原罪の書庫 後編


「じゃあね、まずはお姉ちゃんたちの中から『自分が死んでもいい』っていう人、一人立候補してね♪」

「可愛い顔して、とんでもないことを言いますわねこの子……」


 屈託のない笑みから放たれる、悪意100%の一言にエルマリナ司教が若干引き気味になる。とはいえ、先に進みたければ黙ってエルに従うほかないのだが…………

 まるで生贄を差し出すような緊張感に、誰もが顔を見合わせる。このようなちっぽけな劇場のような場所で、どのようにして命のやり取りがされるのか見当もつかない。それだけに、余計に誰もが決断を躊躇するのだ。

 すると、しばらくの沈黙ののちに、まずはラヴィアが重い口を開いた。


「私が参りましょう。ほかの方々を命の危険にさらすわけにはいきませんから」


 そう言ってラヴィアは一歩前に出る。すると……


「そんな! 万が一にもラヴィアさんの身に何かがあっては大変です! ここは私が代わりに引き受けましょう!」


 ユリナがラヴィアをかばうようにして一歩前に出る。


「そうですよ! 司書長がここで大怪我でもしたら困るのは私たちです! しかしユリナさんだともっと危ないですから、ここは私が出ますよ!」


 負けじとネルメル司書が一歩前に出る。


「お待ちなさい。下々に行かせて自分が高みの見物というのは、司教として恥ずべきこと。命を懸けて道を開く役割…………この私が担いましょう」


 そしてエルマリナ司教もさらに一歩大きく前に出る。


「………………( Σ(゜Д゜;≡;゜д゜) )」


 一方で、壁画の絵を見入ってしまい、出遅れたセネカ。

 彼女は仮にも隊長である、ここで一歩前に出なければ仲間に示しがつかない。


「ば、バカモノ! こういうことは隊長である私が―――――」

『そうぞどうぞ』

「ふざけんな!」


 が、セネカが前に出た途端、示し合わせたようにセネカ以外の四人が一歩引き下がり、セネカに一番前を譲った。お約束とはいえ、命をかける場面でこれは、誰だって怒鳴りたくもなるだろう。


「お姉ちゃんが挑戦者だね!」

「あぁ、いいだろう。共和国軍人に二言はない!」


 やり方は解せないが、セネカは一度決めたことを翻したりはしなかった。エルにつられて舞台に上り、降ろされている真っ赤なカーテンを開く。するとそこには、絵本に出てくるようなファンタジー風の可愛らしい部屋があり、白を基調とした家具や子供が使うような小さな化粧台などがあるほか、とても大きな窓が三つある。それらはすべて演劇の舞台のセットで、シーンとしては昔話のお姫様のお部屋といった趣だ。

 レス・プブリカ的視点から見れば、これらのセットは『西方風』と呼称されるだろうか。


「さーて、じゃあお姉ちゃんは今からお姫様になりました!」

「私がお姫様……?」


 よりによってパーティーで一番(性格的に)女の子らしくないセネカがお姫様役となった。


「セネカさんがお姫様ですか…………」

「隊長がお姫様だなんて、何か凄まじいですねぇ」

「お姫様という存在を冒涜していますわ」

「お前ら少し黙れ」


 自分でも女らしくないと自覚しているセネカだが、改めて言われるとやはり頭にくるようだ。


「はいはーい、説明続けるよ。お姫様は実は今、敵の国にお城を占領されて、部屋に閉じ込められちゃってます! でも、お姫様は早く脱出しないと殺されてしまいます! そこで、お姫様は窓から外に逃げることを決意するのでした!」

