第13話 俺、遅刻する
何気なくソファーの上でぼっーとする。今日、何日だっけ。昨日、色々ありすぎて曜日感覚無くなるぜ。
昨日と同じ服に身を包んだまま、俺はテレビをつける。
「ただいま7時49分。次はお天気です」
平日によく見る朝の情報番組だ。
って。ちょっと待てよ。平日によく見るやつってことは……、平日だよな。
それで夏穂と遊んだのはGW最終日。って、今日学校じゃんっ!!
たんまりと溢れ出てくる冷や汗。
「昨日風呂も入ってねぇーのに。こりゃあ遅刻だな」
急いでお風呂へと直行する。纏いし衣類を脱ぎ捨て、シャワーを浴びる。
できるだけ早く、しかし丁寧に。それを心掛け俺は全身をくまなく洗う。
それからお湯を沸かし、買い置きしているカップラーメンに注ぐ。
3分が待ち遠しい。今すぐにでも食べたい。が、まだめちゃくちゃ硬い。歯痛めそう。
ようやく3分が経ち、後入れのスープを入れて、かき混ぜてから一気に口へと運ぶ。
「あっちぃ」
思いの外大胆に入った麺が口の中に広がり、炎症を起こす。
みっともないほどに口を開ける。開けっぱなしの状態はアホの幼稚園児のようだ。とか言ったら怒られるんだろうな。
「って、時間ねぇーよ」
そこで俺はある疑問が湧き上がった。
『何故そこまで急いでいるのか』だ。
学校に遅れちゃダメなことは百も承知だが、今までの俺なら一限くらいサボろ、となっていたはずだ。しかし、今日ばかりは早く行って……。そうか。そういうことか。
自問自答する前から分かっていた。早く行って、早く夏穂に会いたいのだ。
「ふっ」
思わず笑ってしまう。恋しない。なんて言っておきながら滑稽だ。
口内に気を回しながらカップラーメンを食べ、その後制服に着替える。
きちんと時間割りを合わし、忘れ物をしないようにしてから最後に香水を軽く振って家を飛び出す。
最後に香水を振ったのはその……なんだ。良いように見られたいからだな。
***
学校までの道のりをこんなに急いだことはそうそうない。信号一つ引っかかる度にイライラする。帰り道ならよくあるのだが、行きで思うのは確実に初めてだ。
学校へ行くまでは計2つの信号を渡らないといけない。内一つ目は既に引っかかった。
そして二つ目の信号が目に入ったとき青だった。
「よっしゃ」
短く吐くと、思い切り地面を蹴る。瞬間、青が点滅を始める。
おいおいマジかよ。でも、ギリ間に合うか。
心の中でそんなことを思う。
しかし、信号は非情にも俺が横断歩道に辿り着くほんの数メートル手前で赤に変わった。
「くっそ!!」
息を切らしてまで頑張ったのにと考えると、腹立たしくなりその場で地団駄を踏む。
隣からは信号が青だと
「はぁー、はぁー」
大きく息を吐きながら隣から聞こえる。その吐息が男のそれとは違うことから女だというのはすぐわかった。
横目で確認すると俺と同じ高校の制服を着ていた。
珍しいこともあるんだなと思い、その子を見る。
「えっ……」
思わず声が漏れる。
「えぇー!?」
相手側からも声が上がる。
「夏穂、おまっ。どうして?」
「将大こそ。どうしてここに?」
正体は夏穂だった。走ってきたのか、髪の毛はあちらこちらにぴょんぴょん跳ねている。
「どうしてって、寝坊したんだよ」
バツが悪そうに頬を掻きながら答える。すると夏穂が吹き出して笑う。
「何がおかしいんだよ」
口を尖らせ言う。
「私と同じだから。私も寝坊したから」
可憐な笑みを浮かべそう言う。恐らく時間はもうすぐ8時半だろ。そんな時間帯に制服姿の男女が街中で笑っているのは傍から見れば変だろうな。
「遅刻すると将大と会える時間が短くなるって思ったけど、一番に会えちゃった」
夏穂は頬を赤く染め、少し恥ずかしそうにして告げる。
「お、俺もだ」
口の中だけでそう言う。
「えっ、なんて?」
篭もりきった音だけが届いた夏穂は聞き返す。
「何でもねぇーよ」
ため息を一つついてから俺は、夏穂の頭に手を動かす。
「はねてる」
「あ、ありがとう」
かぁぁと更に頬を染める。そうしているうちに信号が変わった。
俺たちはどちらからともなく、手を繋ぎ学校へと向かった。
***
「こらっ。遅刻だってわかってるの?」
手を繋いだまま登校した俺たちに女教師が叱責を浴びせる。
「八つ当たりすんなよー」
ちょうど1限を終えた生徒たちが女教師に向かってヤジを飛ばす。
この教師、ちょうど一週間前に彼氏に振られたらしい。
その後も少しの間、叱咤されたがまぁどうってことない。
それから今日は5限に席替えがある。
『授業態度悪いやつは一番前だからな』
担任の言った言葉を思い出し、今日一日本気で勉強している振りをすることに励もうと心に誓って、2限に挑んだ。
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