第3話 少女と秘密

感情に従って走っていたらまた病院の屋上に辿り着いた。さっきとは違う表情に、違う感情に、違う人間になってここに立っていた。町並みの方を一度振り向く。その町並みさえもさっきとは違うものに見えてしまっていた。

 それは時間の関係もあって、太陽がだんだん下りてきていて屋上からは綺麗な夕日を見ることが出来た。そんな感動的な夕日も今の華恋を動かすことは出来ない。

 華恋の中にあるモヤモヤを夕日が解消してくれるなら別だが、そうも行かない。


 彼女は誰かに問う。


 私は誰なのか。どんな人間だったのか。どんな事が好きだったのか。どんな友達が居たのか。


 毎日楽しく生きていたのか。周りに虐められてきてないのか。親に愛されて生きてきてないのか。居場所をなくして逃げ出した人間だったんじゃないのか。


 このまま記憶が戻ってしまっていいのか。私の記憶が戻ることを願っている人がいるのか。この世界は私の記憶が戻ることを許すのか。私はこの世界に必要なのか。


「もう……いやだ……」


 さっきはどんな自分であったとしても受け入れる、と決意したが怖いものは怖い。怖くて怖くてたまらない。怖くて怖くて逃げ出したい。そんな気持ちが華恋を支配していた。

 目の前にある柵を越えて淵から飛べば硬い地面が待っている。この柵なら何とか越えられる高さ。

 いっそここから飛び降りて人生をやり直そうか。新しい『華恋』という人間を探そうか。そうしたらどれだけ気が楽になれるだろうか。

 この柵一つが、境界線。

 自分はどっちにいるべき人間なのか。自分はどっちにいたい人間なのか。


「か、華恋ちゃん!」


 屋上のドアが勢い良く開いた。そこには涙を浮かべた美由が息を切らしながら立っていた。ボロボロと大粒の涙をこぼしながらも精一杯に喋ろうとしていた。


「あんな事、言って、ごめんなさい!」


 美由はその場で深く頭を下げて謝った。


「でも、でも逃げないで欲しい!」

「……」

「もしかしたら本当に華恋ちゃんは家出少女かもしれない。このまま記憶が戻らないで新しい自分を探した方がいいのかもしれない。でも、でもそれじゃ本当の華恋ちゃんがいなくなっちゃうんだよ!」


 自分も記憶喪失であるのに。

 自分も怖いはずなのに、そんな言葉が出てくることに戸惑いを隠せていなかった。

 彼女も同じように悩んでいたのかもしれない。でも闘っている。逃げないで闘っているから今がある。


「私は、本当の華恋ちゃんを知りたい! どんなに想像と違う華恋ちゃんでも! 本当の自分を隠したまま生きていくなんて、無理だよ!」

「……」


 華恋が美由の元へ駆け寄った。そして強く抱きしめる。強く、強く、離すものかと言わんばかりに抱きしめる。

 二人はしばらく何も言わずに抱き合っていた。何も言わなくても二人はわかっていた。二人のやるべきこともわかっていた。

 夕日も二人を迎え入れてくれていた。


「やっぱりないなぁ」

「そうだねー」


 先ほど美由が無くしたと言っていた写真を二人で探していた。


「……たぶん、私のバッグには写真が入っていることは無いと思うよ」


 美由はいまだに華恋のバッグを探していた。美由は華恋の言葉に対して可能性はゼロじゃないから調べた方がいいよと言い張って探し続けた。先ほど漁りつくしたくらいに漁ったはずだが美由はまだまだ諦め切れないらしい。


