エピローグ:手打ち式
アルカナポリス近海で起きた水難事故は、素早い救助と大勢の人の頑張りにより、半日でその作業を終えた。
乗員乗客合わせて480人のうち、死者は12名、行方不明者は3名で、後の人々は重軽症者問わず全員無事に生還することができた。
「犠牲者の方々に、黙祷を」
アルカナ大神殿では、ダウン高司祭を中心に、事故の犠牲になった人々を弔うための祭祀が行われている。
この集まりには官民合わせて約800名もの人が集まり、人々は皆その手に花束を抱えていた。黙祷の最中も、亡くなった者への想いを抑えきれず、涙を流し鼻をすする音が所々から聞こえる中、ラヴィアは真剣に目を閉じて、一心不乱に祈りをささげていた。
約3分間の黙とうの中、彼が心の中で何を思っていたかは定かではない。自責の念か、それとも感謝の念か……複雑な感情が入り乱れた目が、鎮魂の思いを壊してしまわないように、黙祷中は一切目を開くことはなかった。
ラヴィアの後ろには、司書サビヌスと、カトー・ポリオ両研究員が控えている。彼らもまた、ラヴィアと共に大図書館を代表してこの場に来ているのだが、実は今回の式典では重要な役割が待っていたりする。
「では、前の方から順番に献花をお願いします」
黙祷が終わると、参加者たちが次々に献花台に花を添えてゆく。この時、捧げるべき花はいくつか決まっているのだが、複雑なので説明は省略する。
「どうか来世では水に気を付けてくださいね」
「…………」
花をささげるとともに、犠牲者に言葉をかけたラヴィアだが、言葉の内容が若干アレだったので、後ろにいたサビヌスはツッコミを必死になって押さえていたという……
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「続きまして、このたびの功労者の方を表彰いたします」
犠牲者の追悼が終わると、次は今回の救助で活躍した人々に対して大神殿から表彰が行われることになっている。レス・プブリカには、各国の王様や皇帝のような存在がいないので、代わりにこういった表彰や褒美は神殿を通して行うことで、神様からお褒め頂いているという体裁を取っているのである。
「駐留軍総司令官ドラベスクス殿、大図書館司書長ラヴィエヌス殿。そなたらは此度の事故において、人々を迅速に指揮し、被害を最小限に食い止めてくれた。西の建国神イシュタル様と東の建国神イシス様は両名の活躍にお喜びである。よって、神々の代理としてアルカナ大神殿が、栄誉を授けることとする」
「勿体なきお言葉」
「謹んでお受けいたします」
まずは現場の指揮を執った二人に対して、ダウン高司祭から勲章が授与される。
ラヴィアとドラベスクスが先頭に立って頑張ったからこそ、救助活動が上手く進んだのだ。この叙勲に異を唱える者はほとんどいないだろう。
このほかにも、城門の衛兵に全力で危機を知らせてくれた漁師や、とっさの判断によって、早く救助体制が整うきっかけとなった衛兵隊長などが次々と表彰される。そして…………
「フロド研究所所属研究員、カトー殿、ポリオ殿」
「はっ!」「ここに!」
「そなたらは、負傷者のために薬を調合し、人々の命を救ってくれた。西の薬の神ノバルティスならびに東の生命の神ロシュより、お褒めの言葉を授かっている。これからも、人々の命を救うために活躍を期待しているとのことである。両名には、神々の代理としてアルカナ大神殿が、栄誉を授けることとする」
現地で回復薬の調合を行い、遭難者たちの体力回復に貢献したカトーとポリオも表彰されることとなる。
神殿から薬の性能に不合格をもらったのが3日前だっただけに、神々からの熱い掌返しに二人は動揺を隠せなかった。だが、これで少なくとも「神々から研究結果を突っぱねられた」という汚名は見事返上だ。同僚やほかの研究所から、こっそり後ろ指を指されることは、もはやないだろう。
「おう、あの悪人顔高司祭様に面と向かって表彰された気分はどうよ」
「…………おそらく生涯で最も緊張したかもしれません」
「それ以前に……自分のような平民でも、あの台に上り事は許されるのですな」
