第38話 衣装




 わたしが、荷台の隅にもぐりこんだのを見届けると、ボビーが地竜をあやつって、荷車を出発させた。


 荷台には、けっこうな数の木箱が載せられていて、縄で荷台に固定されていた。

 手近にあった箱の上板うわいたが、ごとごと揺れる荷車の振動ではずれてしまったのか、中が見えていた。仮装用の仮面がびっちり詰められている。


 上板が外れている箱は、見たところひとつだけで、師匠たちが着用するために、中身を取り出した後、上板を押さえていた縄を締め忘れていたようだった。


 「これ全部お祭り用の衣装なの?」


 板をぴっちり閉めて、ほどけていた縄を結びながらわたしはボビーに聞いた。


 「ええ、あらかじめ注文してあったらしいですよ。正直、安くするためとはいえ同じ物を大量に作りすぎている気もしますけど」


 ボビーが力のない声で答えた。


 「やっぱり」


 「でもまあ、手軽に仮装が出来ますからね、街に着いてすぐに売り出せば結構いけると思ってますよ」


 「道化ってどうにゃのかなあ、要はおちゃらけたおっさんってことでしょ。そんなのに仮装したがるもんかね」


 「あら、プルチネルラは、若い伊達男だておとこふんするものよ」


 師匠が御者席ぎょしゃせきからわたしのほうに振り向いていった。


 「えっまじで」


 「そういう場合もあります」


 「どっちなんですか」


 師匠が仮面のはしをひとさし指でくいっと上げながら言った。それに何の意味があるのかはわからなかったけれど。


 「伊達男説で押していったほうが売れるんじゃない? それに……」


 押し上げた仮面から指を離して、師匠がチェリのほうを指差した。


 そういえばさっきから黙ってるな、と思ってチェリのほうを見ると、抱えている白い布地をぎゅっと両手で抱きしめて、ボビーの衣装をきらきらした目で見つめているのが仮面をつけていてもなんとなくわかった。


 「カッコイイ……」


 まじかよ。


 「おい、チェリ」


 わたしはやさしく妹弟子に呼びかけた。


 「声に出てるぞ」



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