第二章 -堕天- ⑤
「リーシャ……そんなことをしたら、お前こそ人間に危害を加えた罪で厳罰を受けることになるぞ」
「くっくっ。魔界広しと言えど、吸魂種ほど魂の扱いに長けた種はいない。ようはアンタを魔界に帰した後、タカヤに魂を戻せば良いのさ」
わかりやすくご都合主義的な解決法。けれど、今回ばかりは、それゆえに迷いが生まれる。
「………………」
ルーシーが歯痒そうにリーシャを睨み付けた。
リーシャの言葉が真実なのか
リーシャは笑う。心から、楽しそうに。
「相変わらず駆け引きが下手だな、ルーシー。素直というか、アンタはこの手の勝負であたしに勝ったことがなかったもんなぁ」
リーシャはルーシーを挑発するように、鼻を鳴らす。
「とりあえずは、チェック──いや、この国に合わせるなら王手というべきかな。……ま、何にせよまだ討ち取ったり、とまでは行かない」
チェックメイトではない──つまり、まだわずかながら逆転の目は残っている。
どう考えていても詰んでいるこの状況で残されている手は、僕の考えうる限り、敵側の失策に乗じるしかない。油断した隙をついて大逆転を狙う方法だ。それ以外じゃ、それこそ後付け設定のご都合主義展開でもなければ、この状況は打破できない。
それなのに、絶対有利な立場にいるリーシャの側から、こんなことを言い出した。
「さて、アンタに残された手は二つ。あたしといっしょに大人しく魔界に帰るか、もしくは──この人間を力づくで奪い返すかだ 」
ぐにゃり、と視界が歪んだ。
水が入ったペットボトル越しに見ているかのように、空間が不鮮明になる。同時に、息が苦しくなった。
わかっている。すべて錯覚だ。
空間は歪んでなどいないし、酸素が失われたわけでもない。ただそう感じてしまったのは──リーシャの雰囲気が、一変したからだ。
初めに彼女と対峙したときの、何倍も何十倍も感じる、恐怖。僕と彼女の間に隔たる、種族という名の絶対的な壁。
歯が噛み合わずガチガチとなる。意識的には動かせない身体は、無意識的に容赦なく震えていた。
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