「はっはっはっ! そうかそうか! いつもは自信満々のお前らでも緊張するのか!」
壇上から降りてきた二人を、サビヌスがやや乱暴に出迎える。
ラヴィアもまた、わが子が褒められたかのような嬉しそうな表情をしていた。
「よかったですねお二人とも。あの壇上に上がることは、共和国民にとってこの上ない名誉ですからね」
「ええ、それはもう……」
「自分たちはただやるだけのことをやったまでですから……」
「なんだ、ずいぶんと謙虚になったじゃねぇか。素直に喜べよ、な!」
実はカトーとポリオにとって、人から褒められるのは久しぶりだったりする。
あまりにも偉くなってしまった二人は、立場上上の人間がドッセンヌス所長だけとなり、更には研究成果においては突出していただけに、直接的に褒めてくれる人がいなかったのだ。二人は改めて、研究者をやっていてよかったと感じたに違いない。
しかし、同時に気にかかることもあった。
「司書長……今回の沈没事故の原因は、もしや我々にあるのではないでしょうか?」
「原因がお二人にですか? なぜそう思うのです?」
カトーとポリオは若干戸惑ったように、ラヴィアに尋ねる。
「我々が対立してから、神殿からの両成敗宣言、そして今回の水難事故……タイミングがあまりにも良すぎませんでしょうか」
「もしや……神々が我々の罪を咎め、そして気付かせるべく大事故を起こしてしまったのではないかと」
「なるほど、そういうことでしたか」
二人が思っているように、今回の事故のタイミングはあまりにも都合が良すぎたと言える。
一番気持ちが沈んで、深く反省していた時期に、それも普段術回復を行っている神官たちが遭難したというシチュエーション、そして自分たちを詰問するためにやってきたフロド商店の当主も被災するなど、偶然という言葉では片づけられないことが多かった。
それゆえ、神々が自分たちへ罰を下したという考えが浮かんでくるのは、この時代においてはある意味当然と言える。
「私は、神様の罰が当たったとは思っていません。もし、罰を与えるのならあなた方に直接下せばいいわけですし、一番被害にあっているのは無関係の人々……それも、いつも神様たちに尽くしている神官の方々なのですから、いくらなんんでもやりすぎです。もし本当に神様の罰だとしたら、そんな神様は冥府に落ちるべきです」
「し、司書長! ここは大神殿ですから、そのようなことは!」
「そうですとも……! いくらなんでも言い過ぎでは!」
「ふふふ、まあ実際のところ、神話の時代のような人が少なかった時期ならば有り得るかもしれませんが、今やこの国だけでも500万もの人々がいるのです。些細な問題にいちいちかまっているほど、神々も暇ではないでしょうね」
当人たちはこれだけ苦労したというのに、結局神々にとってはどうでもいいことなのである。世の中の問題の大半はそんなものだ。
「さ、式典も終わったことですし、帰りましょうか。お二人にはまだやることが残っていますからね♪」
『…………はい』
ラヴィアたちは、追悼行事が終わってすぐに大神殿を後にした。
そう、肝心の決着はまだついていない。一件落着というのは、まだ早い。
「しかしラヴィア、まだユリナさんは帰ってきてないみたいだぜ。なんでそんなに急ぐ必要があるんだ?」
「…………いいではありませんか。のんびりしていても、することはありませんし」
つい癖で早く出てきてしまったとは、口が裂けても言えないラヴィアであった。
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その日の午後、研究棟の玄関前において、カトーとポリオの手打ち式(いわゆる仲直りの式)が行われた。
「やれやれ、フロド研究所の連中もこれで少しは大人しくなるだろう」
「ってかそもそも何が原因で仲たがいしたんだっけ、あの二人?」
「えっと…………なんだったかな?」
薬草畑の境界争いがまさかここまで規模が大きくなろうとはだれが思っただろうか。
一連の大騒動は、研究棟内で起きた歴代の事件の中でも異色であったため、手打ち式を一目見ようと研究棟の住人だけでなく、大図書館の学者たちまで集まる大騒ぎとなった。
