第一章 -邂逅- ⑰
「その……どうして僕が一緒に行く必要があるんですか?」
「天界と魔界は一部の例外を除いて、基本的に互いに関係を持たない。物流はおろか、通貨も人材も一切だ。天界に至っては魔が入らないよう、世界を結界で覆っている始末だ」
ルーシーが言うには、その結界に自分が触れると、触れた部分から消滅していくという。
本日何度目かの、キャパシティオーバー。大丈夫か、僕の現実感。
「だから私が天界へ行くには、その結界を抜ける必要があるわけだ」
そこまではわかるのだけれど、その先──どうして僕が同行する必要があるのだろう。
怪訝な顔をする僕に、ルーシーは人差し指を向けて、
「そこで、お前の出番だ」
と言った。
「私たち──人間から見た異世界人だ──は、魂を糧にして存在している。その魂の供給先は、死後の人間だ。死んだ人間の魂は、選別されて魔界か天界かに送られる。そういうシステムで、私たちの暮らしは成り立っているんだよ。だからこそ、私たちは人間を無闇に傷付けることが出来ないんだ」
ルーシーが言うには、あの世からの干渉が途絶えた理由は、人間を傷付けないための法を整備したかららしい。
この間ニュースでやっていたクロマグロの乱獲問題を思い出して、やるせない気分になった。
人間が、資源だと言われているようだ。
「私たちの世界では、快楽犯が間違えて人間を殺したと言い逃れするのを防ぐため、人間と私たちとを見分ける技術が確立されている。天界の結界も、人間に対しては作用しない」
「だから、僕と一緒に行く?」
頷くルーシー。
「そういうことだ。お前が私と契約することで、私も結界を通ることができるようになる」
……なんだろう、世界では日常的に使われているはずなのに、非常に恐怖を感じる言葉が聞こえた気がする。
「えっと……契約?」
「ああ、契約だ」
事もなげに即答された……。
同音異義語でなければ、契約で間違いないらしい。契約。魔族との契約。魔族とは──その響きに慣れ親しまない僕の脳内では、悪魔と変換される。
悪魔との契約は、物語においては多くの場合、その代償として命を差し出すのでないか。
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