第22話 ボビーの提案



 「それで、提案なのですが」


 笑い終えたボビーが、まじめな顔になって、ガドルフ爺さんに話しかけた。


 「私の方で、地竜を二匹、用意できると思うんです。ガドルフさんは、地竜に乗ることはできますか?」


 地竜というのは、大人二人が背に乗れるほどの大きさのトカゲで、全身に細かな羽毛がびっしり生えているのが特徴といえば特徴だ。

 草を好んで食べ、休みなしでかなりの距離を早く移動できるという。

 街中でもよく荷を引いていのを見かけるし、街道でも時々人を乗せたり、荷車を引いているのとすれ違うことはけっこうあるのだが、わたしはまだ乗ってみたことはなかった。


 「ああ、前に乗ったのは、ずいぶん昔じゃがな、体は覚えてると思うよ。地竜が使えるなら、一日あれば着く距離じゃが。借りる金はないぞ」


 つまりは、普通なら、それほど予算がつかない、地味で小さなな仕事ということだ。

 爺さんが疑問に思うのも最もだった。地竜が使えれば、確かに便利だが、徒歩で数日かけて行く時にかかる費用より、倍近く金がかかるはずだ。


 「私も連れて行ってくれるなら、料金は必要ありません。私の方で用意します。私も遺跡に興味があるので、ぜひ見に行ってみたい」


 ボビーが笑って理由を説明する。


 「遺跡は、あちこちにたくさん残っていますが、誰が作ったものか、わかっているものはまったくありません。複雑な道具で、動かせる状態で残っているというのは、とても珍しいですね」


 「ーーまあ、そういうものは、けっこう前からあることは知られているんじゃが、何せ、それ以上のことは、何もわからないまま、先に進んでいないからな。知っている者は知っている、ただそれだけのものじゃよ」


 ボビーが真剣な目をしてガドルフ爺さんをじっと見つめた。


 「エレキを流した道具を動かしていると、天使がそれを探しに来る。昔そう聞いたことがあります」


 「そういう話は、わしも聞いたことならある。だが、確かなあかしを示せたものはいなかったはずじゃよ。ーー天使についても何もわかってないのは同じじゃが」


 「はい、確かに何の証もないことです。しかしその道具を作り出した一族と、天使は何の繋がりもないものなのでしょうか。だとしたら、天使とは何なのでしょうか」


 ボビーが自問するように下を向いてつぶやいた。


 「よくわからないものの代表じゃよ。わしらの住んでいる街や、エーテルなんかとおなじ、そこらにあって、確かにあるということは判っているが、何なのかはよくわからないもののことさ」


 「でも、よく調べてみれば、それらが一つにつながることがあるかもしれません。私はそう思っています」

 

 「うーん、しかし、それは」


 「そう、何らかのあかしを見つけ出さなければなりません。だからこそ、わたしは行ってこの目で見てみたいのです」


 「それはまあ、かまわんよ。地竜を用意してくれるのなら、案内くらいはするさ」


 ガドルフ爺さんが伸ばした手をボビーがしっかりと握り返した。


 「わたしも行くわよ」


 握手している手の上にさらにわたしが重ねようとした手を振り払って、グリシーナが割って入ってくる。


 「どうしてお前が」


 わたしが、むっとしてグリシーナを睨んだ。


 「情報提供の交換条件だったんです。グリシーナさんも一緒に連れて行くというのが」


 ボビーが苦笑していった。


 「あと、とうさんには、わたしがボビーとガドルフさんに、月光草の群生地までの案内を頼まれているって話してあるから」


 「月光草って山の中だろ、ぜんぜん方向違うじゃないか」


 「そこは適当にごまかすわよ、とうさんが謹慎中の内には出発できるんでしょう?」


 「明日の朝には出発するつもりじゃよ。それまでに地竜の用意はできるのかい?」


 ボビーは微笑んでまかせなさいというように頷く。


 「よし、じゃあ、明日の朝ギルド前で集合して、出発しましょう」


 なんだかにゃあ。


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