第二章 -堕天- ⑭

「はは、は……」


 無意識に、乾いた笑いが唇から漏れた。

 もうずっとわかっていたことだけど、再確認できた。


 僕は無力だ。


 この闘いに手を出すことはおろか、口を出すことさえ許されない。

 僕に出来ることは、ただ彼女たちの闘いを見届けることくらいだ。



「良いのかルーシー。爪撃と違って、それは魔力を消費するんだろ? バテちまうぜ!?」


 相変わらず、アドバイスめいた言葉を投げかけるリーシャ。楽しそうに見える彼女の一方で、ルーシーは表情を変えることなく尾の先端を光らせる。


 ルーシーはおそらく……遠距離攻撃の間に体力の回復を図っているのだろう。


 すでに点滅した光の数は三十を軽く超え、リーシャが小さく体を動かすのも全く同じ回数。


 リーシャはゲームでも楽しむかのように光をミリ単位の動作で躱しながら、少しずつ少しずつ前に出始めていた。


 その動きはまるで舞い落ちる木の葉のようだ。

 ひらひらと、掴めそうで掴めない、風に乗って進む木の葉の動き。


 次第に二人の距離は縮まっていき、近接戦闘の間合いに入る。



「さあ、この距離じゃ、そのチンケなビームなんて使えねえだろ。思う存分殴り合おうぜ!」


 そう言うなり、リーシャは右の拳をルーシーの腹へと突き出した。先の二発の攻撃の残像が頭にちらついたのか、ルーシーは反射的に両腕を腹部のガードに回してしまう。


「おらぁ! 上ががら空きだぞ!」


 強烈な左の拳が、ルーシーの顔面を打ち抜いた。


「がっ……!」


「まだまだぁ!」


 すさまじい速度で吹き飛ばされるルーシーに、リーシャは二歩で追いつき、追撃の右を放つ。


 ルーシーはそれを左手でなんとか払うと、体勢を立て直し着地、リーシャの懐へ潜り込もうと身をかがめた。そのままリーシャの体を掴もうと突進の体勢だ。


「おっと」


 けれどリーシャはふわりと跳躍してそれを回避すると、ルーシーの頭を掴み、それを支点にして体操選手のように半回転。ルーシーの背後に着地した。



「まだまだだな、ルーシー」



 それは、静かな勝利宣言だった。


 さっきの焼き直しのように、ルーシーの横腹に、リーシャの回し蹴りが突き刺さった。


 数メートルの距離を一瞬で吹き飛んだルーシーは、三度目、壁に衝突して動きを止めた。



 まるで大人と子供のような、歴然とした実力差。



 壁から崩れ落ちるルーシー。


 臨界点などとうに超えたダメージ量。

 体力も尽きているはずだ。


 ルーシーに勝ちの目がないことなんて、傍から見た僕にも火を見るより明らかだった。

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