第一章 -邂逅- ㉓
「ふむっ、む……むうぅ……」
何秒くらい続くのだろうか、ルーシーは僕の唇を解放する気配を見せない。僕はもうチーズになってしまったかのようで、ファーストキスの感動を過ぎてちょっぴり怖さに変わり始めている。
一度、ルーシーのキス顔を見たいという欲求に負けて目を開けたのが余計に不味かったのだろう、脳みそは融点を超えてしまっていた。
外見も魔的なら、キスも魔的だ。
時間の概念なんて忘れ、この身を快楽に委ねてしまいたくなる。いや、もしかすると、すでに委ねきっていたのかもしれなかった。
なぜなら僕の唇がようやく解放されたその時、僕は自分の周りの状況に、何一つ気を配れていなかったからだ。
ルーシーは素早く立ち上がり、ある一点を警戒しているように見えた。
その地点を僕の目線が追うよりも早く、僕とルーシーのどちらでもない、第三者の声が聞こえた。
その声は、狭い地下空間に、鈴の音のように凛と響いた。
「お熱いねぇ、お二人さん」
地下空間の中心。
ルーシーが現れた小さな祠。
そこに──座っていた。
目を細め、口元を歪め、僕らを茶化すような口振りで──まるで最初からそこにいたかのように自然に、腰を下ろしていた。
またもや女性の姿をしていた。
肩口まで伸ばしたブロンドに、金色の瞳。ルーシーに比べればシルエットの凹凸も肌の露出も少ないし、美人だけれど暴力的な魅力は感じない。
ただ、彼女の頭には、後頭部から側頭部にかけて、黒くて太い──角が生えていた。
姿は人間で、形はやはり人間ではない。
「リーシャ……」
ルーシーが、名前を呟いた。
「よう、脱走者。迎えに来たぜ」
リーシャと呼ばれた女性は、そう言って不敵に笑った。
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