第21話 お茶の時間



 「で、お前は結局何を知ってたんだ?」


 呆れたような顔をして、ガドルフ爺さんはわたしを見上げた。


 ボビーを先頭に、後ろをグリシーナにふさがれるかたちで、ギルドの事務室に入ってきたときは、かなりびっくりしていたが、グリシーナが事情をひととおり話し終える頃には、だいぶ落ち着いてきたようだった。

 わたしはその間も尻尾をグリシーナに握られっぱなしで、ぜんぜん落ち着くことができなかった。


 「いや、まあ、風車で話したとき、こいつ……、にゃっ尻尾にぎんな、もたぶん、一階のところで、話を聞いていたようなんです。足跡が残ってたし、それで、変なことしないように、親父さんに話に行っただけなんですが。……どうしてこうなった」


 わたしは、握られた尻尾を恨めしげにみつめながらつぶやいた。


 「父さん挙動不審で、その後かーなり大変なことになったのよ」


 グリシーナがわたしの尻尾を握りながら、肩をすくめる。

 わたしは、グリシーナを無視して、ボビーの方を向き、頭を下げた。


 「うう、ごめんなさ……にゃっ、だから力入れんな、尻尾ちぎれるだろ!」


 「ふん、千切れるわけないでしょ、根性なし。それより反省がたりないんじゃない?」


 にらみ合うわたしたちに向かってボビーがとりなすように割ってはいる。


 「はは、実のところ、わたしは今朝、グリシーナさんから、着いてくれば面白いものをみせてあげるといわれて来ただけなので、正直まだ事情がよくわからないんですが」


 え?


 わたしは思わず振り返って、ボビーを見た。爽やかな笑顔だった。

 すぐにグリシーナの方に向き直ると、グリシーナはサッと視線をそらす。

 大事なことなので、もう一度ボビーの方を振り返った。

 相変わらず爽やかな笑顔だ。だがよくみれば、戸惑っているような表情が混じっているのがわかった。


 「今の話、本当ですか」


 「ええ」


 わたしの尻尾を握っている手が離れたのがわかったので、すぐに尻尾を引っ込めて、わたしはもう一度グリシーナの方に向き直った。

 グリシーナは、先ほどよりわたしからやや距離を置いたところにすばやく下がっており、そこからにっこり笑いかけて来た。

 とてもいい笑顔だった。


 「グリシーナ、お前……」


 「まあ、あっちの机でお茶でも飲みながら話を整理しよう」


 わたしが、グリシーナの方へゆっくり近づいていこうとしたとき、ガドルフ爺さんが、区切りを付けるように立ち上がって、大机の方に皆を先導した。いつもは仕事の報告に使っている机だ。


 グリシーナがさっと身を翻し、真っ先に後を着いていって、爺さんのお茶の用意の手伝いを始め、わたしは重い足取りで、机の方に向かって歩き始めた。ふと気付くとボビーが脇にいて、わたしの頭にポンと手をのせ、「大丈夫、何もかもうまくいくさ」的な爽やかな笑顔を向けてくれる。

 わたしはそれに少しひきつった笑顔で答えるだけだった。


 「まあ、こうなったら、この場は、みんな隠し事なしでいこう。まずわしの方から、オルタに頼もうとしていた仕事のことについて話す。どうもその方がわかりやすくなりそうだからな。その後、オルタ、グリシーナ、ボビーさんの順でそれぞれ知っていることを話してくれ」


 お茶の用意が出来ると、爺さんはそういって、風車のところでわたしに話した内容をもう一度皆に説明した。


 その後で、わたしが、風車の近辺でグリシーナらしい真新しい足跡を見たこと、念のため、確認を取ろうとして植木屋へいってみたものの、肝心のグリシーナはおらず、親父さんと接触。その後はむニャむニャ……。


 「むにゃむにゃ言ってないではっきり話しなさいよ」


 「うっさい」


 などの、やりとりが多少あったものの、一通り事情を説明しきる。


 次にグリシーナだが、植木屋に帰ってきた時点では、親父さんはかなり落ち着いているようだったとのこと。

 その点、わたしが親父さんと別れた時にすこし危ぶんでいた荒事などにはなってはいなかったようなのだが、落ち着きを通り越して、あきらかに挙動不審となってしまっていた。


 グリシーナに、「さん」付けで話しかけてきたことから、不振に思った彼女が親父さんを追い込んで、親父さんいろいろと暴露。わたしの話したこととはぜんぜん関係ないことまでついでに暴露。そのまま家族会議へもつれ込み、親父さんは、三日間の謹慎を母とグリシーナから言いつかることとなったそうな。

 いったい何を暴露した。酒樽よ。というかごめん。ほんとごめん。


 「あとあんたは、ガドルフさんとボビーさんがわたしに依頼しようとしていた仕事を横取りしようとしていたことになってるから」


 「はあ?」


 「だから後でよろしく」


 「何を?」


 「父さんに後であやまっておいて」


 「承知しました」


 「はは、確かに面白い話が聞けましたね」


 ボビーは最後まで楽しそうに話を聞いていた。



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