「それはまたえらい状況だな……こんな可愛らしい部屋に似合わない緊迫した状態なのか」

「今お姫様の目の前には、窓が三つありまーす」

「見ればわかるな」


 改めて窓に目をやるセネカ。この窓だけほかのセットに比べてやたらリアルに作ってあるが、窓ガラスが真っ黒で向こうの様子が全く分からない。


「三つの窓のうち、一つは無事に脱出できる場所に出られるんだけど、もう二つは…………ハズレだよ」

「ハズレって何だよ…………」

「開けたら死んじゃうかもしれないってことかな」

「……………もしや、三つの扉から正解を一つ選べというのか?」

「その通りっ! お姫様には正解だって思う窓の前に立ってもらうよ。ただし、窓に背を向けた状態でね」


 セネカは若干困惑した。試練と聞いていたので、何か力試しをされるものかと勝手に思い込んでいた。だが、ふたを開けてみれば、始まったのは分が悪い運ゲーである…………これでは実力も何もあったものではない。それこそ、ユリナやエルマリナのような聖職者たちの方が、運がよさそうな分有利なのではないかとすら思う。


「ったく、いろいろと言いたいことはあるが、おとなしく指示に従わないと先に進めないだろうな。いいだろう、この三つの窓から一つ選んで、背中を向ければいいんだな」

「そーだよー。さ、さ、早く選んでー」

「ではなんとなくだが、ここにするか」


 セネカは、舞台下手 (観客席から見て左)の窓を選び、その前に立った。


「そこでいい?」

「ああ、私はここに決めた」

「そう。じゃあね…………観客のお姉ちゃんたちに、特別にハズレの扉を一つ見せてあげるね!」

『?』


 ここでエルは、なぜか一番右の窓だけを開けて見せた。

 そこには…………


「…………背景画でしょうか? 確かに塔の上に人がいるのが見えますね」

「なるほど、外は夜だから真っ暗なのですね」

「闇夜に乗じて逃げるつもりだったのでしょうか、お姫様は…………」


「塔の上に人が見える? まさか…………」


 セネカからは、開いた窓の様子は見えない。だが、ラヴィアの言葉から、何となく自分の置かれている立ち位置を確かめることができた。


「この通り、一番右はハズレでしたー! 選ばなくてよかったね! でも、まだどっちが正解かわからないよ!」

「焦らさんでいい、早く残りの窓も開けろ」

「んーとね、その前になんだけど……お姫様は今のうちなら、前に立つ窓を変えることができるよ。今のままで不安だったら変えてもいいけど、どうする?」

「窓を変えるだと?」


 ここで突然、エルはセネカに窓の変更をするかどうか聞いてきた。いったいなぜそんなことをするのか、疑問に思ったセネカ。だがここで、ラヴィアが何かに気が付いた。


「セネカさん、悪いことは言いません。窓を変えなさい」

「司書長……?」

「まあ、ラヴィアさん?」


 ラヴィアがセネカに訴える目は真剣そのものだった。


「むー、お兄ちゃんずるしちゃダメっ! それ以上ズルしたら『お兄ちゃんの思い通りにいかなくなる』からね!」

「む……」


 対するエルもなぜかいきなりぷんぷん怒り出した。

 お兄ちゃんの思い通りにいかなくなる…………意味不明な警告だったが、ラヴィアは黙るほかなかった。


「よし、窓を変えよう」

「いいの? 変えて? 軍人さんは二言はないんじゃなかったの?」

「いまはお姫様だから構わん。真ん中の窓に移動するぞ」


 セネカはラヴィアの意見に何か思うことがあったのか、素直に従って真ん中に移動した。


「はーい、それじゃあタイム終了っ! もう変えてほしくてもダメだからね! それじゃあ…………………オープン」


 エルの合図とともに、すべての窓が一斉に開いた。


「隊長! 伏せて!」


 ネルメルの叫びが響く…………その一瞬前から、セネカはすでに身を屈めていた。


 PAM! PAM!


