第10話 He's not a Doppelganger
椿が消えてから三日後、俺と七瀬はあの公園に来ていた。
「ねぇ、柊」
「何?」
「その……この前ケンカしたって言ったじゃん、親と」
「ああ、そうだったな」
「その理由なんだけどさ、私、またアメリカに行かなきゃいけなくなったの。親がアメリカに戻るんだって」
そんな理由だったのか。また七瀬と離れなくちゃいけないのか。
「そっか……」
「そっかって悲しくないの?私いなくなっちゃうんだよ?」
「悲しくないわけないだろ。俺だってできるなら行かないでほしいさ」
やっと、七瀬と一緒に居られるようになったんだ。また離れるなんて嫌だった。
「だったらさ……」
七瀬の声が急に小さくなる。
「どうした?」
「だったらさ、助けてよ。私を止めて。アメリカに行かなくていいようにして。……いいかな? 私のヒーロー」
「ハハハ……フゥーハハハ」
あの時の椿みたいな笑い声が、俺の口から出ていた。
「何、急にどうしたの?」
七瀬はその笑い声に面食らったみたいだ。狼狽えている。
「わかった」
「えっ」
「わかったよ。俺が止める。アメリカになんか行くな。俺と一緒に居てくれ」
とても無責任な言葉だ。でも七瀬が望むなら、俺は無責任でもそうしたかった。いや、どんな無責任な発言にも、責任を持ちたかった。
「うん、ありがと」
七瀬の返事は単純で、真っ直ぐで、俺はそれがただただ嬉しかった。
まだまだ問題は山積みだ。俺の学校生活は結局暗いままだし、七瀬のアメリカ行きを止める方法もわからない。それでも七瀬が隣にいてくれるなら、俺の存在を証明してくれるなら、それだけいい。それさえあれば、俺が自分の存在を不安に思うことはない。
「ねぇ、じゃあ名前で呼んでよ」
「名前? クリスティーナか?」
「違うそっちじゃない」
俺の未来は希望に満ちている。こっから先は誰にもわからない、椿も経験していない新しい未来だ。その第一歩に、俺は一番大切な人の名前を呼んだ。
「行くか、千由」
「うん、京介」
ドッペルゲンガーと人生を交換した話 湯浅八等星 @yuasa_1224
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