「あっ奥に隠しポケットを発見!」


 諦めなかった甲斐があったのか、奥の方にとても見えづらい布を一枚張っただけのようなポケットがあった。小さいので紙類や薄いアクセサリーのようなものしか入らなそうだ。


「なんか鍵つきの小物入れかな……」

「そうだねー。もしかして写真とか入ってるかな?」

「いや、さすがに……」


 小物入れという名のとおり、普通の写真を入れられるほどの大きさはなかった。

 鍵は暗証番号式で一から九の四桁の数字を並べるタイプだった。数字を回す部分が小さくてとても操作性に難がありそうなサイズだった。

 美由はなんとしてでも開けようと適当にさまざまな番号を試すが、もちろん簡単には開かなかった。


「四桁だから全部で何通りだっけ?」

「わかんないけどきっとたくさんあると思う」


 はーっ、と深いため息をついてからさすがの美由でも諦めてしまった。


「あ、華恋ちゃんの誕生日……わかるわけないか」

「うん、ごめんね」

「好きな数字は?」

「……ごめんね」


 どうしようもないので華恋の鍵つき小物入れは放置という方向に決定した。


「あー、どうすれば華恋ちゃんの記憶戻るんだろうねー」

「やっぱり時間が経たないとダメなのかな」

「ひたすら頭叩いてみるとか?」

「や、やめてよ。頭ぶつけてこうなったからって」

「あ、華恋ちゃん頭ぶつけたのが原因なんだ」


 そういえばそのような事を話していなかったことに華恋は今気づいた。


「でもなんで知ってるの? 頭痛がするから?」

「愛美さんが言ってた、盗み聞きだけど」

「あー、華恋ちゃん悪い子だ」

「そ、それは……っ、まぁ……」


 確かに否定できなかったので言葉が詰まってしまった。その様子に美由が満足そうにニヤけた。


「でも私のときは全然教えてくれなかったなぁ。未だにわからないし」

「そうなんだ……?」

「愛美ちゃんに聞いてもすぐ誤魔化してさ、変なのーって思って」

「へぇ……」

「愛美ちゃん、そういうところ堅いんだもん。だからモテないんだよねー」

「ん? 呼んだ?」


 そう言いながら愛美がカルテを持ちながら病室に入ってきて満面の笑みを浮かべながら美由に急接近した。


「あ、やっほー……」

「で、なんかモテないとか色々聞こえたけど詳しく聞こうか?」


 美由が冷や汗をかきながら華恋の方に視線を向けて助けを求めている。一応助ける方法を考えてはみたが、それでも華恋に出来ることはこれと言って無かった。


「あ、も、モテないじゃなくて持てないって意味だよ!」

「ほう、その心は?」

「愛美ちゃん、この頃ケーキばっかり食べてるからそろそろ持てなくなるからなーって……?」


 ゴツッ。

 愛美のゲンコツが美由の頭に降り注いだ。とてもじゃないが患者にしていい事ではない。そこも二人の許容の範囲内だからこそだと思うが。


「太ったって言いたいのかしら!? ていうかどっちみち悪口じゃないの!」

「ふぇーん……痛いよー!」

「私は心が痛いからね?」

「愛美ちゃんは鉄のハートだから大丈夫!」


 ゴツッ。

 二発目が来た。


「うぇーーん」

「ほら、定期検診の時間だから、行くわよ」

「はーい」


 どうやら検診の時間のため、美由が病室を離れるらしい。


「華恋ちゃん、しばらくは静かにゆっくり過ごせるわよ」

「あ、あはは……」

「むー!」


 美由が頬を膨らませたまま病室を後にした。これで病室には華恋一人だけとなった。静かにゆっくり過ごせることは確かであるのは分かった。

 それでも一人で寂しくいるよりは美由と仲良く話している方が気が楽だった。一人でいるとまた屋上に居たときのような恐怖に襲われるか不安なのである。

 寂しさを紛らわすために音楽プレイヤーを起動してイヤホンを耳にさす。この音楽プレイヤーの持ち主、つまり「前の自分」はいつもこうして音楽を聴いて楽しんだり癒されていたのだろう。

 適当に再生しているとアイドルの曲が次から次へと流れてきた。きっと流行りのアイドルの、流行りの曲なんだろう。友達と振り付けなんて覚えちゃって、学校で披露しちゃっているのだろう。