 乾いた音が二発同時に響き、上手 (観客席から見て右)の窓と、セネカがいた真ん中の窓から煙と火薬のにおいが立ち込めた。開いた窓の向こう側には、先程見た塔の上の兵士の絵が銃を構えているのが見える……。


「残念でしたーっ! お姫様が選んだ窓はハズレでした。めでたしめでたし」

「めでたしじゃないだろうがっ! 私じゃなかったら即死だっただろ!」

「だいじょーぶっ! 初回限定サービスで空砲だったから、ショック死しなければ命に別状はないよ!」

「こいつ…………」


 相変わらず可愛い顔で今の言葉をずけずけ言うものだから、殴りたくても殴れない分非常に腹が立つ。

 一方で、観客だった4人はハズレを引いた瞬間は心臓が止まりそうになったものの、空砲だったと分かりほっと胸をなでおろした。


「隊長たいちょーさん……無事でよかった」

「すごい判断力でしたねー。もし実弾だったら私なんか今頃後頭部に風穴ができてましたよ。ですが司書長、なんであそこで変えるように言ったんですか? 結局元の位置が正解だったじゃないですか」

「それはまあ…………今は何とも言えませんね」

「ですがこれでは……試練は失敗ですので、近道することができなくなってしまいましたわ」


 エルマリナの言うとおり、試練に失敗してしまったからには、25階への近道は無しになってしまう。

 舞台の幕は下り、壇上にはエルとセネカしか残っていない。

 だが、まだ希望は残っていた。


「あれ? お姉ちゃんたちなんで落ち込んでるの? 私はまだ終わりって言ってないよ?」

「なに、まだ終わりじゃないのか?」

「もしお姉ちゃんさえよければもう一回だけチャンスを上げるよ!」


 なんと! エルはもう一度セネカに挑戦する権利を与えるというのだ!


「だけど、あたりの扉はさっきと同じじゃないし、今度は外れたら本物の鉄砲が飛んでくるよ。それでもよかったら挑戦する?」

「失礼ですが、セネカさんの代わりに私が行くというのは…………」

「ダメーっ、チャレンジャーは変えられないよ! もしここで命が惜しかったら、近道はできなくなるけど、中止することはできるよ」


 ラヴィアはセネカと交代しようと申し出たが、拒否されてしまう。だが、セネカは不敵な表情で、ラヴィアの申し出を制した。


「大丈夫だラヴィア。今度はさっきのようなヘマはしない。私が正しい道を信じる、それで文句ないだろう?」

「ですが…………」

「まあ見てろ」


 セネカは再びエルと舞台に臨む。赤色の幕が再び上がると、今度の風景は一変してお姫様の部屋ではなくて、薄暗い地下牢が舞台となった。冷たい質感の石畳に乱雑に置かれた鉄製の鎖、しっかりとした石組みの壁に人がやっと一人通れそうな窓が…………4つ。


「窓が増えたな」

「さてさて、お姫様はお部屋から脱出を試みましたが、敵の兵士たちに見つかって、牢屋に捕まってしまいました。ですが、ここであきらめるお姫様ではありません! 窓から逃げ出そう!」

「まえがきはいい。要するにこの4つの中から正解を一つ選ぶんだろう?」

「その通り! でも今回は自力で窓まで登ってね! お芝居でもそれくらいはしてね!」

「この鎖を使えば余裕だが、今になってようやく私でよかったなと思ったぞ」


 壁に開けられた4つの正方形の穴は、壁のやや高い位置に取り付けられていて、そのままだとジャンプではなかなか届かない。ユリナ司祭が挑戦者だったら間違いなく詰みだっただろう。


「ならばこの窓がいいかな」


 セネカはさっきと同じく舞台一番下手の窓を選択した。


「選んだ? じゃあ今回も、外れの窓を見せてみるよ!」


 すると、4つの窓のうち、真ん中の二つの窓が空いた。しかし、窓の外は相変わらず真っ暗で、何があるのか全く分からない。


「さーてお姉ちゃん、今なら脱出に使う窓を変えることができるよー! どうする?」


 またしても変えるかどうかの選択。先ほどセネカは、ここで選択肢を変えたばかりにハズレを引いてしまった。しかし、変えなかったからと言ってもアタリである保証はない。


「司書長……ひょっとしてエルちゃんはセネカさんを…………」

「私からは何も言うことはありません」

「そんな! いくらなんでも!」

「いまはセネカさんの判断力と運を信じるしかありません」


 さて、セネカの選択は…………


「よし、窓を変えよう」


「また変えるんですの!? さっき危ない目にあったばかりなのに!」


 エルマリナが思わず叫んだ。もしこの「変えていい」というのが、エルがセネカをハズレに導く罠だとしたら…………


「ファイナルアンサー?」

「ああ、共和国軍人に二言はない」

「それじゃあ、正しいと思う窓から外に出てみてね」


 すると、セネカが選んだ窓から一本のロープがするすると降りてきた。これを使って出ろということなのだろうが…………


「外に協力者でもいるのか? あまり命がけの脱獄という気がしないな」


 なんだか腑に落ちないという表情のままロープを上るセネカ。やがて窓に到達し引き戸を開けて窓の外に頭を出す――――――――次の瞬間!!