「では、これよりカトー、ポリオ両名の公開手打ち式を行う。二人は司書長の前に出よ」
『はっ』
司会進行のサビヌスが、二人をラヴィアの前に出るよう促すと、カトーとポリオはそれぞれ大仰な歩き方で、左右から出て並んだ。
まずは、ラヴィアから今回の事件の発端となった、争いの採決が申し渡される。
「お二人とも、今回の一連の騒動でしっかりと反省しましたか?」
ラヴィアの言葉に、二人は深々と頭を下げた。
「よろしい。今回御二方が申し出た争議は、フィリスさんが使っている土地をどちらが使用できるかということでしたね。ですが、それ以上に問題となっていたのは、双方が自分の研究ばかりを優先し、同じ研究所内で深刻な対立を作り出していたことです。本来であればすぐに終わる裁決が、ここまで伸びてしまったのは、そういった蟠りが長年溜まっていて、一気に表面化したからにほかなりません」
カトーとポリオの対立によって、実に多くの関係者がとばっちりを食らうことになったが、その中で一番労力を奪われたのは、ラヴィアに他ならない。
ただでさえ多忙な日々の中で、貴重な時間を割いて一研究所に根差す悪習を、懸命に打破した。だが、本来であれば、それは研究所内の人たち自身で解決しなければならないのだ。ドッセンヌス所長をはじめ、フロド研究所の職員たちもまた、自らの迂闊さを反省することになる。
「それを踏まえて、判決を出しましょう。今後、フロド研究所所有の薬草畑は、
研究員の人数で平等に使用し、1人1アール以上は使用を禁止します。それ以上の面積を使いたい場合は、町の郊外に専用の畑を設けますので、そちらを使用するように」
『承知いたしました』
結局、ラヴィアは薬草畑の一人あたりの使用制限を設け、過剰な土地の使用を禁止した。これによって二人は、今占有している面積を大幅に削られてしまうことになるが、大図書館の中庭はこれ以上畑を作る面積がないので、大規模な作付は郊外の畑で行うことになる。
土地を過剰に使っていたのは、フロド研究所の二人だけではなかった。
二人ほど極端ではないにしろ、やはり権力を笠に立場の弱い研究員の土地を横取りしていた者もいたのだ。彼らは少なからずカトーとポリオを憎く思ったが、やり方がよくないことは自覚しているため、強くは言い出せない。
「みんな分かったか。中庭の薬草畑は、あくまで大図書館からの借り物だってことを忘れるなよ。好き勝手に使いたかったら、自分たちで畑を作れ! いいな!」
『わかりました』
「よーし、ラヴィア様の有難いお言葉をもらったところで、二人に手打ちの宣言をしてもらおうじゃないか。カトー、ポリオ! 向かい合って握手しろ!」
「握手……」
「こやつと……」
サビヌスから握手しろと言われ、困惑する二人であったが、結局渋々手を結んだ。
「いいか、二度と喧嘩なんてするんじゃねぇぞ。お前らが仲直りしたってことは、司書長をはじめここにいる全員がその場で見ているんだぜ、男だったら誓いは破るなよ!」
二人は完全に和解したとは言い難かったが、それでもこれだけの人の前で強制的に仲直りさせられては、もう表だって対立することは難しくなるだろう。あとは本人たちの努力次第だ。
「カトー君、一つ言っておきたいことがある」
「なんだねポリオ君?」
「そなたが作っているアゾット…………あれは作成効率が非常に悪い。だが、作り方や調達方法を見直せば値段は5分の1以下になる」
「なんだと? いったいどうやって?」
「場合によっては手伝ってやらんことも無いぞ。ただし貸は高くつくがな」
「ふん……大層な自身だな。だがなポリオ君、君の作ったラゴーナはあのままでは永遠に未完成だ。その気になれば様々な用途に使える薬品のベースになるだけに、非常にもったいない」
「ほほう? それは本当かね?」
「ま、それには私の知識が不可欠だろうがな。どうしてもというなら、教えてやることもやぶさかではないぞ」
「お前ら……本当に仲良く出来るんだろうな?」
いい年した男同士のツンデレというのは、なかなか見苦しい……
「まあいい、何にしろ今までのことはこれですべて水に流したな!
