冴えない未来の選びかた

半座

プロローグ

 会議室に差し込む眩しい夕陽の……

「ちょっと! いくらなんでもこれはどうかと思うんだけど?」

 ……ではなく、夕陽の差し込む俺の部屋。

「いや……だからさ、まだ見せられる物じゃないって説明したでしょ!?」

「だったら、こんな見てくださいと言わんばかりに出してないで片付けておきなさいよ。それにしても、見たことのあるような設定ばかりね、これ……」

 春も過ぎ去り、今は6月――暖かいというよりかはジメジメして気持ち悪く、暑苦しいと感じるようなこの季節に、何故だか俺の部屋の気温は下がっている訳で……

 まぁ、原因は俺のせいなんですけどね? それでも、そんな簡単に認められないこともあるというか……

「これじゃあ、勉強の方も全く捗ってないんでしょ?」

「おっしゃる通りでございます……」

 年が明け、年度も変わって……この人には全く頭が上がらない。

 サークル『Cutie Fake』の同人作家であり、初の商業作品『純情ヘクトパスカル』でもその実力を余すことなく披露し、デビュー以降はあらゆる方面から「可愛いイラストと言えばこの人!」と名前が上がるまでに躍進した実力派作家。

 本人も可愛いものが好きというだけあって、行き過ぎない絶妙なバランスのコーディネートを施し、自身という素材を最大限に活かしたその可愛い系ビジュアル。

 嵯峨野文雄こと、相楽真由。


 今のこの部屋にいるのは俺と、相楽さんの2人だけだ。

 去年までは、このメンバーにもう1人……俺たちの関係の主軸となっていたはずの人がいた。

「全く……霞さんが見たら呆れるわよ?」

 霞詩子――本名を霞ヶ丘詩羽。大ヒットライトノベル『恋するメトロノーム』を生み出した人気作家だ。

 その後の『純情ヘクトパスカル』はアニメ化も果たし、今ではオタクであれば名前を知らない人はいない大人気作家となった。

 そんな人も、2年前までは俺と同じ学園に通う先輩であり、去年までは俺の担当作家だったわけで……

「今も新作の打ち合わせ中だったりするのかなぁ」

「どうだろ……詩羽先輩のことだから、自分の言いたいことだけ伝えて帰るか……その場で寝てるかも?」

「いくらなんでもそれは……ま、まあ、言い切れないのが凄いところよね……」

 だからかな、相楽さんと2人で会うと必ずと言っても過言ではないくらい、詩羽先輩の話をしている。

 本人とも連絡は取り合っているけど、やはり忙しいみたいだし、会うとなるとそれこそ2~3ヶ月に1回会えるかどうか……

 今の俺たちは、あの頃のように3人揃って何かしら作品を作ったり出来ていない。

 詩羽先輩の躍進に関しては、喜ぶべきところなんだけどね? ……でもさ、やっぱり寂しいとは感じてしまって、だからか自然と相楽さんとは2人で頻繁に会う。


「そういえば……あんたに少し協力してほしいことがあるのよ」

「俺に? 普段から世話になってるし、やれることなら手伝うけど……」

 なんだろう? 俺の方から何かしら頼むことはあっても、相楽さんの方からとなるとあまり聞かないからか違和感というかなんていうか……


「ふふふっ、もう断るのは無しだからね?」


 俺の返事を聞いた相楽さんは何かしら含みのある笑みを浮かべているんだけど……

 ――違和感じゃなくて不安だったわ、これ。

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