第41話 何をしたのか




 「おー、似合ってる、似合ってる」


 扉の奥から道化プルチネルラの衣装をけて、おずおずとした様子で出てきたチェリをわたしはつかまえた。


 正直、仮面で顔が隠れている上に、特徴的な衣装だから、誰が着ても、衣装の印象しか残らないんだけれど、チェリぐらいの背の高さだと、ぶかぶかの衣装が、こっけいというよりも、可愛らしさを強めている。


 「オルタ兄も、似合ってるよ」


 チェリがわたしを見上げて言う。

 帽子の切れ目からはみ出した耳が、ぴん、と立っていた。


 「お、おう。それにしても、外はずいぶんにぎやかになってきたなあ」


 わたしが店に入ってきた時は、店の中にまで聞こえるほどのにぎわいはなかったのだが、たくさんの人が大声で話し合っているようなざわめきが、通りの方から聞こえてきている。


 「何だろね」


 「何か出し物でも始まったかな?」


 わたしとチェリが並んで裏口から外に出ると、どこから集まってきたのやら、裏通りだというのに結構な人数が集まってきていて、数人ずつ固まって何やら話し合っているようだった。

 ざわ、ざわ、という響きが通りの一帯に響いているようだった。


 何か始まるのを待つ間、噂話に花を咲かせているとでもいった雰囲気だ。

 それというのも、ある程度の間隔をおいて群れている人々が、しかし皆同じ方向をちらちらと気にしながら話しているからだ。


 わたしも、人々の視線が集まっている方に注意を向けたのだが、ここからでは、ちょうど荷車の影に隠れて、皆の注意を引いている物が何なのかわからない。


 「チェリ、ついといで、何かあるみたいだ」


 わたしはチェリの手を取って、荷車の向こうに回ってみることにした。


 なんとなく予想はしていたけれど、そこに師匠と、ボビーが、どこか戸惑ったように立っていた。

 ただ、すぐそばに街の衛兵えいへいも二人立っていたのでわたしはぎょっとした。

 四人を中心に街の人々が遠巻きに様子をうかがっているという図のようだった。


 「あの、何があったんですか?」


 チェリの手をぎゅっと強く握りなおし、師匠のそばに寄っておそるおそるわたしはたずねてみた。


 「ああ、こいつのせいだよ」


 師匠が説明に迷っているのを見て、衛兵のひとりが足元を指差ゆびさして教えてくれた。


 よく見ると、なぜか四人の足元にひげづらのおっさんが転がっていた。

 おっさんはどうも気を失っているらしく、ぴくりとも動かない。

 よく見ると両手を縄で縛られている。

 なぜ気を失ったのかはよくわからないけれど、たいした怪我もしていないようで、衛兵が軽く頬をたたくとすぐにぱちっと目を覚まして上半身を起こした。


 「お、俺じゃない、俺は何もしてないぞ!」


 起き上がると同時に、ほとんど反射的におっさんはそう叫んだ。


 うん話はわかった。で、何をやらかしたんだ、おっさん。



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