第3話輝かしい人たちのこと

彼、片桐唯世(かたぎりただせ)君は、私のクラスメイトで、主席入学を遂げ毎回のテストで1番に輝き、しかも運動神経も良いという、ちょっとした天才だ。

しかも身長が高くて顔も整っているというハイスペックぶりである。

もっと学力の高い高校に行ける実力があったそうなのだが、わざわざ家から遠いところに通いたくないという理由でうちの学校を受験したと噂されている。




自ら中心に立って指揮するわけではないし、振られたらきちんと返事をするし、場をもり下げるようなことや、ましてや空気を壊すような発言はしない。

他の男子よりもどこか大人っぽさというか、寛大さがあり、女子からはすごく人気が高い。また男子からの信頼も厚い。

そしてそして、先生からの覚えもめでたい。

言動や行動が他人や物事にひどく影響を及ぼす、地味で背景みたいな私と月とスッポンみたいな一に存在する人なのだ。


同学年といえども階級は存在する学校生活内で、どうして関わるようになったかというと、それもこの能力のせいなのだ


2年生に進級して1ヶ月ほどが経ち、クラスでもそこそこ馴染めたかなという頃、能力を使ってしまい、大食いの現場を見られたくなかった私は所属している家庭科部の権限を使って鍵を持ち出し調理室でチョコレートケーキを黙々と作っていた。


家に帰るまでこの症状を抑えきれなかったことと、単純にお金がなかったからである。

家庭科部は作りたい人が作りたい時にというのが基本で、文化祭前以外は活発に活動していない。

そのため気まぐれにやってきた部員が使いさしの材料を置いていることが多いのだ。

数日前に誰かが使用したのか、使いかけの卵とチョコレートと小麦粉があり、賞味期限と保存状態を確認してせっせととんでもない量のケーキの製作に励んでいたところを見つかってしまったのだ。


目の前にできたてのケーキがあってその時は早く食べたい本能が抑えきれず、何度頭をひねっても何を話したのか全く覚えていないのだが、能力のことも反動で食べずにはいられないことも全て喋ってしまっていたらしい・・・


それからなぜか片桐君は何度も接触してくるようになった。

教室にいる時にではなく、能力を使って暴食して来る時に現れるのである。

体育館の裏、屋上、花壇、人が近寄りそうもないところでコソコソしているのに、いっつも見つけられてしまう。


…一度尋ねたことがあるのだが、わかりやすいからと言われてしまった。

単純ですか、そうですか…


そんなこんなでボーっと時間を潰して始業時間ギリギリに教室につき、そろそろと扉を開けた。


「田亀おはよー」

「田亀ー、先生が授業終わったら職員室に来いって言ってたよー」


「わかった、ありがとー」


うむ、いつも通りのクラスの雰囲気である。自分の席について、ふう、と一つため息がこぼれた。



時間は流れてお昼。

クラスメイトの友人たちとお弁当を教室で一緒に食べる。

女子とは話題が豊富な生き物で、化粧品から新作のお菓子から宿題から、おしゃべりは止まらない。


「あれ?田亀今日それだけ?」

「ほんとだー。残ってるじゃん、めずらしー。」

「田亀のお弁当、毎日すごく美味しそうだけど量が多いから私だったら食べきれないわー」

「わかる。その半分のサイズで十分だよねー」


そうか。私的にはお弁当の量を抑えていた方なのだが、そうか。最近の女子の胃袋はどうなっているんだ。


「もしかしてー、ダイエットお?」


新しい話題を見つけた、というように楽しそうに一人が声を上げる。


「え!田亀がダイエット?しなくていいよー、別に太ってないしー」

「そうだよー、てかマリちゃんほんと細いよね。なんでそんな細いの?」

「何もしてないよー、食べても太らないっていうかー」


そっとお腹を抑える。

つまめる。肉厚。

目の前でお弁当を広げている女子たちはみんなすらっとしていて顔も小さい。

なんだがいたたまれなくて、いつもならご飯を食べるこの時間が一番楽しいのだが、今日は早く終わって欲しかった。



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