第一章 -邂逅- ⑱
「そう警戒するな」
ルーシーは、笑った。柔らかく安心感のある笑顔だった。それを見て、身体が楽になるのを感じると同時に、顔が熱くなるのを感じた。
「一口に契約と言っても形は様々だ。いまから私たちが結ぶのは、たしかに対等の関係を約束するものじゃない。いわゆる主従関係を結ぶものだ」
ただし、とルーシーは付け加えた。
「主にあたるのはお前だ、タカヤ」
「……僕が?」
「ああ。お前は私と契約し、私に天界へ入るための力を分け与える。代わりに、私はお前を守る。まあ、そもそも私たちは人間を傷付けることを禁じられているから、あまり危険はないだろうけどな」
そして、とさらに続けて、
「最後に、お前には私に対して何でも一つ命令する権利をやる。たとえ私の意思に反することでも、強制的に言うことを聞かせる絶対命令権だ。ただし、永続的効果を望む命令や、権利の幅を拡張する命令は無効とするけどな」
つまり、「一生僕に仕えろ」とか、「あと百回の命令を聞け」といった命令は無効というわけか。
……いや、それを抜きにしても、何でも一つと聞くと、どうしても18禁方面の要求が浮かんでくるのは僕が思春期だからなのだろうか。
「………………」
いや、だめだ。たぶん命令を執行させた後に即時報復されるし、何よりも僕自信にさっき彼女を襲おうとした負い目が残っていた。
煩悩を胸にそっと閉まって、僕はルーシーに向き直る。
「一つだけ、聞いてもいいですか?」
「手短にな」
はっきり言って、僕はルーシーの言い分に、一種の焦りのようなものを感じ取っていた。
天界に行く──これがただの願望ではなく、義務であるかのような。行きたいのではなく、行かなければならないといったニュアンスを受け取ったのだ。
だから、どうしても人間の力を借りなくてはならなかった。けれど、単なる同行では人間側に一切のメリットがない。だから、人間の立場を上にした主従契約を結ばなくてはならなかった。
正しくはなくとも、大筋は間違っていないと思う。でなければ、交渉の第一手から自分を不利な立場に置く合理的理由がないからだ。
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