第一章 -邂逅- ⑭

 呼吸が、さっきから荒くなっている。

 視線が彼女から動かない。


 ルーシーという名を持つ女性の姿をした彼女は、胸と腰という女性として最低限守るべき部位のみを衣服──見たことのない素材だ──で覆っていた。まるで、突き出たバストとヒップ、くびれたウエストとの見事なバランスを見せつけているかのようだ。


 喉が乾く。

 息を呑む。


 欲しい、と思った。目の前の柔肌を蹂躙したい──犯したいという下劣な欲望が、僕を支配していく。


 脳が焼き切れそうに熱い。


 理性では間違っていると理解している。彼女を犯そうと考えることも、犯したいと願うことも。


 けれど、理性が薄れていく──理性なんてかなぐり捨てて、本能の望むままにこの身体を手中に収めたい。


 脳が無になっていく感覚。ついさっき経験したものと同じだ。


 僕は誘惑されている。惑わされている。


 ……あれ、じゃあ良いじゃないか。僕は僕の本能に従って、この魔性に呑まれてしまえば良いじゃないか。


「──────────」


 何かが外れる音がした。


 僕は声にもならないことを叫んでいた。叫びながら、笑っていた。


 理性を捨て、獣のように本能に従って欲情する行為は、得も言われない快感とこの上ない愚かさを僕にもたらした。



 ルーシーを押し倒す。くびれたウエストの上に腰を下ろし、左手で彼女の両手首を固定する。少し力を入れて手首を掴むと、美しい顔が歪んだ。それがまた僕の嗜虐心をくすぐる。


 やっぱり美しい。いまからこれを手籠めにするのだと思うと、笑いが止まらなかった。


 そして僕は、ルーシーの胸の膨らみに手を伸ばし──


「悪い。どうやらまだ力の調節が上手くいかないみたいなんだ」


 ──かけたところで、異様なくらいに落ち着いた様子のルーシーが、狂った僕をまっすぐに見ていた。

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