「ん……ちょっと今の私には良さが分からないかな……」


 そう呟きながらも聴き続ける。聴き続けていれば、前の自分に近づける気がした。だから華恋はずっと聴いていたかった。

 聴きながら小説にも手を伸ばして読み始めた。

 女子中高生から大人の女性まで幅広く人気な恋愛小説らしく、帯には映画化決定という文字がデカデカと書かれていてその下にキャストやスタッフなどが書かれていた。それほどまでの人気を博していることが分かる。

 パラパラと飛ばし飛ばしで読んでいく。流れている曲も次々変わっていく。

 高校生に通う男女六人の青春たっぷりの恋愛という内容なのだが、軽快なテンポでスラスラと読める。前の自分も華恋もこういう小説が好きなのだ。


「もしもーし!」

「わぁ!?」


 華恋はすぐにイヤホンを外して声のした方に見上げた。そこには愛美とは違う初対面の看護師がいた。


「イヤホンで聴くのはいーんだけどさ、他人の声が聞こえないほどの大音量はダメだかんね?」


 ちょっと怒り気味の吊り目の看護婦さんを見て華恋は戸惑いながら謝った。


「あー、アンタ午前中に運ばれて来た記憶喪失の子か、そっか」

「は、はい」


 とても看護師とは思えない言葉遣いにさらに戸惑いを覚えていた。華恋にとってまだ愛美しか看護師を見ていないので判定しにくいが、とてもイレギュラーであることはすぐに感じ取れた。


「あの、お名前は……?」

「んー? 普通自分から名乗るのが筋ってもんじゃ……って記憶喪失だったわね、ごっめん」

「い、一応隣のベッドの美由ちゃんに『華恋』って言う名前を貰いました」

「ほほぅ、そりゃいいや。いい名前付けてもらったねぇ。アタシは北川由乃香、ユノカって気軽に呼んでよ」


 気軽な人間だから、気軽に呼んでもいいのだろう、きっと。


「いつも仲良くしてる愛美ちゃん? あれは直々の後輩だね。可愛がってやってるわ」


 こんな先輩にあんな後輩とはなかなか強烈だな、というのが華恋の素直な感想だった。


「ユノカさんは、この病院に長くいるんですか?」

「まぁそれなりにね。こんな身振りだけど仕事はちゃんとこなすからさ」


 自分でも色々自覚はしているらしい。どんどん情報が増えていってなんだか楽しい会話になってきた。


「美由とはもう友達になったみたいだね、ましてや名づけてもらうなんてもう親子みたいなもんだ、はは」


 確かに友達という一線を越えていると言われればそうかもしれない。 


「でもあの子も元気になったもんだねぇ」


 そういえば誰かから美由も最初は心を開かないでいたというのを聞いていた。そこから比べて誰の目から見ても元気に過ごしているのだろう。


「すごかったのよー、もう。まぁそりゃそうよね、危うく死ぬところだったんだし」

「……え?」


 ユノカの言葉に引っかかりがあった。


「ここだけの話よ、あの子なんでここに運ばれて来たと思う? なんで記憶喪失になったと思う?」


 美由がついさっきまで言っていたこと。もちろん華恋だって覚えている。

 自分がなぜこうなったのか誰も教えてくれなかった。だからなぜ記憶喪失なのかわからない。

 ユノカの言葉の続きが唐突に恐ろしくなった。


「あんま詳しく知らないけど、自殺に失敗してこうなったらしいよ?」




「やっほーい、帰ってきたよー!」


 美由が元気良く病室に戻ってきた。後ろにいた愛美から病院内は静かに、と注意されるもお構いなしだ。


「あ、お、おかえり……」

「寂しかったでしょー、けっこう時間かかってさー。全然私は元気なのにねっ」

「そ、そうだよね……」


 こんな元気なのに。

 こんな元気な美由なのに、自殺しようとしていたなんて誰が信じられるか。もちろん華恋の中でもしっかり受け止め切れていない。

 ユノカは本当に詳しく知らなかったようで華恋が問い詰めても他の人に聞いてくれとしか返さなかった。愛美に聞けば何かわかるかもしれないが、聞くには相当な勇気と覚悟を要する。

