第10話 unknown beast

「おめざめかね」



部屋のドアが開き、所長こと黒柳拓也が部屋に入ってきた。


俺はベッドから起き上がろうとしたが、傷を負ってしまっていたのかズキ!と痛み、またベッドに体を傾けていた。



俺はまだ怒っていた。


「てめえ・・・・何しやがった! 」


俺の言葉のテンションは気絶する前と変わっていなかった。


怒りは収まるところかより増幅していた。


「それはこっちのセリフですよ。あなたはこの研究所のシステムを勝手にダウンさせた。困りますよ。機械は精密なんですよ?」



拓哉のそのセリフが俺の怒りを頂点に達した。


「んだとぉ! 」



俺は拓哉の胸倉を掴み、殴ろうとした。



「また眠りたいんですか?」



拓也は冷静に応答する。



「なんだと!」



ちょいちょい、と拓也が指さした方向にスナイパーのようなものを構えた男がいた。



それも俺がいたベットの前にあったクローゼットのようなところに。



「どんな隙間にいるんだよ・・・」



と俺は思ったが秘密を抱えた組織なんてそんなもんだろうとすぐに合点した。それにこの組織からしてみれば反乱を起こしかけた人物だ。そりゃ監視を強化するものだろう。



「彼らはこの研究所の至る所にいる。秘密を過剰に知りすぎてしまった人間、そして君のようにこの研究所に相応しくないもの。」


拓哉の言い方はまるでアニメやドラマの黒幕のような含みのある言い方だった。俺もこの話題を続けるのは危険だと思い、話題を少し逸らす事にした。



「そんで俺はこいつらに眠らされてしまった。ってことかよ。」


俺のそんな言葉を聞いて、拓哉は大笑いをした後、


「まあ死ななかっただけマシと思ってくれたまえ。」



多分この言葉は何人も犠牲になってきた。って事だと思えた。





「大人しくしときますよ。命をお助け頂き、どうもありがとうございます。」



皮肉めいたこの言葉使いは俺自身納得が行ってない。という証明だった。が、拓哉にとってはどうでもいいことなのだろう。



「そんな君に1つ質問に答えてあげよう。」



拓哉も急に話題を変えてきた。そして質問する内容なんか最初から決まっていた。



「何故淳はあんなことになっている?よほどの理由、いやあっても無くても・・・・」



俺は言葉を続けようとしたが、 拓也はみなまで言うな。と言いうように俺の言葉を遮って発言した。



「君は何故アイツが巨人に変身できると思う?」



俺は質問をしているのは俺だ!と言い返したが



「すまんな、私もそれはわからんのだ。」



は?拓哉の発言の意味が俺には意味が分からなかった。



「からかっているわけではない。本当に巨人とはなんなのか。」



「ちょっと待ってくれよ!ならなんで淳は巨人に変身できる?あいつがそういう能力を最初から持っていた。ってことだろ?」



俺はそれでも話を続ける拓哉に興奮気味に返してしまった。



「いや、違うのだ。彼がこの能力を手に入れたのは2年前。ある日突然彼は巨人に変身するだけの石を手に入れたのだ。」



2年前?拓哉の発言が気になった。巨人を俺が初めて見たのは5年前だ。2年前だと辻褄が合わない。



「俺は5年前にあの巨人を見ているんだ!2年前なんてそんな・・・・。」



俺の頭はキャパオーバーしようとしていた。



「少し落ち着いてくれたまえ。私とて全て知っているわけではない。そして我々は巨人を知るためにすまないが彼を・・・・淳君を研究材料として・・・・」


大人の対応で返す拓哉だったが



「それとこれとは話は別だろ!すり替えるんじゃねえ!」



ドン!と近くの机を叩いてしまっていた。当たり前だ。それで人体実験を正当化する理由にはならない。



「なら君はこの先あの怪獣ども、我々はunknown beast(アンノウンビースト)と呼んでいる奴らはこれからも彼一人で全て倒すのか?もしや君はunknown beastはこの付近しか現れない。とでも思っているのかね?」



「どういうことだ?」


俺は拓哉の長い言葉を理解する間もなく返してしまった。



「言葉の通りさ。このままあの怪物共はこの地球を潰す気だろう。」


拓哉はまた言葉を続けていく。



「目的は?なんでこの世界を?」



俺のこの質問は拓哉の発言のせいで宙に浮いたものになる。



「そんなもの知ってたら私達は早急に対処するさ。だが何もわからないか今、人体実験という曲がったやり方でも情報を入手しようとしているのだ。あわよくば人類全員がこの巨人の力を使えるようにと・・・・。」



は?最後のほうの言葉の意味がよくわからなかった。巨人の力を?使う?俺にはまたもや理解が追いついていなかった。



「敵はunknown beastを繰り出してくるペースを確実に多くしている。例えそれが悪意がなくとも人類にとっては脅威になる。犠牲者を出さぬ為にも人類全体が自衛力を手に入れ、己の力を見極めねばならない。」



ちょ、ちょっと待ってくれよ!拓哉は構わず言い続けるので俺はつい声を上げてしまった。



「君が意味が分からなくなるのも仕方ない。だがこれが最善の道だ。少なくとも今のこの国の力ではunknown beastは一体も倒せやしないだろう。」



「だからって!それが人を傷つけてでも実験をしていい理由にはならない!」



俺の反論は道徳的には正しいものではあった。が、



「だが淳はそれを半分了承している。」



は?拓哉の言葉に俺は耳を疑った。



「彼は我々とこの実験をすることでこの場所での衣食住をすることを許可されている。彼が生きるためには仕方が無いのだ。」



ここまで聞いて、と拓也は話を変えた。



「まだ君はここのメンバーとしての正式な手続きを行なっていなかったな。」



「なんだと!今は俺の・・・・・」



俺の反論をしようとすれば、後ろに人殺しをよしとする奴がいたことを思い出す。



「卑怯だなぁ・・・・。」



俺ははぁ、とため息を吐いてしまう。死にたくないし、仕方はあるまい。



「俺は淳にここに入るって言った事をかなり後悔してるぜ。」


俺の言葉にまた拓哉は高笑いをしてしまう。



「先に忠告しておく。記者だからと言って報道しよう。なんて真似はやめたまえ。誰も信用しはせんさ。」



それは拓也が独りごちたようにも思えた。



「真実をやろうものなら一番傷つくのは淳君だろうからな。」



この最後の言葉の意味は多分真実が伝わると淳が人としてではなく巨人となる怪物として扱われてしまうということだろう。そしてそれは拓也なりのフォローでもあったのだろうか。

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