第5話 俺、訪問される

 翌朝7時。土曜日のこんな時間だって言うのに来客が来た。

 ピンポン、ピンポン、うるせーんだよ。

 幾度もなるインターフォンに苛立ちを覚えながら、新聞の勧誘とかだったらぶっ殺す、なんて思いながらインターフォンの通話ボタンを押す。

「はい」

 正真正銘怒りを込めた"はい"をぶつける。

「あっ、盛岡くん!」

 語尾に音符マークが付いていそうな、そんなノリだ。

 こんなはえー時間からそのテンションなのかよ。

「んだよ、帰れ」

 俺はそのまま通話を切る。

 玄関越しに何か言ってるのが聞こえるが無視して、リビングにあるソファーに転がる。

 本音を言えば二階に上がってベッドに戻りたいのだが、二階に上がっているうちに眠気が覚めるのが嫌だからそのままソファーにダイブしたのだ。


「ふぁー。ってか、あのクソ女。何で俺んち知ってんだよ」


 理解不能な出来事に俺は眠気を奪われかけていた時、追い討ちをかけるかのようにまたインターフォンが鳴った。

 恐らく俺からの返事が無いことで通話が切られたのが分かったのだろう。


「だからうっせーんだよ!」


 通話ボタンを押し、喚くだけ喚くとまた切る。


「ごめんなさい!!」


 通話が切られていることが分かったのか中にいる俺に届くように大きな声で言ってくる。

 すると不意に電話が鳴り響く。高らかに鳴り響く音は完全に俺の眠気を消し去った。


「もしもし」


 相手が誰かも分からないので俺は普通に出る。

 てか何でこのタイミングなんだよ。


「あの……盛岡さん?」


 老婆のかすれた声。あぁー、緊張して損した。ただの婆さんかよ。


「なんすか」

「アンタの家の前の女の子がうるさいよ」


 うっせんだよ、このクソババア。と思いつつも、はい、と返事した。

 泣く泣く俺は玄関の扉を開けた。


「おじゃましまーす」

「あー、うるせぇ、うるせぇ」

「そんな事言って~」


 いちいち可愛らしい仕草で言ってくる。あぁ、俺こんな女に……。ありえねぇ。


「それで、何の用だよ」

「昨日約束したじゃん!」

「はぁ!? 昨日……?」


 何かあったっけ……。俺は昨日の出来事を必死に思い出す。

 ……、やっべ。全く思い出せん。


「た・ま・ご・や・き」


 あのテレビのワンシーンでよくある「わ・た・し」と言うように顔を近づけてそう言ってくる。

 うぉ、ちっけ。てか、心無しか……こいつ普段と顔違うくね?


「台所借りるね?」

「えっ、あぁ」


 寝巻きのままの俺を物珍しそうに見ながら台所へと向かうクソ女。


「って、お前。名前何だっけ?」

「ちょっとー。酷いー」


 ふと気になり、俺は訊いた。別に知りたいとは思ってなかった。なのに聞いてしまった。


「品川だよ。品川夏穂しながわなつほ

「へぇ」


 興味無さそうに言った。夏穂か。でも、ちょっと気になった。

 でもやっぱり、が頭をよぎる。


「ねぇ、私も一つ聞いていい?」

「ん」

「ご両親は?」


 血の気が一気に引いていくのがわかる。俺はだんだん頭がクラクラする。


「父さんは海外出張。母さんは……死んだ」


 俺の悲しげな表情に夏穂はごめん、とだけ呟いた。

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