 どうすればいいんだろう。

 そんなモヤモヤした感情が華恋の中で巡っていた。


「んー、元気が無いよー? やっぱり寂しかったんだっ」

「う、うん、やっぱりー……」


 美由の事はこれ以上聞けなかったがユノカから自分についての情報を手に入れることに成功した。

 自分はこの街の駅前で倒れていたらしく、記憶を失ったのは階段から転げ落ちて頭を強く打ったのが原因だとか。そして身元が分からないので警察に届けを出して今も捜索しているとの事。もしこのまま退院したら警察に身柄を渡すことになるという事。

 そんな事を教えてもらったが、それもどうでもよくなるくらい美由の事が気になって仕方なかった。美由の事で頭は精一杯だった。


「大丈夫だよっ、私は居なくならないからっ」

「でもいつしか退院はしちゃう……けど?」

「んー、退院したあとも遊べばいいよっ。会いたい時に会うのっ」


 いつもどおりの美由の笑顔で安心している感情もあるが、それ以外の感情も湧いてきてしまう。湧いてきてしまい、つい言葉にしてしまう。


「美由ちゃんって、本当にすごいよね」

「え、またまたどうしたの急に」

「なんか、人の事を大切に思いやれるというか……」

「まぁ、そうなのかな、えへへ」

「自分の事、心配にならないの……?」

「ん?」


 美由の不思議そうな表情が見えた。その表情を受けながら想いは続く。


「なんでそんなに私のことを想ってくれるんだろうな、てやっぱり思っちゃうんだ……」

「……どうしたの?」

「前にもこんな事聞いたかもしれないけど、なんで私にこんなに優しくしてくれてるのかなって……」

「……ふふ」


 突然、美由の漏れた笑い声が聞こえてきた。対して今度は華恋が不思議そうな表情を浮かべる。


「優しくしたいからだよ、それは。なんか華恋ちゃん見てると、とてもホッコリするの。話してるととても楽しいし」

「そ、そんな、私には何も記憶が無いから楽しいはずが無いし……」


 必死に否定する。まるで言い訳するように否定する。逃げるように、避けるように。


「華恋ちゃんは」


 声をそこだけ大きくして言った。空間が一旦停止する。


「華恋ちゃんは、なんか初対面じゃない感じがあるの」

「え……?」

「運命って言うのかな、わかんないけど。特別なの、それが理由で良いかな……?」


 予想だにしていない答えが返ってきて華恋はあたふた戸惑っていた。

 嬉しい。嬉しいけど、それ以上に驚き。こんな自分に対してそんな大々的な事を思っていたなんて。


「そんなこと悩んでんだ、華恋ちゃん可愛いっ」

「う……」


 そして恥ずかしかった。嬉しさとか驚きがどこかへ走り去ったかと思えば、羞恥が襲ってきた。真っ赤になった顔を見せたくない華恋はうつむく。


「でも話してくれてすごい嬉しいよ」

「美由ちゃん……」

「これからも、何か想う事とか悩みがあったら躊躇せずに話して欲しいなっ」

「……」


 ここで華恋にとある雑念が現れた。先ほどユノカが話していた事を思い出す。

 今、打ち明けるべきか。

 それとも黙っておくべきか。

 もしくは美由もその事を知っているのだろうか。


「うぅぅ……」


 分からなくなった華恋は美由に抱きついて温かい身体に身を寄せた。


「よしよし、良い子良い子」

「ごめんね……美由ちゃん……」


 隠し事は無し、と二人で決めた約束は華恋の手によって破れてしまった。




 目を覚ましてから一日経った。「華恋」となって二日目。今日もお昼ごろに美奈子がお見舞いに来ていた。

 美由と仲良く話している様子を隣から優しく眺める。

 美奈子はもちろんあの事を知っているだろう。ということは美由が知らないなら、美奈子も隠し通しているのだろう。美由のお父さんも。もしかしたら愛美も。

 まるでみんなで騙しているみたいで気分は優れなかった。


 でも。


 その人のためになるウソは正義か。

 永遠に議論されるこの問題が華恋の中でも生まれていた。


