第31話 光



 階段を降りていくと、まず眼を引いたのが広い部屋の真ん中で光のような水を噴き上げている噴水ふんすいだった。


 地下に降りてきたはずなのに、満月に照らし出されているかのように、その噴水を中心に、あたりは明るく照らし出されていた。


 ただし、光は上空から降りてきているのではなく、噴水の吹き上げている水、それ自体が発光はっこうして光をそそいでいるのだった。


 室内は、やはり装飾の少ない石造りとなっていて、床もまた同じ材質でできていた。


 その上に、わたしたち全員が水浴びでもできそうな水盤すいばんえつけられていて、かがやく水を受け止めていた。


 水盤の中心からは、太い光の柱が上空に吹き出されていた。


 吹き上げられ、流れながら、それと同時にこおりついている、とでもいうように、ただ一本の光の柱として冷たく強い光をらしている。


 しかし少し視線を上にずらせば、かたこおった光が見えない壁に当たって砕けるように、光は上の方で四方に飛び散っている。


 その想像以上に激しい衝撃のせいでけてしまったというように、光は、柔らかな燐光りんこうへと変わって、水盤に注いでいた。


 水盤に落ちてしまうと水は輝きを失い、黒々と波打つ水面にあたりの輝きを鋭く写すだけだった。


 噴水のまわりには、くだけても、けることなく細かな粒子りゅうしとなってしまったような淡いきりが薄く光をたもってただよっていたが、噴水のかたわらからある程度の距離が離れたものは、その輝きを失って空中に消えてしまっているように見えた。


 わたしたちが、噴水へ近づいてゆくと、部屋のすみの上方それぞれから、輝く光が滝のように流れ出した。


 こちらの方は、ランプや、き火の炎のように肌に熱を感じさせるような明るい光だったが、地面に着く手前のところで、その熱自体のせいで沸騰ふっとう蒸発じょうはつしてしまうように、霧散むさんしていった。


 この二種類の光源によって、地下の部屋は隅々すみずみまで明るく照らし出された。


 室内は、広々とした空間となっていて、奥の方にはわたしの背ぐらいの石造りの棚が整然と並んでいた。


 手前には、おそらくは、木か、それに近いものでやはり棚が作られていたのではないかと思えるのだが、崩れた残骸や、ただの土塊つちくれちりと化していくつもの小山を作っていて、その中に、何かの部品か、こわれた道具の一部のようなものが埋まっているのが、照らし出されている。


 爺さんは奥の石で出来た棚の方に向かい、背負せおかばんを下ろしていた。その隣にでボビーも荷を解いている様子が見えた。


 わたしもまた、背負い鞄を身につけていたことを思い出し、やっと思い出したというようにその重みが肩にのしかかった。


 そのせいだったのか、どうなのかは、はっきりしない。


 わたしは爺さんのいる方からふと目を動かし、残骸ざんがい土塊つちくれの積もっている一角いっかくにひきつけられた。


 残骸の山の中で、壁の隅に取り分けられたように残っている石造りの棚があったのだ。


 それは、四方を硝子ガラスおおわれた、正方形の水槽すいそうを乗せた台のような造りをしていた。


 水槽の中にはまだ元の形を残したままの何かが置かれているようだった。


 その四方をおおう硝子ガラスが、中にあるものを外の時間からへだて、まもりつづけているようだった。


 当然、そういうものは、中をよく見てみなくてはならないので、わたしは、見当けんとうをつけて、水槽すいそうえられている方へ向かい、残骸ざんがいの上を飛び移って近寄ってみる。


 その辺は手馴れたもので、にゃんにゃんにゃんと簡単にたどり着くことができた。


 どんがらがっしゃん!


 うしろで何か聞こえたような気もするけど、気がするだけに決まってるので、聞かなかったと判断しよう。


そうしよう。




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