第1章 あれ? 俺必要なくない?
プロローグの翌日――相楽さんのお願いというのは俺の予想していないところで……
『夏コミ新刊のストーリー……あんたが考えて!』
……いやいや、何で俺が?
即答できるはずもなく、それどころかすぐにでも断ろうと思ったんだよ?
『こうして勉強や作品を見てあげてるのは……誰だったかしらね?』
こんなこと言われて断れるはずもないよ?
殆んど半強制的に、相楽さんの同人誌作りに俺が関わることは確定してしまった。
実際に世話になっているので文句は言えないし、言う気もない……むしろ、こうやって少しでも恩を返せるのは望むところではある。
だけど、俺がストーリーを考えられるかは全くの別問題だ。
「あれだけ近くで、あんな素晴らしい作品に触れてきたっていうのに、俺ときたら……」
俺の憧れで、そして神様であった霞詩子こと霞ヶ丘詩羽……そんな人の作品にずっと触れてきて、更には生み出す手伝いまでできた……
それなのに……それだけ貴重な経験を積んできたはずなのに……
「どうして、何も浮かんで来ないんだ……」
パソコンに向かい5指を用いてキーボードを叩き文字を打ち込むが、2~3行も進まない内にバックスペースを押し続ける作業を何時間続けたことか……
「大体、オリジナル同人誌のストーリーを素人に任せて大丈夫なの? っていう話なわけですよ、本当に!」
相楽さんは普段の俺から何を感じ取って俺に任せようだなんて思ったんだ……いつも俺が書いてる作品、というには出来が悪すぎるモノに駄目出ししてるのに……
大学受験に失敗し浪人一年目となった俺は、勉強だけではなくあることにも挑戦していた。
それはストーリーを……世界を創ること。決して中二病を患ってるとかじゃないからね?
去年の俺は担当編集として、創造の手助けは出来ても、一から何かを生み出すことは出来ていなかった。
その手助けすらも、霞詩子が創った基盤となる設定やキャラが……世界、そして住人がいたからだ。
俺と相楽さんの元から離れていた詩羽先輩に、憧れに少しでも近づくため……と言えたら多少は格好もついたけど、きっと繋がりが欲しかっただけだと思う。
創造の世界で、いつか邂逅する時が来るんじゃないかと、そんな夢を持って――
「ねえ、いつまで自分の世界に浸ってるつもりなの?」
「くぁwせdrftgyふじこlp」
「ちょっと、中の人が大変そうなのはやめなさいよね」
「中の人って何!? そもそもこれ二次創作だから!」
本当にビビった……大体、どうやって入ってきたの? 鍵の置場所知ってる金髪ツインテール幼馴染みじゃあるまいし……
「ああ、おば様がどうぞって言ってくれたからお邪魔したの」
「俺、口に出してないよね? 人の思考読むのやめてよ!?」
そういえば、相楽さんはウチに通うようになってからはすっかり両親と親しくなったなぁ……もう、俺以上の信頼を寄せられてるんじゃないだろうか?
とりあえず、相楽さんがどうやって入ってきたのかはわかった……納得してないけど、わかった。
じゃあ、彼女は一体何しにウチに? いや、つい今しがたウチに通うようになってってあるんだから、普通に考えたらわかるようなもんだけどさ、普段は事前に連絡とかがあるんだよなぁ……
「あたしから頼んだことだし、やっぱり心配にもなるじゃない?」
「相楽さん……」
なんだかんだでこの人は俺のことを心配してくれているようだ……気遣いのタイミングがいつもおかしい気はするけどね!
「それで、今のところどう? 何かしら思い付いた?」
「いや、それが全く……」
「それはそれでどうなの……」
多少は進捗があることを期待していたらしい相楽さんに対し、期待を裏切るような言葉を選択した。
まあ、嘘を言っても仕方がないからなぁ……
「それじゃあ、題材はあたしが考えてあげるから、そこから組み立てるっていうのはどう?」
「え、でも、それだと相楽さんの負担が増えてしまうじゃ……」
「大丈夫! これでも長いこと同人作家やってるんだから、その辺のことはある程度わかってるつもり!」
相楽さんの有り難い申し出はこの際受け入れることにするとして……えっと、俺ってこの場に必要かな?
※ ※ ※
「よし、出来た!!」
それからの相楽さんの作業は本当に手早く、2時間と掛からない間に題材を用意してくれた。
「何々……女性同人作家と、そのアシスタントの話か……」
あれ? この題材に近いラノベを何処かで見たような……いや、突っ込んだら駄目な気がする……
「なかなか良い出来だと思うのよね……仮でタイトルを付けるとしたら……『彼女と俺の燃えよペン』とかどう?」
「却下ッッッ!!!」
冴えない未来の選びかた 半座 @hanza
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