第7話 存在了解のメルト

「これが僕の人生です。どうですか?面白かったですか?」

俺はしばらく声を出せなかった。

何を言っていいのかわからなかった。


「嘘だ」

やっと出た言葉は、とても小さい声で、聞こえるか、聞こえないかくらいのものだった。

「嘘じゃないですよ。逆に他に何か思いつくんですか、僕達が似ている理由」

「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ」

「ちょっと、落ち着いて、柊」

そういった七瀬の声も震えていた。


「落ち着けるわけないだろ。こんなの、嘘だ……」

つい声を上げる。

「何回も言わせないでくださいよ。これは真実です。さっき言ったでしょ、僕はあんまり嘘をつかないって」

「こんなの、嘘だろ。なんで、じゃあ俺が生きてきた、十五年はなんだったんだ。お前の模倣なのか。お前が、生きてきた道をただ、たどってきただけなのか」

それは、あまりにも残酷なことだった。


「そうなんじゃないですか。所詮あなたはコピーなんですよ、僕の。貴方初めて会った時言いましたよね、お前はドッペルゲンガーなのか?って。その時僕言いましたよね、違います、と。繰り返し言いますけど、僕は嘘をあまりつかない。僕がドッペルゲンガーなんじゃない、貴方がドッペルゲンガーなんですよ、僕の。だから僕は生き残るために貴方を消さなくてはいけない。自分を証明するために」

「じゃあ、まさかあの看板は」

「そうですよ、僕が落としました。貴方を殺すために」

「なっ……」

「まぁ、失敗しましたけどね。貴方も運がいいですよね。まさかあんな寂れた所に、人が通りかかるとは。あっ、知ってますか? 自分の顔をしたやつを殺そうとするのって、結構神経すり減るんですよ」


「どうして……どうしてそんな……」

「どうしてって、許せないからですよ、貴方が柊 京介でいることが、その席に座るべきなのは僕だ」

「そうか……もういいよ……疲れた。勝手にすればいい。どうせ俺はコピーなんだろ。ドッペルゲンガーなんだろ。確かに、消えるべきは俺だ」

もう俺はなにも考えたくなかった。俺の十五年は。全部決められたコピーだったんだ。そこに俺の意思はなかった。俺に存在する意味はなかったんだ。


「そうですか、よかった、思ったより物分かりいいですね。その通り、貴方はコピーなん……」

「そんなことない!」

椿の言葉を遮ったのは七瀬だった。

「あんたは、柊はコピーなんかじゃない。だった、あんたは私を助けてくれた、何回も、何回も。ねぇ、覚えてる? 私の名前。あんたが意味をもたせてくれた、私の名前」

名前……クリスティーナ……

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