第二章 -堕天- ⑩
「……私は天界へ行く。天界でやらなくちゃならないことがあるんだ」
「……天界、だと?」
リーシャの手が、僕の体から抜かれた。
まだかすかに残る異物感を憂いながらこの不快感を押し付けた張本人を見やると、彼女は本気で驚いていた。呆気にとられた顔でルーシーを見ている。
けれど、だんだんとその端正な顔立ちが崩れていく。
「あは、あはは、あーはっはっはっはっは!」
リーシャは腹を抱えて笑い出した。
「天界? 天界だと? それはルーシー、まさかアンタがか? あはは、それはいったいなんの冗談だよ! いつになく笑わせてくれるじゃないか、なあルーシー。身の程知らずにも程があるってもんだ」
目尻に涙を湛えながら、横目で僕を見やるリーシャ。
細長の金色の瞳が、初めてまっすぐに僕へ向けられた気がした。
「タカヤ……だったか。いいぜ、会話をしよう」
リーシャが僕の額を小突く。口にかかっていた拘束が解かれた。
「さて、アンタには先に結末を教えといてやる」
「結末?」
「ああ、アンタたちの旅の結末さ」
そう言って、リーシャは一度ルーシーへと視線を移し、すぐに僕の方へと戻した。
「いいか、あいつがやろうとしていることはな、はっきり言って徒労に終わる。まるっきり無駄なんだ。いったい天界で何をするつもりかは知らんが、消されるのが落ちだ。それ以外に結末はない。付き合うだけ損するぜ」
「どういう意味ですか?」
「それはな――」
「リーシャ!」
割って入るように、ルーシーが言葉を遮った。
その先は言うな――彼女の叫びには、そんな悲痛な響きが願いのように込められていた。
ああ――また、あの瞳だ。
ルーシーの真紅の瞳にときおり浮かぶ、哀しい色。
あの色が、僕はどうしても気になってしまう。
あの色に、僕はどうしても惹かれてしまう。
あの色を見ていると、ぐるぐるとしたよくわからない感情が、僕の中で渦を巻く。
リーシャは、その瞳を真正面から睨み返した。
「ルーシー、正体を隠したな」
「………………」
ルーシーは黙った。叱られる子供のように。
「甘えるなよ、ルーシー。いくら隠したところで、いずれバレる嘘だ。それにこんな嘘は、自分が辛くなるだけだろうが」
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