「ん、華恋ちゃんどしたー?」

「ちょ、ちょっと外の風に当たってくるよ……」


 居ても立ってもいられなかった華恋は思わず病室を飛び出してしまった。美由と美奈子を親子二人きりにさせた方が良いと思った結果だ。


「あら、気分が悪いのかしら……大丈夫?」

「だ、大丈夫です。どうぞ二人で楽しんでいてください」


 そう言い残して華恋は病室を去った。美奈子の心配そうな顔を背中に受けていたことは華恋にも分かっていた。

 まだこの病院に来て二日目だが、既に屋上の居心地の良さに浸っていた。まるでここが自分の居場所みたいな感覚も持っていた。今日も柵越しにこの街を眺める。

 今日はそういえば夕方から大雨らしいので昼間から暗い雲が街を覆っていた。もちろんこの病院もすっぽり覆ってしまっていて。


「んー、ちょっと寒いかな、今日は」


 華恋が呟いたとおり、今日の屋上を吹く風は冷たかった、昨日と比べると格段に。あまり長時間ここに居座るのは体調的にまずいだろう。

 病院の前庭をふと覗いてみると、この天候にも関わらず小さい女の子二人が咲き乱れてる花を見て喜んでいた。そう、目を覚ましたばかりの時に病室の窓から少女たちだ。

 確か二人ともベッドが隣同士でとても仲良し。そしてもうすぐ退院する予定とか。そんな情報を華恋は記憶していた。華恋は柵に全身を持たれかかりながらぼーっとその様子を眺める。特に思うこともないが、なんだか見ていたくなる。 


「あ、昨日の小娘」


 小娘、と言われて反応した先には吊り目の悪くて軽そうな看護師でおなじみのユノカが居た。その白肌の右手の指の間にはタバコが挟まっていて、口元に運ばれていた。


「あの……こんなところで吸ってて……」

「あー、告げ口しないでよね」


 なぜ睨まれながらそんな事言われないといけないのか華恋には理解し難かった。


「何見てんの?」


 華恋の隣で柵に持たれかかるユノカ、タバコの匂いが華恋の元に届いて少し嫌悪感を抱いていた。


「あー、あの子たちね。すごい仲良いわよねー」

「そうですね……」

「まるでアンタたちみたいだ、はは」

「そうなんですか……?」

「そうさ、アンタたちをそのまま小さくしたみたいだ」


 そう言われてから彼女たちを眺めてみる。果たして本当に自分たちみたいなのだろうか、と。彼女たちの間には純粋な友情があるとしか思えない。自分たちのような、複雑な関係ではない、確実に。

 だからユノカの言葉には肯定出来なかった。


「あ、そうだそうだ。アンタ見つけたら渡そうと思ってたもんがあるんよ」


 ユノカがタバコを咥えながらごそごそとナース服のポケットを漁り始めた。


「アンタがここに運ばれてきてる最中に何か落としたの見てさ、アタシ偉いから咄嗟にソレを拾い上げたわけよ。でも忙しかったからさ、どこにしまったか忘れちゃって昨日からずっと探してたんだよね。で、やっとさっき見つけたってわけさ、偉いだろ」


 偉いけど偉くないけど偉い話をされて困惑している華恋の前にとあるモノを見せられた。


「アクセサリー……?」

「なんか入ってるみたい。アタシ偉いから中身見てないから安心しな」


 ユノカから黄緑色のアクセサリーを受け取る。


「形からして、プリクラとかよね。入れてるもの」


 そっと開いた。

 ユノカの言うとおり、中に入っていたものはプリクラ。二人の女の子が笑顔で映っている。右下の日付を確認すると、大体三年前。どこかでそんな写真の存在を華恋は聞いていた。

 写真の女の子を凝視する。片方は面影からして三年前の自分、そしてもう一人の隣の女の子は。


「ん、どした?」

「……っ!?」

「あ、ちょ、え。どうしたの! どうしたのよ! しっかりして! おい!」


 華恋は突然全身の力が抜けたかのように倒れそうになりユノカが受け止めた。ユノカが必死に呼ぶが、応えることもなく目を閉じていた。

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