第二章 -堕天- ⑬
リーシャによると、形玉とは、使用者の魔力に応じて様々な能力を発揮する特殊な道具なのだそうだ。
例えばリーシャが使えば、ルーシーの攻撃をも軽々と防ぐほどの強力な障壁となり、例えばルーシーが使えばまた違う能力を発揮する。
効果は実際に使用してみるまでわからないため決して使い勝手が良いものではないにせよ、その効果の高さは推して知るべしということだ。
「あたしも実戦で使ったのは初めてだったが、まさかここまで強力だとはな。難易度設定間違ったかな、こりゃ」
リーシャが横目で僕の方ををチラリと見やる。
「こいつはもう使わない。負けたのが形玉のせいだとかなんとか言われても癪だしな。というわけで、タカヤ。預かっといてくれ」
そう言ってリーシャは、形玉を僕に向けて放り投げた。
……投げた。
魔界の秘宝とやらを。
「ちょ、待――!」
というか、僕まだ体はこれっぽっちも動かせないんですが!
「あ、忘れてた」
リーシャが人差し指をくいっと動かす。
すると僕の右腕が勝手に動いて、形玉を鷲掴みキャッチした。
「いやー危ない危ない。ヘテロに人形の操り方を教えてもらっといて良かったぜ」
あっはっは、と快活に笑うリーシャ。
僕は人間扱いさえされていなかった……。
「……さて」
仕切り直しとばかりに、小さく呟いたリーシャ。
その途端に、彼女の顔に浮かんでいた笑みが一瞬で消え去る。
「闘ろうか、ルーシー」
「ああ」
名前を呼ばれたルーシーが応じる。
僕らがバカなやり取りをしている間に少しは回復できたのか、さっきに比べれば、幾分かは顔色が良くなっていた。ただそれでも、彼女が満身創痍であることに変わりはない。
もちろんリーシャもそれを看破している。
「さあ来なよ。もっとも、そんな状態から放たれる技なんざ一発たりとも喰らわないけどな」
「…………っ!」
ルーシーは壁に身を預けながら立ち上がり、ふらつきながらも黒い尾の先をリーシャに向けた。
「ほう」
尾の先端が光を発した。刹那の明滅だった。
リーシャが首をほんの少しだけ傾けた。
するとその奥にある壁から、ジュッと何かが焼けるような音がした。そして、その音がした場所から細い煙が昇り、細い穴が空いているのが見えた。
……いや、違う。それだけじゃない。良く見れば、穴の周りには壁を造る材質が、まるで溶けて固まった
僕には一瞬光って見えただけの光は、どうやらリーシャに向けて放たれた光線のようだった。
そしてリーシャはそのまさに光の速さの攻撃を――壁をアイスみたいに溶かしてしまうほどの攻撃を完璧に見切ったうえで、必要最小限の動きで回避したのだった。
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