第8話 クリスティーナ

七瀬クリスティーナ千由。

これが私の名前。アメリカで生まれた私には、クリスティーナというミドルネームがあった。

両親はどっちも日本人だったけど、アメリカで暮らすのに不自由がないようにと、つけられた名前だった。


アメリカではみんな、クリスと私を呼んだ。

この名前は別に嫌いじゃなかった。でも、日本に来てこの名前は枷になった。

日本の学校に転校して、その時も私は、このクリスティーナという名前を特に隠すことはしなかった。

でも、この名前は日本では普通ではないらしく、私はからかわれた。変なの、と。

それから私はこの名前が嫌いになった。


その後も、私は学校に馴染めなかった。

それも当然か、名前をからかわれた日から、私はずっとむすっとした顔で、誰とも話さなかった。誰に話しかけられても、先生も、学級委員の子も、私にしつこく話しかけてくる男の子にも。

本当に可愛くない子供だったと思う。


ある日、また名前をからかわれることがあった。

確か相手は隣のクラスの子達で、アメリカからきた珍しい私を見に来たとかだった気がする。

それで、その子達に、変な名前と言われた。

私は多分、泣きそうな顔をしてたと思う。

でも、それを必死に隠すように、むすっとした顔をしていたんだろう。

あと少しで本当に泣いてたかもしれない。

でも、私が泣くことはなかった。私が泣く前に、私のヒーローが私を助けてくれた。


「変じゃないよ。かっこいいじゃん。クリスティーナ」

彼はそう言った。私にしつこく話しかけ続けてた男の子、柊 京介。

ずっと無視してたのに、それなのに彼は私を助けてくれた。

私の名前をかっこいいと言ってくれた。

この日自分のクリスティーナという名前を、私は大好きになった。

そしてその日から彼が私のヒーローになった。

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