後は二人で親睦を深めるだけだな! というわけで、今日は食堂で手打ちを記念してパーティーの準備がしてある! 食事代はすべて司書長が持ってくれるから、皆で遠慮なく飲み食いしようじゃねーか!」
『おおっ!!』
「え、なんですって……?」
なんと、用意がいいことにサビヌス果て内祝いのパーティーを開催してくれるようだ。ところがラヴィアだけは、なぜか唖然とした顔をしている。
「サビヌスさん…………私は何も聞いていないのですが。それなのに食事代は私持ちとはどういうことですか? 司書としてきちんと説明責任を果たしていただけますでしょうか」
「ま、まあ落ち着けって! なんか笑顔が怖いぞ! だってお前、この間俺だけ置いて他の司書どもと外食しに行っただろ! 不公平じゃねーか!」
「なるほど、その意趣返しということですか……」
いつの間にか費用が、自分の負担になっていることに納得がいかなかったラヴィアだったが、以前サビヌス抜きで街の酒場に飲みに行ったことを指摘されると、何も言い返せなかった。食べ物の恨みというのは恐ろしい物である。
「…………そういうことでしたら仕方ありません。ただし、こういったことは今回限りですよ」
「へへへ、サンキューラヴィア!」
こうして、薬草畑の境界騒動に端を発した事件の数々は、今度こそ大団円で終わった。ようやく肩の荷が下りたラヴィアだった、ふと一つだけ気になることを思い出す。
「誰か、フィリスさんにあとで私の部屋に来るように言っておいてください。私は一足先に執務室に戻ります」
「フィリスを司書長の部屋に……ですか? あの子が何かしたのでしょうか?」
「いえ、大したことではありません。ただ、ちょっと聞きたいことがありまして」
ちなみに、フィリスは今この場にはいない。
彼女は大神殿で療養中のデゼルギウス院長のお見舞いに行っているのだ。一応夕方までには戻ってくる予定らしい。
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「し、しつれいしまーす!」
「フィリスさんですか。どうぞお入りください」
すっかり陽が暮れたころ、ラヴィアの執務室にフィリスが一人でやってきた。
自分が呼ばれた理由が分からない様で、部屋に入ってからも落ち着けずにおろおろしている。
「わ、私…………何か悪いことしちゃた?」
「そんなことはありませんよ。ちょっとだけ聞きたいことがありましてね。そこに座っていいですよ」
彼女の不安を和らげるために、ラヴィアはやさしく微笑みながら、椅子に腰かけるよう促す。そして、椅子にちょこんと座ったフィリスを落ち着かせるために、甘い香りのするハーブティーを入れてあげた。
フィリスがハーブティーを一口すすり、落ち着いたところを見計らうと、
ラヴィアは彼女に目線を合わせるように中腰になりながら、一つの質問をした。
「フィリスさんは、マンドラゴラを院長先生に上げようと思って育てていたんですよね」
「うん」
「どうしてマンドラゴラをあげようと思ったのですか? 皆さんは悪魔の植物だと信じていましたが、怖くはありませんでしたか?」
ラヴィアの頭に残っていた最後の疑問というのは、どうしてフィリスがマンドラゴラを育てていたかということだった。フィリスは一体どこで、どうやって、巷で危険な植物だと誤解される植物を入手したのだろうか。
「ええとね……マンドラゴラお花は所長さんからもらったの。育てるのは少し大変だけど、綺麗なお花が咲くから、院長先生に見せればきっと喜んでくれるって言われて」
「あら、ドッセンヌスさんがですか。これは意外ですね」
「でも…………怖い植物だっていうことは知らなかったから……」
どうやら、フィリスにマンドラゴラを勧めたのはドッセンヌス所長らしい。
意外な人物に、ラヴィアは若干驚いたが、植物学の権威でもあるドッセンヌス所長なら、確かに知っていても不思議ではないだろう。
「それでね、そこに植えればいいかわかんなかったから、所長さんが育てる場所を貸してくれた」
「育てる場所を貸してくれた……! なるほど、そういうことだったのですね!」
「……?」
「ふふふ、あの所長さんも一見頼りなさそうで、実は中々の策士だったのですね」
フィリスの話を聞いて、ラヴィアはようやくこの事件の全貌が見えたような気がした。
