第一章 -邂逅- ⑧

 それが具体的にどういうシステムになっているのかまではわからないけれど、あの世の存在は今もこの世に寄り添いながら存在するという。


 そして、あの世の存在がこの世に対して干渉する際に、その交渉役を果たすのが、扉守。比護家は、代々続く扉守の家系なのだそうだ。


 ──荒唐無稽な話だ。物語の世界だとしても三流の設定なのに、まして現実の出来事としてこんな話を聞かされて、信じろという方が無理だろう。


 そもそも、天界と魔界なんて人々に認知されることもない単語が出て来ただけでもう怪しいのに、僕の家があの世の存在と交渉してきたと。


 ご都合にご都合を重ねて、どれだけ見上げなければならないのだろうか。


 だから僕はご都合主義が嫌いだ。無茶で無恥な作り話なんか、冷めてしまうだけなんだ。



 なのに、前村さんからの電話を受けた時──警察や病院ではない、両親の秘書である彼からの電話で両親の死を知った時──僕はこの荒唐無稽なストーリーに、信憑性を感じてしまった。


 僕はご都合主義が嫌いだ。


 けれど、事実だと眼前に出されたものから検証もせずに目を背ける往生際の悪さは、それ以上に恥ずべきことだと思う。



「実際には」


 前村さんが口を開く。


「あの世からの干渉は、現代ではもう確認されておりません。彼らは神話の時代に様々な手法でこの世におおいに干渉した後、こちらの世界への干渉は控えております」


 干渉とは、争いを意図的に起こさせたり、逆に沈めたり、他にも人間に助言を与えたり自分の子を産ませたり──本当に様々だったという。


「現代の世の中で、扉守の役割というものはほとんどないと言っても良いのです。ただ、それでも用心が必要なほど、その干渉とは凄まじい影響力を人類に与えたのです」


 例えば宗教や神話など、神や悪魔といった類いは、漏れなく干渉の影響を受けているらしい。


 そう聞くと、やっぱり途方もない話半分に聞くだけに留めておきたい話だ。


「……仮に、異世界からやってきた存在がいるとして、もし彼らがこの世に干渉してきた場合、扉守はいったい何をするんですか?」


「それが、わからないのです」


「……え?」


 前村さんは、少し困ったような表情をしてみせた。


「文献には、扉守から異世界へアクセスを行う手段は記されておらず、向こう側からの干渉も千年単位で行われておりませんから」


「じ、じゃあ、危険じゃないですか!?」


「その問いに対する解釈は、個々人で別れる傾向にあります。何せ実際に事が起こった場合、危険があるのかも不明ですので」


 また、と前村さん。


「扉守は極秘の存在ゆえ、その任に就く者には相応の報酬が支払われます。よって、そのようなことは起こらないという前提で報酬目当てに扉守の任に就く方が多いのも事実です」


「ちょっと待ってください。ということは、扉守は他にもたくさんいるんですか?」


「はい。世界各国、合わせて十八の家系が扉守を継いでおります」


「じゃあ、わざわざ僕が扉守なんかやらなくても、他の人に任せれば……」


「不可能ではありませんが、推奨は致しません。その十八の家系も、一時期の半数以下。辞退となれば──ペナルティがないとも言い切れないのです」


 ペナルティ。


 不穏な響きに、背中が凍りつくような寒気を覚えた。

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