 PAM! PAM! PAM!


『!!??』


 三発の銃声が部屋に響く。それと同時に、セネカの姿が窓の外に消えた。

 観客席の4人は慌てて後ろを振り返った。なぜなら、先程の発砲音は彼らの後ろから聞こえたからだ。

 振り返ると、後方の壁の壁画にあるお城の屋上に兵士が銃を構えており、3つの小さな穴から煙と火薬のにおいが立ち込める。先程の発砲はそこからなされたものだとはっきりわかった。


「セネカさんは!?」


 再び舞台に視線を移すと、セネカが出ていかなかった3つの窓……すなわち上手以外の窓の引き戸には、銃痕がくっきりと残っている。エルの言葉は嘘ではなかった…………本当に実弾が使われたのだ。

 だが、三つの窓すべてに弾痕がある、ということは…………



「おいこら! 後ろから狙うとかさすがに卑怯じゃないか! 下半身に3つ目の穴が開くところだったじゃないか」

「あ、隊長たいちょーさん。女の子の下半身の穴は最初から3つありますよ」

「言ってる場合か色ボケ聖職者!」


 舞台裏の方からセネカの声が聞こえる。どうやら、彼女は無事生き延びることができたようだ。


「やったね! 正解おめでとー!」

「こんなことはもう二度とごめんだ!」


 ドンッ! という大きな音がすると、舞台背景のセットが勢いよく前のめりになり、エルを巻き込んでバタンと倒れる。どうやらセネカが舞台背景を思い切り蹴とばしたようで、倒れたセットの向こう側には、さっきのお姫様の部屋と着地マットの代わりにベットがあり、そのベッド御上に足を前に突き出したセネカが立っている。


「おねえちゃーん、舞台を倒しちゃだめだよ、危ないよ!」

「だまれ。ここまでされるとやり返さなければ気が済まん」


 自分で志願したとはいえ、危うく理不尽な理由で死にそうになったせいか、セネカはエルに仕返ししようとした。だがエルは、何事もなかったかのように、天井の照明を吊るすバトンにぶらぶらとぶら下がっている。いつの間にそこまでジャンプしたのだろうか?


「まあまあセネカさん。よく生きて帰ってきましたね。ほっとしました」

「言っただろ、私は簡単には死なないと」

「言ってましたかしら? しかし、いろいろと腑に落ちませんわね。エルちゃんはなぜわざわざはずれの窓をセネカさんにお見せしたのかしら。それに、途中で窓を変えるように促してましたし」


「それはね」


 エルがくるっと一回転してバトンから床に着地すると、今までの試練の真相を話し始めた。


「いまの試練はマスターが考えた思考実験なんだ」

「思考実験ですか?」

「だってさ、3つのうちから一つとか4つのうちから一つ正解を選ぶだけじゃ、ただのくじ引きと一緒だよね。だからマスターは、挑戦者の『考える力』を試すために、さっきのやり方を編み出したんだよ」


 マスター…………すなわち2代目司書長グランセリウスの思考実験とは?


