第二章 -堕天- ②
「迎えに来たぜ」
リーシャと呼ばれた女性は、そう言って祠から腰を上げ、地面に落ちる綿のようにふわりと裸足を床に着けた。
ルーシーはひどく緊張した面持ちで、リーシャの一挙手一投足を逃さんとばかりに見つめている。警戒しているようだ。
リーシャはルーシーの警戒を不敵に受け止め、戸惑う僕に向かって視線を投げた。
「やぁ、初めましてだな。人間」
気さくな様子で、にこやかに話しかけられた。彼女と目が合う──合わせた瞬間、身体が竦み上がった。
「…………!!」
まるで金縛りにあったように、体が重くなった。身体中の全ての細胞が縮んだかのようだ。
端的に言うと、僕は恐怖していた。彼女に何かをされたわけではないけれど、されるまでもなく、僕の身体が精神が、彼女を恐れていた。
それは、生物としての格差を思い知らされているかのごとく。本能の部分が、彼女に底知れない恐れを抱いていた。
それがはっきりとわかるくらいには、絶望的な差があった。
「さて、まずは自己紹介といこうか。あたしの名はリーシャ。本名は長ったらしいからリーシャと呼んでくれ。アンタの名は?」
僕の心境を知ってか知らずか、リーシャは恐ろしくフレンドリーだ。にこやかな表情を崩すことなく、友人のように話しかけてくる。
「隆也です。比護、隆也」
「タカヤ……なるほど、魔界にはない発音だな。っと、魔界と言って話は通じるかい?」
頷く。
「うん、それなら話は早い。タカヤ、そこの馬鹿の身柄を私に預けてはくれないか?」
そう言って、リーシャはルーシーを右親指で指す。
「あたしは魔界のとある集落で管理人をしていてね。その集落の住人が魔界を脱走したってんで、こうして連れ戻しに来たんだよ」
「脱走?」
「そ、脱走。魔界と天界の数少ない共通の法令でね、無断で自世界を脱け出すこと及び人間世界への干渉は禁じられているんだ」
「それじゃあ、ルーシーは……」
「ああ、立派な犯罪者だ。罪には罰が与えられなければならない。それは人間の世界でも同じことだろう?」
だからさ、とリーシャ。
「そいつを引き渡してくれないか? どうやらもう契約を結んじまったようだから、あたしとしてもタカヤの了承がないとちょい面倒なんだわ」
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