第4話曲げられないからぶつかり合う
「ごめんね田亀、また今度なんか奢るから!」
「いいよいいよ、気にしないで」
ごめんねと言いながら友達は急いで教室を出て行く
放課後の教室には掃除道具片手に持った私一人。
さてと気合入れて頑張らなくちゃ。
「掃除しますかあ!」
「早く終わらせて帰るぞ」
「わあああああ!」
1人だと思い、欠伸をしながら自分に喝を入れるために大きな独り言を漏らしていたのに、背後から突然テンションの低い声が聞こえてびっくりして飛び上がってしまった。
しかもそれをまた何やってんだという目を向けられる。
最悪である。
「びっ、びっくりした!」
「見りゃわかる」
「え、何でいるの!?」
「今日の掃除当番、中崎たちだろ。なんでお前が残ってるんだよ」
「みんな予定があって残れないらしくて。私暇だし」
どうしてか片桐くんは眉根を寄せて不満げである。
あまり物事に興味がないのか、クラス内でのちょっとしたいざこざにも特にリアクションを出さない片桐くんにしては珍しい。
まりちゃんに用事でもあったのかな?
まりちゃんとは、去年の文化祭でのミスに選ばれた女の子で、華奢で折れてしまいそうに細くて化粧がとっても上手でお目目ぱっちりのクラスメイトである。
はっ!!!
「もしかしてまりちゃんのことが「違う」
今世紀最大に冴えてるよ私!という勢いで喋ったのに遮られてしまった。
もしかして、照れて「照れてるわけでもない。ありえない勘違いするな」
「思考まで読んで遮らなくても・・・」
「何考えてるのかわかりやすすぎるんだよ 」
もういい、と言って片桐くんは箒を手に教室の前の方に歩いていく。
「え、え、手伝ってくれるの?」
「お前一人だと日が暮れるだろ」
その言葉に、胸の中のどこかがちくりと痛んだが、気づかないふりをしてありがとうと笑った。
「お前さ、なんで痩せたいの?」
「唐突だね」
「ずっと聞いてみたかったんだよ。女子ってなにかと太る太るって言ってダイエットだって騒いでるだろ。細くて今にも折れそうな体してそれ以上痩せたら気持ち悪くなりそうなやつでもダイエットって口にするしな」
「細いほうが可愛いもん」
「そんなもん人それぞれだろ」
苦笑が漏れた。
そうだよね。何をしても大抵肯定されて、判断する側にいる人にしてみれば、こんな話は無意味なのかもしれない。
「太ってるより痩せてる方が可愛い服着れるし、写真写りいいし、万人受けするよ」
「万人受けしたいわけか」
「・・・可愛くもなりたい。それで・・・」
「それで?」
つい口を滑らせてしまった。
誰に言うつもりなんてなかったし、多分呆れられる。
しかし、見逃してくれる気はないらしい。
口が動かしながら動いていた手を止めて私の方へ視線をよこしてくる。
早く言えとその目が伝えてくる。
「・・・・・・・・・穏やかで優しくて収入が安定してて休日家族で出かけてくれて浮気しない誠実な旦那さんを捕まえたい、です」
早口で唱えるように言った言葉に、片桐くんの動作がぴたりと止まる。
「・・・なるほど」
「・・・うん」
恥ずかしいいいいいい!!!
顔が真っ赤になっている。顔どころか耳も首もまっかっかである。
こんな打算的で欲に塗れた願望をあたしみたいな丸いのが言うとただの痛い奴だって知ってたのにいいい!
羞恥に悶々としている横で、さっさと立ち直った片桐くんはゴミ袋を縛り出した。
後はゴミ捨て場にゴミを持って行って、掃除道具を片付けるのみである。
「そのために必要なのが痩せることが必要なのか?」
まだ!まだ終わってなかったのかこの話!
「うん、まあ」
「万人受けしたいってことは、つまり痩せてモテたいってこと?
「別にモテなくていい。というかモテたくはない。そんなふうに目立ちたくないし。ただ、いい人見つけるには自分磨きしなくちゃいけなくて、そのための一つがダイエットであって・・・」
「太ってる自分が嫌だと」
太ってるという言葉に尋常じゃないダメージを食らったが、本当のことなので何も言えない。しかし、カチンときたのを抑えられそうになかった。
「太ってるとその印象が強く残って、太ってる子ってだけになるし、イメージ悪いでしょ」
「太ってることがイメージ悪いっていうのは思い込みすぎだろ」
「よくないよ。だからそれを覆すようなでプラスの要素がないと普通になんないんだよ。太ってるといろいろ苦労するんだよ」
「普通だとかプラスとかってなんだよ。苦労してるのはみんな一緒だろ。太ってても太ってなくても関係ない。お前は自分が太ってるって思い込み過ぎなんだよ。誰もそんなことばかりに注目したりしない」
「だって実際に太ってるんだもん」
「別に太ってねえだろ」
「さっき太ってるって言ったじゃんか」
「言ってねえよ。お前が自分のことを太ってると思ってるって言ってるんだよ」
言い合いが止まらない。
わかってくれない人にいったところで仕方ないのに、と覚めた思考が片隅にあるのに、分かってくれないことに苛立つ自分を抑えられない。
「そんなことにこだわってんなら、お前が友達に安請け合いしてるボランティアも友達も薄っぺらいもんになるぞ。それに、無視されるのは腹立つんだよ」
顔から血の気が引いていく。
ばれていた。
私が私を守るために、打算的な付き合いをしていることが。こんなつまんない人間だということを、改めて指摘されてしまった。
「普通だとか、太ってるだとか、評価してるのはその他大勢じゃない。お前だろ」
ゴミ捨ててから帰る。お前は教室の鍵しめとけよ。
そう言って片桐くんは立ち尽くして動けない私に背を向けて、ゴミ袋とバックを持って教室を出ていった。
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