第31話 俺、飯盒炊爨する part1
俺たちの班が集合場所である中央広場に着いたのはクラスで1番最後だった。
つくづく最後ばっかりだな。嫌になるぜ。
これが俺の性か?
「みんな揃ったね。とりあえず、レクリエーションお疲れ様です。美越村の広さは全国的にみてもかなりのものだ。そこを歩き回ったのだからお腹も減っているだろ」
担任のメガネが話し始める。その間も俺のお腹は鳴り止むことはなくぐぅーぐぅー言ってやがる。
「ってことで、今からは
途端に生徒たちの表情が明るくなり、やっとかーなどの声が漏れる。
「静かにしてください。みなさんがレクリエーションをやっているうちに準備は整えておきましたので行きましょう」
座っていた俺たちに手を上下させる仕草で立つように指示する。
操り人形かのように揃って立ち上がる。
そして移動開始だ。
もちろん歩き。徒歩だ。移動するなら集合場所を飯盒炊爨の前にしろよ。効率悪すぎだろ。
愚痴り出したらキリがないが空腹状態が極まって苛立ちを促進させる。
「準備はいいからバス出して欲しいよねぇ」
見るからに怪訝そうな顔をしていたのか優梨が疲れたような笑顔を向ける。
気遣わせたかな?
「そうだな。ってか、今日俺とばっかり話してるように見えるけど……いいのか?」
とりあえず会話しようと思いここ半日で思ったことを口にする。
バスに乗っている間はどうか知らないが、着いてからは俺と居た時間が長い気がする。自然公園の時もだし、クライムウッドへの移動中だって……。思い返すと常に隣には優梨がいたような感じがする。
「えっ……」
そんな優梨から返ってきたのは間の抜けた声だけだった。
実際にはそこから先は言葉になってなかった。ごにょごにょと顔を赤らめながら言葉にならない音だけを漏らしていたのだ。
「大丈夫ですかー?」
優梨の顔を覗き込み、その顔の前で手を振る。しかし一向にそれに気づく気配がない。
だめだこりゃあ。
お手上げポーズをとり、ため息をつく。
それを前方から羨ましいそうに恨めしいそうに見ている目が幾つかあるのに俺が気づくことは無かった。
***
ようやく……、と言っても5分ほど歩いたところにそれはあった。
見渡す限り広がる
飯盒炊爨に必要だと思われる用具や材料は揃っていた。
「はい、じゃあ……班に分かれて飯盒炊爨と言えばの、カレーを作ってください」
担任のメガネは最後に手順は自分たちで考えて、と付け足した。
高校生だからってカレーが作れると思うなよ?
心の中でそう吼えてもそれが届くことはなく、ただニタっと笑う担任を腹立たしく思うしか無かった。
カレーの材料を取りに行く物。木炭やマッチ、新聞紙など火起こしに必要な物を取りに行く者と二手に別れた。
分け方は俺と優梨がカレーの材料で伊田くんと九鬼くんと村雨さんが火起こしの方だ。
こういう時って普通……、男子と女子で分けるもんじゃないの?
現に他の班はそうしてるし?
なんで俺らの班だけ……。
「そう思わない?」
「えっ!?」
そりゃあその反応だわな。会話なしで主要な部分は心の中だしな。
「んー、ウチもちょっと変かなって思うかな?」
えっ……。
「ん? どうしたの、ポカーンと口開けて」
優梨は俺の顔を覗き込んで不思議そうな
主語のない質問に的を射たものが返ってきたことに驚きを隠せないのだ。
「……、だよな」
ようやく言葉を絞り出すもそれだけだった。
「まぁ、何でもいいからさぁ。早く行こっ。みんなもう行ってるよぉ?」
無邪気にニコニコと笑い優梨は言った。
***
3合のお米と人参や玉ねぎ、ジャガイモなど野菜とルーののったトレーを俺が持ち、ボウルに包丁、まな板など調理器具を優梨が持つ。
重い方を男の俺が持つ。まぁ、至って普通の事だ。
「そっち、重たい?」
トレーの中に乗っている野菜類を視界にいれながら訊く。
「ん? 俺か?」
「うん。何かいっぱい入ってて重そうだなぁーって思って」
「まぁ、量は入ってるけど……全然平気だよ」
俺はニカッと少し歯を見せて笑った。
「そっかぁ」
優梨は優しそうな顔でそう告げた。
「優梨は? 重くない?」
優梨は小さくかぶりを振る。
「大丈夫だよ」
優梨の顔は朗らかだった。
俺もつられて笑顔をこぼした。
***
──ほんと世話のかかる奴らだな。
伊田くんは遠くを見る目で食材置き場へ歩いて行く2人を見て心の中で呟いた。
「いい漢だね、伊田くん」
村雨さんが憎たらしいほどの笑顔をみせる。
伊田くんはそっぽを向く。
「うるせぇ」
「またまたー」
九鬼くんは茶化すように伊田くんの肩をつく。
伊田くんがキッと鋭い睨みを利かす。
「ごめんごめん」
九鬼くんは悪びれた様子も無くそう言い軽く駆け出した。
伊田くんたちも追いかけるようにして木炭や軍手、マッチや火鉢、飯盒などが置いてある場所へと駆け出した。
「ふんっ」
逆立てた髪が風になびく。九鬼くんは遠くで仲良さそうに歩く2人を見てそう鼻を鳴らした。
***
笑顔は耐えることなく、俺たちは俺たちの
「仲良さそうだな」
伊田くんの憎みの籠った声音だ。
「べ、別に?」
思わず口ごもってしまう。
「別に、は無いでしょー?」
優梨はニタニタと笑う。そんな顔で見んなよ。
村雨さんはそんな俺らを横目で見ながら1つの目の
「村雨さん、手際いいね」
伊田くんは村雨さんを覗き込むようにして驚いたような表情を浮かべる。
「そう……かな?」
少し照れたような表情を浮かべる。
「そうだろ。いつも手作り弁当じゃない?」
「そうだけど……、よく知ってるね」
伊田くんの質問に村雨さんは目を見開いて驚く。
そんなの真横でやられても……。
困惑の表情を隠すにも隠せない。
2人にバレないようにして俺は野菜の乗ったトレーの上に包丁とまな板乗せて
「ったく……。校外学習中だぞ」
自分のことを棚に上げてボヤく。
「何ボソボソ言ってるの?」
不意打ちのようにして掛けられた声。それは夏穂の声だった。
何で?
顔を上げたそこに見慣れた夏穂の顔があった。
夏穂の手には俺の持ってるのと同じトレーがあった。
そうか……。この台は共有物だった。
「夏穂も切るのか?」
「うん。将大も?」
俺は玉ねぎを手に取り、持ち上げて頷く。
それに応えて夏穂も玉ねぎを手に取る。
俺たちは2人で声を上げて笑う。
「おアツイことだ」
村雨さんと話すのを止めた伊田くんが目を細め毒づく。
「だね」
相打ちを打つ村雨さんの隣で誰にも聞こえないほどの小声が吐かれる。
「……腹立たしい」
そんなことはつゆ知らず、笑いながら俺たちは玉ねぎを切り始めていた。
涙を目尻に浮べながらザクザクと切っている。
その仲睦まじい様子はどこのクラスの誰にも負けないほどだった。
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