「セネカお姉ちゃんは、どうして2回とも扉を変えるほうを選んだの? 私はてっきり「共和国軍人は自分の選んだ道を変えない きりっ☆」って言うかと思ったんだけどな」

「きりっ☆ ってお前…………」

「そういえばラヴィアさんも、変えたほうがいいって言ってました。何か関係があるのですか?」

「ええ。実はさっきの問題なんですけど、最初に選んだ答えより、後で変えた答えの方が正解率が2倍以上上がるからです」

「そうなんですか!?」


 ユリナとネルメルとエルマリナは、ラヴィアの言葉に目を丸くして驚いた。


「私もラヴィアと同感だ。初めは失敗したが、きちんと2回目で正解を引き当てた。もっとも、私が気付いたのはラヴィアがあのときアドバイスしてくれていたからだが」

「すごいね二人とも! そうなの、さっきの問題は変えたほうがお得なんだよ! でもね、マスターが言うには、普通の人…………とくに軍人さんはよっぽど柔軟な発想ができる人じゃないと、さっきの問題で変えることはほとんどないんじゃないかって」



 上記のからくりについて簡単に説明すると、3つの選択肢のうち一つが正解で、なおかつエルが正解とハズレの位置を知っている場合、初めに選んだ選択肢が正解の確率は3分の1で、外れの確率は3分の2になる。つまり、選ばなかった選択肢のうちどっちかが正解の確率は3分の2あることになる。

 この時エルが、セネカが選ばなかった選択肢から必ずハズレを選んで除外すると『初めに選んだ扉以外が正解の確率が3分の2』なのは変わらないので、残った選択肢が正解の確率は必然的に3分の2になる。

 これは2回目に選択肢が4つになった場合は、初めに選んだ選択肢が正解の確率は4分の1なのに対して、それ以外が正解の確率は4分の3になる。どっちが有利かは…………明確だろう。


「少しは運が絡むんだけど、少し考えれば正解する確率はぐっと高くなるんだ。まあ、それでも3分の1の確率でハズレっていう、お姉ちゃんみたいなちょっと運が悪い人は結構いるから、2回目まではやってあげることにしてるんだ。マスターも「将たる者、勝つために自分に有利になる材料は絶対に見逃すな」って言ってたしね」

「うーん…………私はいまいち納得いきませんけど、司書長が言うから正しいのかな……」

「ネルメルさん、地上に戻ったら納得がいくように説明してあげますよ」


 どうやらネルメル司書はまだ今回の試練について、若干納得がいっていないようだ。


「それに、もし2回目で隊長がせっかく選択肢変えたのにハズレを選んだらどうするの」

「あのねお姉ちゃん…………」


 エルの顔から笑みが消えた。


「そこまでしても、2度もハズレを引くようなとっても運の悪い将は、どんなに優秀でも無能おバカと一緒なんだよ」

『!!』


 今日一番の辛辣な言葉がエルから投げかけられる。その声と威圧感で、なぜか彼女の存在がとても大きく見えた。


(召喚霊と聞いてはいましたが…………2代目司書長は、一体どんな怪物を手なずけたのでしょう?)


 エルと名乗る可愛らしい少女。召喚霊だと自称する彼女は、もしかしたら元の世界ではとてつもない力を持った何かなのかもしれない。ラヴィアは初めから本能で彼女の中にある危険を感じてきたが、一連のやり取りでようやく確信した。



「はいっ! それじゃあお約束通り試練を突破したお姉ちゃんたちには―――――――」


 ガコンという音が聞こえると同時に、5人が入ってきた扉が勝手に開く。

 その向こうは……見た瞬間にわかる、今までいた書庫とは別の場所。

 明かりが煌々と輝く通路が奥まで伸びている。


「24階までショートカットをプレゼントしちゃいます!」

「まさかこの部屋全体が知らないうちに下に降りていたなんて……!」


 エルマリナは興奮しながら部屋の外に出ると「この先宝物保管庫」と書かれた看板が下がっている通路を見た。残る4人も、あっという間に目的地付近にたどり着けたことに、いまだに信じられない思いでいっぱいだ。


「ふふ…………ふふふ! とうとうここまで………!」

「私も心なしかわくわくしてきました! 聞いてただけの古代の品々をこの目で見られるなんて!」

「命を張った甲斐があったな!」


 今にも踊り狂いそうなテンションの5人組。

 いざ、目的のフロアへ赴こうとした―――――――――その時であった!





《GRRRRRRUUUUUUAA!!》



 




 地の底からの叫び声に、すべてが揺れた

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