第二章 -堕天- ⑫

「ルーシーは、あいつはな、その昔、禁忌を犯して天界を追放された――罪深き堕天使なんだよ」


「……堕天使?」


「そう。神に反逆したり、天界のタブーを犯したり、自らの意志で離反したり……理由はいくつかあるが、天使の位にありながら天界を追放され魔界へと堕ちてきたやつらをそう呼ぶのさ」


 さらにリーシャは続ける。


「堕天した天使は虐げられ、蔑まされながら、魔界で永遠に近い拷問を受ける。だが、ルーシーのように魔の素質を王に認められた場合、天使としての良心の呵責に苛まれながら魔界で暮らすやつもいるのさ」


 言ってしまえば、今現在のルーシーは、天界にとっての裏切り者であると同時に、同じ堕天使の中でも裏切り者として扱われているのだそうだ。



「ま、ようは堕天使ってのは天使にとって屈辱的な身分だってことだ」


 ふん、とリーシャはつまらなさそうに嘆息した。


「わかっただろ。ルーシーと一緒に行動したところで、得られるものなんて何一つない。目的とやらが成就することもないだろう」


 だから無駄なんだ、とリーシャは言った。


 僕は何も反論することが出来なかった。


 ルーシーの身分、リーシャの話がすべて真実だとしたら、天界に行ったところで何も為せないことは想像に難くない。

 どころか、天界にとってルーシーは罪人だ。平和的な解決なんて望むべくもないだろう。


 ルーシーだって、それくらいわかっているはずだ。

 わかっているからこそ、ずっと黙っていたんだから。



「話は……終わったか……」



「ルーシー!」


 焦点の定まっていない瞳で、おぼつかない足取りで、ルーシーは立ち上がった。ぜえぜえと息を切らし、とても苦しそうに顔を歪めて、それでもリーシャを真正面から見つめて。


「つづ、きだ……」


「あん、まだやるつもりか? あたしに有効打を一発なんて無理だってことくらい、もうわかってんだろうがよ」


「最後までやってみなくちゃ、そんなの、わかんないだ、ろ」


「……ちっ。わぁったよ、そこまで言うならもう少し付き合ってやる。納得行くまでぶん殴ってやるから覚悟しとけよ」


 リーシャはそう言うと、懐から何かを取り出した。


「……玉?」


 それは不思議な輝きを放つ、小さな透明の玉。


「さっきのバリアの種明かしだよ。『形玉けいぎょく』つってな、魔界の秘宝“三玉さんぎょく”の一つだ」

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