕事は地域の面白い学校の先生に取材する。というものだった。
「今は下手なことを考えてる場合じゃない。」
俺はそう思い、考えを振り切って仕事へ向かった。
仕事を終え、新聞社に少し近い公園のベンチで缶コーヒーを飲んでいた。
ベンチからはサッカーをしている少年達や、砂場で遊んでいる子供もいて 、ベビーカーを押しながら談笑している母親もいる。
この風景を見れる。というのが平和というものなんだろうな。と思えた。
この街を、この人を守る事が仕事となるならある種少し羨ましかった。
「おう。」
後ろから声をかけられた。
振り返ると実がいた。前に見たように白衣の研究員の姿だった。
「こんなとこで何やってんだい?」
実はあいも変わらず軽い言葉を投げかけてきた。
「いや、ここをただ見てたんです。それだけですよ。」
「なんだ、つまんねえ野郎だな。」
質問に答えただけでつまらない認定をされるのは少しムッとしたが俺は気にしないことにした。
実はポケットから携帯をおもむろに出していじり始めた。
「そういやよ」
実は携帯を弄りながら話を始める。
「所長がまた研究所の方に足を運んで欲しいんだとよ。」
実はなにか携帯にいいことがあったのか、よし!とガッツポーズをしながらまた話す。完全に会話がながら作業になっていた。
「お前も組織の一員なんだ。まぁ業務連絡だと思って行ってくれよ。」
俺はわかりましたよ。とだけ返す。こうも携帯をいじりながら話されるとこっちの気分も滅入ってくる。
飲み終わった缶コーヒーを捨てて俺はその場を離れた。
また考えもなしに歩いていると今度は淳がいた。剣道の竹刀を入れる袋があった。部活帰りなんだろうか。
「おう、久しぶり?だな。」
手を振り、こちらへ呼ぼうとする。
「久しぶりですね、淳さん。」
ペコリと淳は頭を下げてからこっちへ来る。
淳の横にはスカートを履いた女の子がいた。
「ねえ、あんたはなんなのよ。」
淳よりも早歩きをし、のぞき込むように俺に質問する女の子。
「あー、俺は大久保隆。近所の新聞社で記者をやってて淳君の友人みたいなもんだ。」
俺は顎をポリポリとめんどくさそうに答えてしまった。
「ほんと?あっくん?」
女の子は振り返り淳に聞く。
ホントだよ。とだけ淳は返す。にっこりと笑う淳からはこれまでの恐ろしい経験をしたような表情なんてものは微塵も感じられなかった。
「隆さん、この子は僕の彼女の長良美智子です。」
俺は淳の言葉に少しだけは?となってしまった。
「彼女ってことは付き合ってるのか?」
「ええ。多分、そういうことです。」
俺の質問への淳の曖昧な回答に「ちゃんと答えなさいよ!」と美智子は横槍をいれた。気の強い女の子なのだろう。
このやり取りを見ると俺はなんだか安心した。淳には剣道部のあの件があって以来なかなか学校の生活においてプラスのイメージはなかったからだ。
「二人の時間を邪魔する訳には行かないからここらで俺は失礼するよ。」
「からかわないで下さい!」
俺のちょっとしたいたずらのような言葉を最後に後ろから淳のそんな言葉が聞こえたが、気にせずその場を離れ、とりあえず研究所へ足を向けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます