第8話 俺、気になってなんかないし
通常、日曜日といえば朝から「つぎの日学校か」と嫌気がさす日だ。
でも今日は違った。
「チッ、本当にあいつのせいだよな」
俺は歯ぎしりをしながら吐く。こんなに1日が長く感じるなんて、あの日以来だわ。
その日1日、俺はクソ夏穂の事が気になって仕方がなかった。
***
月曜日、学校に行くと更にその気持ちは強くなった。
「おっはよー」
クソ夏穂は俺の肩に手を当て言う。
「うっせー」
どことなく嬉しい気持ちが込み上げてくるのが手に取る様に分かる。
「今日も卵焼き、あるからねっ」
顔をどっと近づけ、甘ったるい声が耳元で囁かれる。
不覚にも少し心拍数が上がった気がする。
「……、お、おう」
鼻頭を少し掻きながら答えた。
昼休みになって、卵焼きを貰った。美味かった。
「本当に何なんだよ、俺!」
家に帰った俺は静寂な家に木霊するほど大きな声でそう言っていた。
そして母さんの仏壇の前に移動する。
チーン。俺は目を閉じ、両手を顔の前で合わせる。
母さん。俺、忘れてないから。俺……、もう、絶対……。
目頭が熱くなっていくのが分かる。あの日を思い出して、涙が込み上げてくる。
ピンポーン。
軽快な音が鳴る。土曜日のあいつ以来だな。もしかして……、と少し期待を持ちながらインターフォンを確認する。
隣のおばちゃんだ。クソ夏穂が来た日に電話してきやがったあの人だ。
「はい」
外用の声で返事をする。
「私。これ、これ持ってきたのよ」
それはどこからどう見ても回覧板だった。
はぁ、それくらい玄関の所に置いとけよ。
本気でそう思いながらもドアを開ける。
「はい、これね」
「あぁ、はい」
回覧板を受け取る。じゃあ、と言ってドアを閉めようとした時。
「それよりも、この前の女の子!」
おばちゃん特有の立ち話が始まった。
「どんな関係!?」
「さぁ」
「さぁ、ってことは無いでしょ!」
楽しそうに訊いてくる。
「いや、別に何とも」
「またまたー。好きなんでしょ?」
おばちゃんのその言葉に俺は即座にノーと答えるつもりで口を開いた。だが、出た言葉は思った言葉とは違ったものだった。
「分かりません。いまは」
「あらっ、そうなの?」
何でこんなこと言っちっまったんだよ。
「でも、あの娘。相当可愛かったわよ」
おばちゃんはそう言うと、俺の肩をビシビシ叩いてまぁ、頑張って! と言って帰って行った。
***
「1人には慣れたつもりだったんだが……」
自分で思っている以上に1人の耐性が付いていない事に嫌気が差す。
ボリボリと頭を掻きながら、俺はソファーに寝転がった。
ここに転んでると思い出すな、土曜のこと。それにあの悟って奴のことも気になる。
誰なんだよ、悟って。俺のこと好きとか言いながら別の男かよ。いや、まぁ、俺もその好きに応えてねぇーんだから、どうこう言う資格は無いのかもな。それでも、俺ん家まで来てんだぜ。それで他の男って何なんだよ。
てか、何で俺こんな事が気になってんだよ。
べ、別に好きなんかじゃないんだしよ。だから、き、気になってなんかねぇーよな?
最後は自分に言い聞かせる様だった。
そんな風に悶々と暮らしているうちに遂にゴールデンウィークまで来てしまった。あれからクソ夏穂が家に来たことは無かった。遊んだこともない。クソ夏穂と何かやったとすれば毎日弁当を一緒に食ってたぐらいだ。
明日が連休前最後の学校の日。ここで何らかのアクションを起こさねぇーと。って、俺がそんな事するのおかしいだろ。
色んな思いが交錯したまま、遂に連休前最後の学校の1限が始まった。
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