恐らくドッセンヌス所長は、日ごろから二人の対立がエスカレートしていることに悩んでいたが、自分が止めに入っても二人は耳を貸さないだろうと思われた。そこで、研究所内では数少ない中立の立場であり、かつ全員に可愛がられていたフィリスに、自分の土地でマンドラゴラを栽培させ、最悪の事態になった際のストッパーとしたのだろう。
マンドラゴラは見事二人の間の境界線に立ちふさがり、結果的に本格的な争いを避けることが出来たのであった。
「ありがとうございます。フィリスさんのおかげで、最後の疑問が溶けました」
「……? どういたしまして」
「まったく、世の中何が役立つかわからないものですね。私も、今回の事件は学ぶことが多かったですから。ではフィリスさん、そろそろ皆さんが仲直りのパーティーを開くころです。私たちも行きましょうか」
「仲直りしたの?」
「そうです、仲直りしたんです」
「うれしい……」
こうして、気分が晴れたラヴィアは、フィリスを連れて大図書館の食堂に向かった。時間的にパーティーがそろそろ始まっている頃かも知れないが、自分の分が残っているかの心配はいらなそうだ。
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「おいラヴィア! 名裁きをしてくれ!」
「何事ですか、藪から棒に」
ラヴィアが食堂に入った途端、サビヌスが訳の分からないことを言ってきた。
とりあえず、何が起きているのかを説明させてみる。
「実はだな、ネルメルとブルータスが睨み合いを始めやがって!」
「それで私に、急遽争いの採決をしてほしいと?」
「その通りだ! このままでは殴り合いになっちまう! なんとかしてくれ!」
めでたい席で、一体何を争っているのか……。
ラヴィアが二人がいる席に向かうと、そこではネズミのような小さな司書と蛇のような細長い司書が、今まさに相手の喉笛を噛み切らんと、目線で火花を散らし合っていた。明らかにただ事ではない。
「いったいどうしたのですか二人とも」
「司書長! ちょうどいいところに!」
「おうラヴィア! 聞いてくれよぉ!」
「ブルータスがから揚げにライムを絞ろうとしているんです! しんじられないでしょう!」
「なにょう!? てめーこそなんでから揚げにレモンなんだよ! 邪道じゃねーか!」
「………………」
争いの原因は、どうやらから揚げにレモンをかけるかライムをかけるかの論争だったようだ。
呆れて言葉を失うラヴィアだったが、このままでは二人ともヒートアップして何をしでかすかわかったものではない。
「別に取り皿に分けて、そこでかければよいのでは?」
「いいえ、もはやこれはそういった解決では済まされません!」
「前々から気に入らねぇと思ってたんだ! 今こそ決着をつけてやるぜ!」
「…………そうですか。お互い譲る気はなさそうですね」
この時、ラヴィアの中で何かが切れた。
「では、お二人はすぐにから揚げにかける柑橘類について、レポートを書いて私に提出してください。レポートの出来によって、私自身が裁決いたします」
「望むところよ! 今すぐ何枚でもレポートを書いてきます!」
「そうこなくっちゃなぁ! 首洗って待ってろよ!」
ラヴィアは、とりあえず二人にレポートを書かせることにする。
ネルメルとブルータスは、せっかくのパーティーの最中であるにもかかわらず、自室に論文を書きに戻って行ってしまった。
「おいおい、あれでよかったのか?」
「本人たちがそれを望むのですから、好きにさせておけばいいのです。私たちはその間に、心行くまで楽しむとしましょうか♪」
「お、おう……」
こうしてラヴィアは、煩い二人をさっさと排除して、パーティーを楽しむことにした。せっかく大仕事を終えたのに、それを台無しにしてくれたラヴィアなりの罰だ。
それに、もし二人がレポートを完成させてきても、その時は飛び切りの笑顔で、冷酷な判決を突き付けてやるつもりだった。
から揚げは、何もかけないのが一番です―――――と。
今日も大図書館は、人々の優秀な知性と、寝る間も惜しむ忍耐と、飽きることのない欲望で動いている。
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