第5話だからダイエットを始めたのです
太っていることを気にしだしたのは私が中学3年生になってからだ。
それまでも人より丸い体型を体育や水泳の授業の時に少し恥ずかしいなとは思っていたが、どうこうしようとまで思ったことはなかった。
私の初恋は中学3年生の時、それがまさに悲劇の始まりである。
クラスのムードメーカーで、いつも人の中心にいるような活発で明るい男の子だった。
とろくて人の倍頑張らないとうまくいかない自分とは大違いで、人を引っ張っていける力を持っている、そんなところに惹かれた。
別に告白する気も付き合いたいとも思っていなかった。淡い初恋として自分の中で勝手に楽しんでいた。
それは突然だった。
教室でも廊下でも、特に親しいわけではないクラスメイトから、全く見知らぬ同級生から視線を向けられて、その後くすくす笑われる。
のろまは私はなんだろう?くらいにしか思わなかった。
しかし真相はあまりにも簡単で、だから人の興味をくすぐった。
何が理由で教室に帰ってきたのかは忘れてしまったけれど、私が不在で私の名前が会話の中に含まれているのを聞いてしまい、開けようとした扉を開けられなかった。
田亀ってさ、やっぱお前のことばっか見つめてるよ
あれだろ?いっつもとろとろ最後尾うろついてるデブ
そうそう、そのくせ名前が姫ららなんて、名前負けしすぎだよな
ちょっと酷すぎー!本当のいことだからって言っていいことと悪いことがあるしー
そういうお前だって言ってんじゃん
あはははと響くような笑い声がしている
頭を殴られたような衝撃があって、自分がどこにいるのか、その一瞬は本当にわからなくなった。
で、どうなの?田亀と付き合うの?
は?あんなデブ無理に決まってんだろ
扉を開ける勇気は出なくて、必死で走って家に帰った
家に帰って部屋にこもってぐずぐず泣いた
親はとても心配していたけれど、自分のことでいっぱいいっぱいで話せそうになかったし、そんな風に声をかけられることがすごくうっとおしかった
その後、中学を卒業するまでは辛くて辛くて仕方なかった
特にひどいいじめにあったわけではなかったが、だれかの視線が怖くて仕方なくなった。
今思うと、誰も私のことなんか見てるわけなかったのに、一人でいるとみんなが私の噂話をしているような気がして不安で不安で仕方なかった。
親にもさんざん当たり散らした。
名前のことに関しては特に言い合いになった。言い合いになって、部屋にこもって自己嫌悪に陥ってひたすら泣いた。
ひどかったのは、学校でも家でも積もり積もっていく不安と上手に履け出せない言葉を、食べることで飲み込んだ。
そして胃が苦しくなってトイレにこもって吐き出した。
食べ物と一緒に汚い感情全部吐き出した気になっていた。
そんな生活が数ヶ月続いた時に、母が泣いたのだ。
母が泣いて、やっと目が覚めた。
人のせいにして、こんなんじゃダメだ。
こんな私じゃ、笑われて当然だ。
自分に出来ること。自分を変えること。
そう考えたときに、一番最初に思いついたのがダイエットだった。
バランスよく食事をするために、母と一緒に料理をするようになった。
朝1時間はストレッチをしたり運動をするようになった。
そうすると心も少しずつ落ち着いてきた。
今でも人の目は気にしてしまうし、目立つ人たちとはなるべく関わりたくないけれど、高校では中学みたいなことにはならないように、自慢の娘でいられるように、努力していこうと思っていた。
突然発生した能力のおかげで、あまり身は結んでいないのだけれど。
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